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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第六章【合わせ鏡の双子】

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第二百四十八話「小麦の良い香りがしたわ」

 ララ達がコパ村の小屋に戻ると、すでに真新しい藁とシーツ代わりらしい薄い麻の布が三枚、隅に置かれていた。

 姿は見えなかったが、彼女達はサムズの厚意に感謝する。


「火、付けたわよ」


 ララが部屋の中央にある焚き火を熾す。

 イールが天井の通気口とドアを開き、ロミが食材と調理道具を用意する。


「あ、お水を用意しないとですね」


 食材を並べていたロミがはたと気付く。


「それなら私も手伝うわ」

「ありがとうございます。それじゃあ一緒に行きましょうか」


 その場をイールに任せ、二人は小屋を出る。

 夕暮れの赤に染まる村内を歩いていると、村人達の営みが目に入ってきた。


「一度、人が消えた村とは思えない活気ですね」


 軒先で会話に花を咲かせる婦人達を見て、ロミが悲しげな声を漏らした。

 彼女達、サムズを筆頭としたキャラバンがこの村に流れ着く以前、この村には確かに人の営みがあった。

 ララもロミも、イールもそのことは知っているし、実際にその目で見ていた。

 しかし彼らは一人の例外なく、ある日を境に消えた。

 後に残ったのは静寂と闇と血の臭いが支配する廃村だけだった。


「【錆びた歯車(ラスティギア)】って結局どうなったんだっけ?」

「新首領のイライザは監獄塔にて拘束されています。残党については殆ど掃討できたと思いますが、フゥリンの件もありますし……」

「イライザはまだ捕まってるのか。何か情報を吐いたりしてないかしらねー」

「どうでしょう。未だにレイラ様から言及がないと言うことはよほど口が堅いか、もしくはそう言った処置を施していないかのどちらかですね」

「そう言った処置……」


 言葉の深い意味は知らない方が良いだろう、とララは判断する。

 なんだかんだ、ロミも清純そうな見た目とは裏腹に教会の闇深い部分をよく知っているようだ。


「もしかしたら今回のアームズベアの件も、【錆びた歯車】の関与があるかも知れないわね」

「どうでしょうか。可能性は何であれ捨てきれませんが……」

「魔獣を改造する古代遺失技術とか見つけたのかもね」


 そう言って、ララはくすくすと笑みを漏らす。

 古代文明と呼ばれる、異常と言えるほどまでに発達した文明は、これまでも様々な技術の痕跡を現代まで残している。

 中にはララの知る科学技術にすら匹敵する物があるため、完全にないとは言い切れないのが油断のできないところだった。


「あそこの川でいい?」

「もう少し上流に行きましょう」


 何はともあれ、目下の課題は空腹を満たすことである。

 村近くの川に出た二人は、早々に話題を切り替える。

 サラサラと流れる透き通った川の水は清々しく、飲用しても問題はなさそうだ。

 それでも万が一のことを考え、ロミは更に上流へ上るようララを促した。


「あら、お二人は先日の!」


 そこへ、二人に声が掛けられる。

 振り向けば、彼女らと同じように木桶を抱えた婦人が立っていた。


「こんにちは。今日から少し、向こうの小屋を貸して頂いているんです」

「しばらく騒がしいと思うけどよろしくね」


 驚く婦人に向き直って、二人は挨拶の言葉を交わす。

 細身の身体をゆったりとした服で包み、青いスカーフを首に巻いた婦人は、柔和な笑みを浮かべた。


「魔獣を退治して下さった時は、本当に助かりました。少しと言わず、ずっといて下さってもいいですよ」

「あはは。確かに村の雰囲気も良いし、定住しちゃうのもいいかもね」

「もう、わたし達は一応レイラ様から色々言付かってるんですからね」


 軽い笑いと共に婦人に同調するララ。

 ロミは頬を膨らませて諫める。


「そうだ、忘れていましたね。私はポトって言いますの」

「ポトさんですか。よろしくお願いします」

「ええ。ロミさんとララさんのお名前は良く存じておりますよ。えっと、イールさんは……」

「小屋で留守番中よ」


 そうでしたか、とポトは笑みを深める。

 文字通り、三人はこの村の人々にとって命の恩人だ。

 そのことを彼女は様々な言葉で言い表した。


「そういえば、お二人もお水を汲みに?」

「はい。夕食の準備をしようと思って」

「夕食って言っても携行食なんだけどね」


 ララは唇を尖らせ不満を訴える。

 大抵の物は美味しく食べられる彼女も、同じ物を山ほど食べると流石に飽きる。


「それなら言ってくだされば夕食に招待致しましたのに」


 ララの様子を見て、ポトがそんな提案をする。


「ほんとに!? いいの?」


 ララは途端に目を輝かせ、ポトに詰め寄る。

 そんな彼女の首元を、ロミはがっしりと掴んで引き寄せた。


「もう、失礼ですよ」

「むぅ……」

「うふふ。いいんですよ。今日は無理でも、また是非来てください」

「あはは、ありがとうございます」


 無邪気なララの様子に笑みを見せ、ポトが言う。

 ロミは気恥ずかしさを感じながら、そんな彼女の厚意に感謝した。


「このあたりの水なら綺麗ですよ」


 そう言って、ポトが川縁に膝を突く。

 川沿いを歩いてきた三人は、村の敷地内で一番上流に辿り着いていた。


「村人はみんなこのあたりで水を汲むんです」

「井戸とかは掘らないの?」

「川が近いですし、まだするべきことがありますから」


 ララの問いかけに、ポトはそう答えて村の方を見やった。

 まだまだ復興作業の真っ最中で、足りない施設も多い。

 村人総動員で、日夜作業を行っているが、まだ井戸にまで手を回す余裕はないのだろう。

 ララのナノマシンは、土木作業には向かないため、そういった方面での助力は期待できない。


「さぁ、水も汲めましたし、戻りましょうか」


 明るい笑みを見せて、ポトが立ち上がる。

 追従して二人も立ち上がり、水の入った木桶を抱える。


「この上流に他の村はないし、源泉からも近いので、美味しいんですよ」


 少し自慢げにポトが言う。

 森の奥へと伸びる川の最奥は、滾々と清水の湧き出る小さな泉だと彼女は説明した。


「家の夫はこの水を使って焼いたパンが大好物なんです」

「パンかぁ。そういえば全然食べてないね」

「アルトレット以来でしょうか。確かに久しく見ていない気がします」

「それなら、是非一度家にいらっしゃってくださいな。美味しいパンをご馳走しますわ」


 村に戻りながら、ポトが楽しそうに言う。

 彼女は村一番のパン焼き上手で、度々村の女性達相手に教室も開いているようだった。


「麦も、村にきてすぐ開墾した畑で作っていますの。まだ収穫はできてないので、町で買った小麦を使っていますが、いつかはコパ村の特産物にしたいですわ」


 そう、彼女は期待に満ちた緑の目で語った。


「それじゃあ、いつでもいらっしゃってくださいな」


 最後にもう一度、そう念押しして彼女は二人と別れた。

 木桶を抱え、軽い足取りで遠ざかるポトの背中を見ながら、二人は笑みを零した。


「明るい人ね。小麦の良い香りがしたわ」

「わたしも、あんな人になりたいです」


 帰路に就きながら、二人はそんなことを言い合う。

 ポトだけに留まらず、コパ村の住民達は皆、彼女らに温かい声を掛けてくれた。


「イールもこの村で暮らしてれば、もうちょっとお淑やかになるんじゃない?」

「もう、そんなことイールさんの前で言っちゃダメですからね」


 ララがクスクスと笑いながら言う。

 ロミは頬を膨らませ、彼女を諫めた。

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