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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第六章【合わせ鏡の双子】

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第二百六十二話「なんで?」

 一行がコパ村の側の沢に到着したとき、丁度赤い夕日が山の尾根へと沈みきった。

 家々の窓から漏れ出るランタンの明かりと、僅かに姿を覗かせる月の光の中を進み、宛がわれた小屋に帰還を果たす。


「ほら、降りられるか?」


 イールが、ロッドの背に乗っていたディジュに手を貸す。

 小柄な彼女は少し躊躇した後、ぎゅっと目を閉じて飛び降りた。


「ほい、到着。ここが今の私たちの拠点よ。もう遅いからご飯だけ食べて、ちゃっちゃと寝ちゃいましょう」


 ドアを開けながら、疲れた声でララが言う。

 なんだかんだと波瀾万丈な一日で、誰もがくたびれていた。

 満場一致で全員が頷き、ぞろぞろと小屋の中へと収まっていく。


「サムズへの報告も明日で良いか」

「今日する気は起きないわね……」


 鍋と火の準備を始めながら、ララが言った。

 彼女が鍋を持って水を汲みに行っている間に、イールとロミが食事の準備を始める。

 勝手知ったる仲の三人は、特に言葉を交わさずともそれぞれの仕事をこなしていた。

 その間、ディジュは壁に背を当てて足を折り、両手で抱えるようにして頭を埋めていた。

 三人もそんな彼女に声を掛けず、そっと落ち着くままにした。


「ほら、ご飯できたわよ」


 ディジュはゆさゆさと肩を揺らす動きと、鼻腔をくすぐる良い香り、そしてそんな優しい言葉で目を覚ました。

 自分でも知らぬうちに眠っていたらしく、彼女はくしくしと目元を擦る。


「す、すいません私、寝てしまって……」

「あれだけ疲れてたらしょうがないさ」


 慌てるディジュに、イールは軽く返す。

 その間にロミが木の器にスープを注ぎ、全員に回す。


「とりあえず何か食べた方が良いですよ。お腹が空いてると、余計悲しくなっちゃいますから」


 そんな言葉と共に器を差し出すロミに、ディジュは俯きがちにありがとうと感謝を述べる。


「じゃ、食べましょうか」


 ロミが自分の器にもスープを注ぎ、号令を掛ける。

 全員が器と匙を持ち、夕餉が始まった。


「ああー、疲れと空腹は最高のスパイスね」


 肉ブロックと香辛料を投げ入れただけのスープに舌鼓を打ち、ララが目を細める。

 味に飽きるほどに食べた料理だが、今日だけは格別の一皿である。

 瞬く間に器を空け、お代わりを注ぐ。

 イールもロミもそれに続いて我先にと鍋をのぞき込んでいた。


「どう? おいしいでしょ」

「……」


 ララが隣に座り込んだディジュの顔をのぞき込む。

 村へ帰る馬上でも、ララ達が料理を準備している間も、ずっと塞ぎ込んでいたディジュは、ゆっくりとした動きで匙を口に運んでいた。


「……甘い」

「そ、そうかな? スパイス効いてると思うんだけど……」

「とっても、美味しいです」


 ディジュの声が震える。

 驚いたララが彼女の目を見れば、土色の瞳に大粒の涙が浮かんでいた。

 ララはふっと表情を緩めると、食事を再開する。

 

「味が分かるなら、もう大丈夫よ」


 その言葉を聞いてか、ディジュは涙を白衣の袖で拭うと、勢いをあげて食べ始めた。

 生命の衝動を感じたような気がして、ララは胸の奥にじんわりと広がる熱を覚えた。


「食べたら寝なさい。ぐっすり寝たら、気持ちも晴れるわ」


 そんなララの言葉通り、食事を終えたディジュは、スイッチが切れたように深い眠りへと落ちていった。


 ◇


 その翌日のことだった。

 ララはドンドンとドアを叩く音で飛び起きる。


「何事!?」

「さあな」


 同じく目を覚ましたイールも首を傾げ、ドアの方を見る。

 ディジュはまだ深い眠りにあり、ロミもいつも通り泥のようだ。


「おーい、いないのか?」


 ドアの向こうから声が届く。

 それは、この村のまとめ役であるサムズのものだった。


「はいはい。おはよー」


 相手が分かれば安心である。

 ララが側に置いてあった服を着ながらドアを開けると、いつもと同じがっちりとした筋肉質な男が立っていた。

 いつもと違っているのか、そのサムズが少し焦っている様子だったことだ。


「どうしたの? なんかあった?」

「いやな、さっき変な魔導具に乗った奴らがやって来て、お前らに会わせろってうるさいんだ」

「変な魔導具?」


 サムズの言葉に、ララとイールは一瞬で剣呑な顔になる。

 彼女達の頭に浮かんだのは、ディジュを狙う追っ手。平たく言えば『錆びた歯車』の残党だ。

 とはいえあの洞窟には既に他の構成員はいないはずであり、ディジュがここにいるというのも知り得ないだろう。


「ちなみに、どんなやつだ?」


 己の予想を確かめる為、イールが尋ねる。

 サムズは顎に指を当てて眉を上げた。


「薄赤い長髪で、白い服着たチビだよ」

「……あー」


 その言葉で、二人は察する。


「すぐに準備して会いに行くって伝えて頂戴」

「あいよ。じゃあ集会所で待ってるからな」


 ララが言付けを頼むと、サムズは快く引き受けて去って行った。


「それじゃ、行きましょうかお姉さん」

「……なんで来たってよりも、なんでこんな早く来たって疑問が浮かぶなぁ」


 おどけるララに、イールは苦虫を噛み潰したような表情で答える。

 二人はロミをたたき起こし、ディジュもついでに起こして身支度を調えると、早足で村の中央にある集会所へと向かった。


「イールお姉様! ララお姉様! 会いたかったですわ!」

「……朝っぱらから元気だなぁ」


 彼女達が集会所のドアを開けるや否や、耳の奥にじんじんと響くような声に襲われる。

 イールが眉を寄せながら視線を戻すと、そこに立っていたのはやはりテトルだった。

 壁際には数人の『青き薔薇』の隊員達が並んでいる。


「そりゃあ夜を徹して魔導自動車でやって来ましたから」


 むん、と胸を張るテトルに、ララ達が目を丸くする。


「もしかして寝てないの!?」

「あ、いえ。交代で運転しましたから仮眠は取っていますわよ」


 一応、身体を労るのは忘れていないようだ。


「それでまた、なんでやって来たんだ? 遠話の首飾りじゃできない用事か」


 テトルは頷くと、イール達の背後に視線を向けた。


「その方がディジュさんですね?」

「正確に言えば本物のディジュだがな」

「本物?」


 首を傾げるテトルに、イールが軽く昨日のことを説明する。

 テトルは驚き、そしてショックを受けてたじろぐ。


「……そうでしたか。それは」


 掛ける言葉が見つからず、テトルが眉を下げてディジュを見る。

 状況の分かっていないディジュは、彼女を見返してきょとんとしていた。


「それで? 用事はなんなんだ?」

「そうですわね。……単刀直入に言いましょう。ディジュさん、私達の所で研究を続けてみませんか?」

「えっ!?」


 テトルの言葉に、ディジュが声を上げて驚く。

 驚いたのはララ達も同様だった。


「い、いいの!? ディジュの研究って禁忌なんじゃ……」

「把握の上ですわ。それを加味しても貴女の能力は捨てがたい。レイラとも密に話し合った上で決めたのです」

「そんな……」


 毅然とした姿勢で言い切るテトルに、ディジュは困惑を隠せない。

 まさか自分が、そのような言葉を掛けられるとは思っていなかったらしい。


「そういえば、私のことを教えるのを忘れていましたわね。私、ヤルダ評議会の下で『秘密の花園』という組織を取り仕切っていますの」


 その組織名は聞いたことがあるのだろう。

 ディジュの動揺は目に見えて大きくなる。

 それも不思議ではない。

 敵対していた組織の長が直々に現れ、手を差し伸べているのだから。


「なんでまた『秘密の花園』に取り込もうとしてるんだ?」

「もちろん、ディジュさんの能力を評価しているからですわ」


 胸を張ってテトルが頷く。


「でもなあ……」


 イールが歯切れ悪く言葉を漏らし、ララと目を合わせる。

 テトルはそんな二人の様子に首を傾げた。


「ディジュは、『錆びた歯車』の構成員だぞ」

「………………はえ?」


 イールの放った爆弾に、テトルはしばらく硬直する。

 やっとのことで口から漏らしたのは、可愛らしい声だった。


「なんで?」

「いや、なんでって言われても」


 信じ切れないテトルの問いかけに、イール達は戸惑う。

 事実である以上、他に言うこともない。


「……むしろ、僥倖なのかもしれません」


 しばらく長考していたテトルは、ふっと顔を上げるとそう行った。


「いいの? 敵対組織よ?」

「だからこそ、ですわ。『錆びた歯車』の残党は数が少なく、拘束できているのはイライザのみ。他にも情報源が欲しかったところですから」


 そう語るテトルの顔に嘘は見られない。

 臨機応変な彼女の対応に、ララは思わず目を見張る。


「そういうわけで、ディジュさん。改めて聞きたいのですが」

「は、はい!」


 テトルはララ達の後ろで身を縮めていたディジュに視線を向ける。

 ディジュは緊張して背筋をぴんと張った。


「私たちの『秘密の花園』へ、いらっしゃいませんか?」


 ふっと花のような笑みを浮かべ、テトルが手を差し伸べる。

 ディジュはぷるぷると震えながら思い悩み――


「よ、よろしくお願いします……」


 そっと彼女の手を握った。

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