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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第六章【合わせ鏡の双子】

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第二百四十九話「もうちょっと味を変えたい」

「ただいまー。お水汲んできたわよ」

「おかえり。さっきサムズが来て調理道具一式貸してくれたぞ」


 ララとロミが貸し小屋に戻ると、イールは装備を外した楽な格好で火箸を握っていた。

 部屋の中央ではパチパチと薪が爆ぜ、赤く彼女の頬を照らしあげている。

 床まで伸びるイールの長い赤髪は、そんな炎の光を受けてより艶やかに輝いていた。


「お鍋に薪に、包丁とまな板まであるわね」

「これだけ揃っていれば、色々作れそうですね」


 サムズが提供してくれた道具類は、彼女達がここで生活をするのに十分すぎるほどのものだった。

 簡素な木箱に詰め込まれたそれらを取り出しながら確認し、ロミがやる気に満ちた目を光らせる。


「とはいえ、肝心の食材が何もないのよね」

「今夜は携帯食料を使わないといけませんね」


 焚き火を囲む石の上に鍋を置き、水を注ぎながらララが嘆く。

 調理道具は一揃いしたが、新鮮な食材はない。

 ひとまず今回は飽き飽きした味の夕餉になるだろう。


「そうだ、さっき村の人に出会ったよ」


 ララは荷物の中から食料の入った袋を取り出しながら、イールに話しかける。

 ポトとの話をすると、イールは眉をあげて興味を示す。


「へぇ、村一番のパン焼き上手ね」

「今度お邪魔してみましょうよ」

「いいね。まあ、今回の件が片付いたらだけどな」


 抜け目なく釘を刺すイールに、ララは面白いようにしょげる。

 そんな二人の様子を傍目に、ロミが慣れた手際で調理を進める。


「今日の夕飯は何?」


 良い香りが漂ってきたことに気が付いたララが、ロミの手元を見やる。

 彼女は包丁を使い、沸騰した鍋の中にミートキューブを切り入れていた。


「ミートキューブと干しパンでパン粥を作ろうかと」


 湯の中にミートキューブを溶かすと、カチカチに硬化していたそれはゆっくりと溶けていく。

 元々、スパイスと干し肉を合わせて押し固めたミートキューブは、煮溶かすことで簡易的なスープにできる。

 ロミはそこへ同じく硬く水分を失ったパンを折るようにして切って投げ込む。

 ぐつぐつと煮込むこと数分で、どろりとしたパン粥ができあがる。


「簡単なものですが」


 各自の器に装う。

 旅の途中、火と水が使える場合にはよくメニューに登場する一品だ。

 当然、ララとイールも嫌というほど食べ続け、今では見るどころか香りを嗅いだ瞬間に味が想起される代物である。


「美味しくない訳じゃ無いんだけどなぁ」

「まあ、変化はないよな」


 器を手に持ち、ララ達は揃って匙をかき込む。

 柔らかく水分を吸ったパンと干し肉の欠片が、じゅわりと溶け合う。

 初めて食べた頃こそ野営食としては随分美味しい物だとララも気に入っていたが、今ではもうなんの面白みもない。


「せめて、もうちょっと味を変えたい」

「ですよね……」


 そんな二人の反応も予想していたロミは、苦笑いで頷く。

 彼女もまた、この味にはかなり飽きが来ているのだ。

 たまにチーズを入れたりすることもあるが、逆に言えばその程度のアレンジしか施せない。

 旅荷の軽量化を図る関係で、あまり多種多様な食材を持ち歩く訳にもいかないのだ。

 それに、水が使える環境だからこそこのように多少なりとも調理して食事を行えるが、これが水も使えないような場所での野営なら、三人揃ってひもじくもそもそと硬いキューブとパンを囓るだけで終わる。


「ごちそうさま」


 なんだかんだと言いつつも、ちゃんと残さず完食し、イールが器を置く。

 舐めたように綺麗な器を見ると、調理人であるロミの口元にも自然と笑みがこぼれるというものだ。


「干し果物ならありますよ」

「ちょっと貰うー」


 ロミが神官服のポケットから小さな袋を取り出す。

 中に入っているのは、数少ない甘味である干し葡萄である。

 ララは二、三粒取り出すと、大切そうに一粒ずつ味わって食べた。


「さて、腹も膨れたところで作戦会議と行こう」


 全員が食事を終えたのを確認して、イールが切り出す。

 薪を新たに追加しつつ、ララが頷く。


「作戦会議って言っても、明日あの巣穴に行って奥を探索するだけでしょう?」

「まあ、端的に言えばそうだ。そうなんだが――」


 イールは頷きつつも言葉尻を濁す。

 彼女はそっとララの背後、ずっと静かに浮遊しているサクラの方を見た。


『へ? わ、わたしがなにか?』


 まさか自分に注目が集まるとは思っていなかったのだろう。

 サクラはキョロキョロと忙しなくカメラアイを動かして狼狽える。


「あそこは視界も悪くて危険だ。ララとサクラが納得してくれたらでいいんだが、サクラがまず単独で潜入してくれないか?」

「そういうことね」


 イールの意見はもっともだ。

 暗い巣穴の更に奥へと広がる闇。

 それも隠し扉によって巧妙に隠されていた場所である。

 どんな危険が潜んでいるかも分からない以上、彼女としてもおいそれと足を踏み入れることはできないのだろう。


「でもね、ごめん。サクラってこう見えて結構大事なのよね」

『こう見えてってどういうことですかね?』

「まあ、そういう訳で私たちに危険があるようなところに、サクラを単独で忍び込ませるって言うのはちょっと」

「そうか……。分かった」


 ララの反対を聞いて、イールは素直に頷く。

 彼女とて、すんなりと納得してくれるとはあまり考えていない様子だった。

 しかし、そんな彼女の言葉を待たず、ララは更に口を開く。


「でも、第三の目だったら送れるわよ」

「第三の目……。ああ、以前フゥリンと戦ったときにも使っていた装備ですね」


 ロミが手を打って頷く。

 第三の目は、ララが特殊金属を用いて作成する小さなカメラアイだ。

 その性能は索敵に特化しており、言わば廉価版のサクラと言ってもいい。


「これもまあ惜しいと言えば惜しいけど、サクラをなくすよりはよっぽど良いわ」

『うぅ、ララ様……』


 すっぱりと言い切るララに、サクラはカメラアイを明滅させる。

 涙を流さないサクラなりの感情表現だった。


「そうか。それじゃあ、明日はララの第三の目に先行偵察してもらって、安全が確認できたら突入しよう」

「一応、わたしの魔法索敵もしていいですか?」

「むしろお願いしたいわ。私じゃ見逃す痕跡があるかもしれないし」


 イールの決定に異論は無く、ロミの申し出もララは快諾する。

 そもそも、ララの保有する技術とロミの保有する技術とでは分野が違う。

 複数の視点から状況を分析できるのならば、そちらの方が見落としがないだろう。


「レイラとかテトルとかに連絡しとかなくていいの?」

「まあ、明日の調査結果次第だろ。ただの巣穴だったらそれでいいし、あの隠し扉の向こうに何かあるんならそれも一緒に報告すりゃいい」


 それもそうか、とララは頷く。

 どちらにせよ今日はまだ少しの違和感を見つけただけに過ぎない。

 本格的な調査を行う明日の結果の如何によって、報告する内容も変わってくる。


「それじゃあ今日は早めに寝るか」

「今日はっていうか、今日もだけどねー」


 蝋燭や油のようなものは節約しなければならない関係上、ララもこの世界で生活し始めてからめっきり睡眠時間が長くなった。

 日の入りと共に就寝し、日の出と共に起きるという生活は、以前ならば考えたこともない。

 我ながら随分健康的な生活を送るようになったものだと感心しながら、ララは藁に被せたシーツの上で横になった。

 熾火のぼんやりと闇に浮かぶ小屋の中、ぬるい夜風がドアや壁の隙間から流れる。

 天井に開いた小さな穴の向こう側に、静かに光る星々を数えながら、ララはいつしか小さな寝息を立てていた。

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