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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第六章【合わせ鏡の双子】

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第二百五十五話「それじゃあ本丸に行きましょうか」

 二つの魔石を指の間で弄びながら、ララはなだらかに下へと続く洞窟を進む。

 不可視の敵があのゾンビ一体だけとは限らないため、常に警戒はしているが、ずっと何十分も続く単調な道は、それだけで思考を麻痺していく。

 咄嗟の事態に対応できるため、常に神経を張っておくため、多少なりとも変化が欲しくて彼女は手のひらの中の感触を確かめていた。


「魔石って、なんなんだろうね?」


 赤黒く、ほのかに光を発する結晶を眺めて、ララが首を傾げる。

 彼女の呈した疑問に、後続の二人は呆れた様に眉を下げた。


「何って、臓器の一種だよ」

「魔力を蓄え、放出する器官ですね。おおよその魔物は食事を通して魔力を得て、それを胃から魔石に送って蓄えているそうです。そうして、魔法を使用する際にはそこに蓄積した魔力を利用するというわけです」


 この手の話に詳しいのはロミである。

 彼女はつらつらと滑らかな舌で解説する。

 それを聞いて、ララはふうんと下顎に手を置いた。


「要は魔法を使うために必要な器官なのよね」

「そうですよ。魔石の純度によって、使える魔法の質や同時に発動できる数が変わるんです」

「そっかぁ……。それじゃあ魔石が二つあるっていうのは」


 そうですね、とロミは少し思案する。


「単純に威力は二倍になる他、別々の魔法を二つ同時に使うとか、魔力共鳴現象を利用することもできるかも知れませんね」

「魔力共鳴現象?」


 また登場した専門用語に、ララはげんなりと肩を落とす。

 魔法の理論的な話は、まだ彼女の理解が及ばない。


「特定の魔力波同士を接触することで、単純に二倍するよりも大きな魔法力を得ることができるんです。例えば――」


 そう言って、ロミはそっと人差し指を立てる。

 短い詠唱を経て、その指の先に数センチの小さな青い火が灯った。


「これは、最も初歩的な発火の魔法です」

「知ってる。いつも火起こしに使ってるし、イールに最初に見せて貰った魔法もそれだったわ」

「うん? ああ、灯火の魔法か。懐かしいな」


 唐突に名前を挙げられたイールが二人の方を見る。

 かつて彼女がララに見せた火はオレンジ色の暖色だったが、そのあたりの色は自由に変えられるらしい。


「それで、こっちにもう一つ」


 ロミが杖を持っている方の手を前に出し、再度詠唱する。

 同じ程度の大きさの、赤い火が杖の先に灯る。


「なんだか曲芸師みたいね」

「同時発動はかなり高度な技なんだけどな」


 興奮してパチパチと手を打ち鳴らすララ。

 イールはさらりと見せられた高等技術に思わずため息をつく。


「最近はやってないので分からないですが、昔二百七十色までは出したことありますよ」

「あたしやララが言えたことじゃないけど、ロミも大概化け物級だぞ……」


 誇る様子も無くロミの口から飛び出した言葉に、イールが苦笑する。

 ララにはいまいちそのすごさが分からないが、この世界の常識的に考えてもかなりの規格外らしい。


「ともあれ、この二つの小さな火をこうやって近づけると……」


 イールに構わず、ロミはそっと青い火を杖の先に近づける。

 そして、青と赤が接触した瞬間、洞窟を眩い光が走り抜けた。


「きゃっ!?」

「このように、普通に魔力を消費して作り出すより強力な魔法を使えるんですよ。これが、魔力共鳴現象というものです」

「め、目が……」


 自慢げに語るロミ。

 その前後で、ララとイールが突然眼球を襲った光の波に耐えきれず呻いていた。


「ご、ごめんなさい」

「次からはちゃんと警告してくれ……」


 壁によたれ掛かって目を覆う二人に、ロミはしゅんと肩を降ろす。

 彼女は魔法のこととなると、少し周囲が見えなくなる質らしかった。


「とりあえず、魔力共鳴現象についてはよく分かったわ。それで、その現象が魔石二つで起こせると」

「はい。そういうことです。今思えば、あのアームズベアの驚異的な身体能力は魔力共鳴が起きていたからかも知れません」


 イールが奥の手まで使い、心臓を直接潰さなければならなかったほどの強敵。

 その姿を思い出し、ロミが睫を伏せた。


「それじゃ、さっきのゾンビも魔力共鳴?」

「いえ、あれは魔力共鳴では説明が付きません。魔力共鳴はあくまで1を10や100に増幅するものであって、ゼロを1にすることはできませんから」

「そっかぁ。じゃあ何だったんだろ」

「一応、仮説は思いついてるんですが、流石に突拍子もなさ過ぎるので……」


 すっきりしない様子のララ。

 ロミも自分でも納得のいかない考えを披露するのも気が引けるのか、その続きをいおうとはしなかった。


「ま、なんであれあの奇妙な能力は十中八九二つの魔石由来だろ。それ以外に特に変わった様子は無かったしな」


 そんな二人に、後ろから声を掛けるのはイールである。

 彼女はあまり難しく物事を考えず、そう結論付けた。


「それよりも、今重要なのはあれがどうやって生まれたか。ないしはこの洞窟がどこに繋がってるかだ」

「それもそうですね」

「だね。さっさと奥まで行きましょう」


 イールの言葉で、二人も気を持ち直し、一行はまた歩速をあげる。

 そうして、その後十分程度で、洞窟の終端に辿り着いた。


「ここが終わりか?」

「みたいね。……第三の目の残骸も回収できたわ」


 無残なガラクタと化した偵察機を手に取り、ララがいう。

 彼女はそれらを全て長方形のインゴットに纏めた。


「それじゃあ、ここから更に奥があるか調べましょうか」


 そう言って、ロミは早速あたりを見渡す。

 とはいえそれほど広くもない洞窟内。

 サクラの探照灯に照らされた範囲が全てである。

 ゴツゴツとした岩場に、手がかりになりそうな物はない。


「参ったな。どうしたもんか……」


 頭に手を当ててイールが途方に暮れる。

 壁をナイフの柄で叩いてみるが、向こう側に空間があるようにも見えなかった。


「――『戦闘形態移行』」

「ちょ、ララ!?」


 ぼそりとララが呟く。

 にわかに白く輝き始めるのは、彼女の左腕だ。

 いつもの如く危険を察知した二人は、素早く退避行動に移る。


「まどろっこしい事しないで、壁ぶち抜けばいいのよ」


 そう言って、彼女は左手を洞窟最奥の壁に添える。

 ヴヴヴ……、と何かが微振動する音が壁面に反響する。

 光は強さを増し、パチパチと電流が走る。


「待て待て、もうちょっと待て!」

「ララさん!」


 慌てて二人は洞窟の坂道を駆け上る。

 どれほどの被害があるかも予想できない今、彼女達にできるのはただその発生源からできるだけ距離を取ることである。


「――もういいよね?」

「よし、大丈夫だ!」


 ララの背中が米粒ほどの大きさになったあたりで、イールはようやく振り返ってGOサインを出す。

 その足下では、身をかがめたロミがぎゅっと目を閉じ両手で耳を覆っていた。


「『空震衝撃(エアーショック)』!」


 いつか岩の魔物すら砕いた一撃。

 それは大地を揺らし、轟音を響かせる。

 イールは思わずしゃがみ込み目を閉じる。

 まるで地震のような激しい揺れが二人を襲う。

 落盤さえ覚悟するような、腹の奥を突く揺れを、たった一人の小さな少女が起こしたという事実は、彼女達でさえ俄には信じられない。


「二人とも、開いたわよ」


 揺れが収まってしばらくして、前方からのんきな声が届いた。

 イールが恐る恐る目を開けば、サクラの探照灯に空気中を漂う粉塵が照らされている。

 まるで雪のように地面へ落ちるその向こう側で、ララは白い歯を零して立っていた。


「ほら、扉が開いたわ」

「……そういうのはこじ開けたっていうんだ」


 イールは震えているロミの肩を叩き、彼女に手を貸す。

 瓦礫が落ちる坂道を歩いて、ララの元へ向かう。


「まあまあ、道が見つかったんだし細かいことはいいじゃない」


 そう言ってララが穴の奥を見る。

 そこは、おぼろげに光を放つ魔石が壁に埋め込まれていた。

 床は古い木材で覆われ、天井は低い。

 今まで歩いてきた洞窟とは打って変わって、明らかに人工的な建物だった。


「この奥から魔力反応があります」


 気を取り直したロミが言った。

 その言葉に、二人は喉を鳴らす。


「それじゃあ本丸に行きましょうか」

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