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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百六十九話「おもしろそうねぇ」

 テトル達と別れ、その姿が見えなくなってしばらく経った頃のことだった。

 ララはハンドルを握って目を前に向けたまま、後ろに座るロミに話しかけた。


「そういえばさ、どうしてプラティクスなの?」

「はい?」

「果物が有名って言ってたけど、別にそれだけが理由って訳じゃ無いんでしょう?」

「まあ、そうですね。そちらは第二目標というか、おまけみたいなものです」


 ララの言葉にロミは頷く。


「あの時はディジュさん達がいらっしゃったので言おうかどうか戸惑ったんですよ」

「ということは……」

「レイラ様から頂いたメモと、オビロン様から頂いた地図。そのどちらにも、プラティクスの場所が示されていたんです」

「そういうことかぁ」


 それを聞いてララは納得する。

 レイラが彼女達に提供したメモには、教会や『秘密の花園』が独自に収集した古代遺失文明の遺跡の在処が示されている。

 オビロンから貰った地図は、それよりも更に精度が高いものだ。

 その二つの指し示す点が重なる場所ともなれば、信頼性はほぼ確実と言ってもいいだろう。

 それに、その点が示すのは古代遺失文明の遺跡だけではなく、ララの船の一部という可能性もありうる。


「ディジュの例がある以上、可及的速やかに船を回収する必要があるわよね」


 現地の住民であるディジュが、不完全ながらも精密作業工作室を扱うことができた。

 その前例ができてしまった以上、各地に散逸した他のパーツが悪用されないとも限らない。


「……動力炉とか扱い間違えたら文明滅びそうだし」

「今なんだか物騒なこと言いませんでした!?」

「なんでもないわよー」


 驚くロミにひらひらと手を振って、ララは誤魔化す。


「それに、これに積んでる精密作業工作室も情報管理庫(ライブラリー)と接続しないと真価を発揮できないし、動力炉(リアクター)がないと作業効率はかなり落ちるのよね」

「今でもまだ十全にその能力を発揮できていないという事実が信じられないのですが……」

「そんなもんよ、ウチの技術なんて」


 未だ底の見えないララの持つ超技術に、ロミは震える。

 彼女が本気になれば、今の段階でさえ敵う者は皆無で、辺境程度瞬く間に制圧されてしまうのだろう。

 その確信が、ロミにはあった。


「ともかく、それじゃあプラティクスでの目標は古代遺失文明の痕跡もしくは私の船の一部の発見ね」

「そういうことになります。今回も張り切って頑張りますよ」


 ララの総括に頷き、ロミは思考を放棄する。

 今大切なのは、自分がすべきことを考えることだ。

 その時、タイミング良く窓の外からイールの呼ぶ声が聞こえる。


「おーい、二人とも」

「どうしたの?」


 ララが窓を開けて、ロミがそこから顔を出す。


「何かありましたか?」

「もうすぐプラティクスに一番近い村に着くからな。こいつで乗り込むのはどうなんだ?」

「ああ……」


 イールの案ずる所はロミにもよく分かった。

 はっきり言って、ララの繰るこの巨大なモービルは異質以外の何物でも無い。

 突然そんなものがやって来たら、混乱は必須だろう。


「うーん、どうしよ。……迂回する?」

「物資がちょっと心許ないな。村で食糧を少し補給したい」


 ララの提案を、イールは首を振って拒否する。

 コパ村を発って数日、幸か不幸か魔物にも出会わなかったため、道中の食事は全て携帯食料だけで済ませていた。

 その結果、プラティクスに辿り着くには少し足りない程度の備蓄しか残っていなかった。


「こんなことならコパ村で荷台に沢山積み込んどけば良かったわね」


 何のためのトラックだ、とララが眉を寄せる。

 ポトからもっとパンを買っておけば、多少は違ったかも知れないというのに。


「まあ今更言っても仕方ないさ。どうする? あたしだけで行って、必要な物を買ってくるっていう手もあるけど」

「んー、できるだけ単独行動は避けたいよね。……トラックはその辺の茂みに隠して皆で行きましょう」


 少しの思案の後、ぽんと手を打ってララが言う。


「いいのか? 大切なもんなんだろ?」


 それに驚いて、イールが目を丸くする。

 ララはそんな彼女を見て、不思議そうに首を傾げた。


「まあ大切っていうか替えの効かない物だけど……。一応警備システムは積んでるし、どうこうできる奴がいるとは思えないのよね」

「……そうか」


 驕りでもなんでもなく、ただ単純に客観的事実に基づく評価だった。

 確かに、冷静に考えればそれもそうだろう。

 ララにはそう納得させるだけの力と実績があった。


「ま、それに一応サクラは留守番に置いておくし。いいよね?」

『ええ、承りました。ていうか私もこのモービルと同じくらい注目を集めてしまいますし』

「それもそうよねー」


 一時期はペットやら魔導具やらと言って誤魔化していたが、いちいちそうやって取り繕うのも煩わしい。

 今後、サクラがモービルの見張りとなることが決定した瞬間だった。


「そういう訳なので、どこか手頃な物陰に隠します」

「はいよ。そういうことなら、あの辺でいいか?」


 ララの話を聞いて、イールは前方を指さす。

 街道から少し逸れた場所に、小さな森があるのが見えた。


「地図によると、村とそれなりに近い森みたいですね。恐らく村人の方も森に入ると思われますが、大丈夫でしょうか」

「大丈夫よ。その程度で見つかるほど柔な隠し方しないから」


 懸念するロミに向かって、ララは頼もしくそう言ってのけた。

 その後すぐ、モービルは森の中へとタイヤを進ませる。

 高い木々が密集し、青々とした葉が繁茂する森の中は薄暗く、暗い迷彩色に塗装したモービルが入るとかなり目立ちにくい。


「これだけでも十分隠れるな」


 案外いけるもんだ、とイールはロッドの背の上で関心する。


「まあね。この辺で良いかな」


 得意げに鼻を鳴らし、ララは車を止める。

 そしてハンドルから手を離すと、所狭しと並んだボタン類をいくつか操作する。


「あ、イールちょっと離れててね」

「はいはい」


 ララの警告に従い、イールがモービルから距離を取る。

 すると、モービルを中心とした円形の範囲が白い光に覆われる。

 光の外から眺めていたイールの目には、トラックが半球状の光に包まれたように見えた。


「こ、これは一体?」


 怯えたロミがララに尋ねる。


「簡単に言えば光学迷彩ね」

「簡単に言われても分からないのですが……」


 そんな会話を交わしているうちにも変化は進む。

 白い光はやがて空気に溶けるように消え、そこには何もないただの森林が広がっていた。


「こりゃすごいな……」


 間近で見ていたイールがため息をつく。

 先ほどまでそこに確かに見えていたトラックが、きれいさっぱり姿を消していた。


「どう? おどろいた?」


 そこへ突然、虚空から溶け出すようにララが現れる。

 彼女の後ろにぴっとりとくっついて、ロミも一緒だ。


「ああ。これならそう見つからないだろ」


 イールは感心した様子で言う。


「あとは一応、無意識にこの辺に近寄りたくなくなる感じの超音波も発して人払いして、タイヤ跡はサクラに消しておいて貰うわ」


 これだけしておけば大丈夫でしょ、とララが太鼓判を押す。

 その意味の全てを理解できたわけではないが、イール達も一応安心はした。


「それじゃあ村に行きましょうか」

「そうするか。とは言っても買い物だけだけどな」


 そうして、三人は森を抜けて、遠くに見える村の影を目指して歩き出す。


「そういえば、村の名前は?」

「ああ、なんだっけな――」


 †


「マーポリ村へようこそ! 何にも無い村だが、まあゆっくりしてってくれ」


 ララ達が村の雑貨屋を訪れると、店主の男はそう言って快く彼女達を歓迎した。

 ここ、マーポリ村はコパ村と同等程度の規模の、小さな村だった。

 ただ村にギルドの支部があることだけが違いである。


「携帯食料を見せてくれないか?」

「ああ。そこの棚に大抵のは揃えてるよ」


 ララ達のような旅人が良く立ち寄る村なのか、店主は慣れた様子で店の一角を指し示す。

 村には宿もあり、実際に旅人らしき姿の者も何人か散見された。


「あんたらもプラティクスに行くのかい?」

「ああ、そのつもりだよ」


 商品を吟味しつつ、イールは店主の世間話に乗っかる。

 ララは物珍しげに店内を歩き回って、ロミが心配そうにその後ろを追いかけていた。


「やっぱり、あれが目当てなのか?」

「あれ?」


 怪訝な顔をしたイールに、店主は驚く。


「なんだ、あんたら竜闘祭を観に行く訳じゃ無かったのか」

「竜闘祭……。名前だけは聞いたことあるな」

「なんだそりゃ。今の時期っていやあ竜闘祭の参加申し込みがそろそろ終わるって頃合いよ。毎年これくらいになるとそれを見物しに旅人が沢山やってくるのさ」


 本当に知らなかったんだな、と店主は苦笑いを浮かべた。


「竜闘祭ねぇ。おもしろいの?」


 そこへ話を聞きつけたララがやって来る。


「そりゃあおもしろいさ! なんてったって、辺境中の猛者が集まって最強を決めるんだからな」


 店主は興味津々のララに機嫌を良くしたのか、舌をよく回して丁寧に説明してくれた。

 それによれば、竜闘祭というのはプラティクスが年に一度開催している祭りの名前だった。

 都市にある巨大な闘技場で腕に自信のある戦士達が技量を比べ合い、強者の名誉を掛けて競い合うのだという。


「あんたらも折角プラティクスに行くんだったら、ぜひ見て行きなよ。すごい迫力だぜ」

「ああ。良い情報をありがとう」


 去り際、店主はそう言って親指を立てる。

 そんな彼の話を聞いて、ララはすでに期待に胸を膨らませていた。


「竜闘祭……。おもしろそうねぇ」

「……目的わすれるなよ?」


 そんな彼女を一瞥して、イールが思わずため息をつくのだった。

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