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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第六章【合わせ鏡の双子】

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第二百四十七話「……ま、気にしててもしょうが無いか」

昨夜も更新しています。

未読の方はご注意ください。

「これは……また強烈だな」


 鼻を手で覆いながらイールが顔を顰める。

 穴はかなり大きく、確かにあのアームズベアの巨体でも易々と入ることができるだろう。

 その内部は空気が淀み、主をなくしてなおその強烈な残り香を染みつかせている。


「この臭いのせいで他の動物が住み着かなかったのね」


 ナノマシンによる身体能力の調整機構を弄り、嗅覚を抑えながらララが入ってくる。

 少し傾斜の付いた穴は地下へと広がり、天井は堅い一枚岩が覆い被さっている。


「サクラ、ライト照射お願い」

『了解しました』


 サクラのカメラアイから、周囲を照らす強力な光が放たれる。

 暗闇が吸い取られ、内部の輪郭が明確になる。

 湿った土と落ち葉、食べ残した草食動物の骨や皮や毛が散乱し、血と脂肪の腐った臭いを放っている。

 糞尿の臭いがないあたり、一定の知性と美意識は持ち合わせていたらしい。


「何かめぼしいはありますかね」


 脳の中心を殴打するような臭気に耐えながら、ロミが軽く見渡す。

 しかし、どこを見てもごく普通のありふれた野生動物の塒以上の特徴は見受けられない。


「何もないですね……。イールさんは何か見つけましたか?」

「いや、こっちも何もないな」


 どこで拾ったのか木の枝を使い地面を掘り返しながらイールが答える。


「ちょっと『環境調査』してみようか?」

「あのピカッとなるやつか? 外に出ておいた方が良いか」

「いや、別にいいわよ。すぐ終わるし」


 ララはそう言うと、早速白い閃光を放つ。

 一瞬だけ岩穴の中が純白に染まる。


「ふむふむ」

「何かあったか?」


 収集した情報を処理して、保存する。

 解析にかけ、過去に蓄積したデータと比較し、特異な点を探し出す。

 一連の動作をほぼ自動で行ったララは、迷いのない足取りで穴の奥にある壁の前に立った。


「その壁がどうかしたか?」

「イール、ちょっと棒貸して頂戴」


 ララは明確な答えを出さず、イールから棒を受け取る。

 ロミも興味を抱いた様子で、イールの隣まで近寄ってきた。


「ほら、ここ」


 そう言って、ララは棒で壁を叩く。

 壁の端の方から順に叩けば、石らしい硬質な音が穴の中に響き渡る。

 しかし、ある地点――ララの目の前の壁だけが、少しだけ透き通ったような、間延びした反響音を返してきた。


「……奥に空間がありますね」


 ロミの言葉に、ララが頷いた。


「『戦闘形態移行』」


 ララがおもむろにベルトから白い円筒を取り出す。

 それは彼女の声と共に瞬時に変形し、巨大なハルバードとなる。


「おい、こんな狭いところで大物を振り回すなよ」


 突然の行動に慌てて後ずさりながら、イールが非難する。

 ララは笑って、白銀のハルバードの先端を壁にピタリと付けた。


「何をするつもりなんですか?」

「ま、見ててよ。ちょっと気をつけてね」


 そう言って、ララは腕に力を込める。

 ナノマシンの白い輝きが、彼女の細い腕を伝い、ハルバードに集約する。


「吶喊!」


 ゴン! と激しい音が洞窟に響く。

 堅い物と、更に堅い物がぶつかり合い、穴を揺らす。

 岩が砕け、亀裂が走り、粉塵があたりを包み込む。

 ロミが思わずしゃがみ込み、イールが咄嗟に身構える。

 そんな中でララだけは、口元に不敵な笑みを浮かべて正面を見据えていた。


「ほい、いっちょ完了ね」


 砂煙が落ち着き、視界が戻る頃、ララがハルバードを待機形態に戻しながら言った。

 イールとロミの二人が恐る恐る顔を上げ、彼女の方向に視線を向けると――


「これは、また先が長そうだな」

「真っ暗ですねぇ」


 そこには、深い深い、全てを飲み込むような闇が広がっていた。


「どうする? 先に進む?」


 『旋回槍(スピンショット)』の応用で風を作り、身体に纏わり付く砂を落としつつララが尋ねる。

 それに対して、イールは少し考えた後に首を振った。


「いや、一旦コパ村に戻ろう」

「そうですね。準備しないとここから先は厳しそうです。それにもう時間が無さそうですし」


 それに賛同したロミが穴の外を見やる。

 いつの間にか、太陽が傾いている。

 まだ昼と言って良い時間帯だが、ここから更に先へ進むほどの猶予もなかった。


「そ? なら一旦帰りましょうか」


 そんな二人の意見を素直に受け入れ、ララは頷く。

 三人は臭いのきつい穴を脱し、森の澄み渡った空気を存分に肺へと流し込む。


「ふぅぅぅ。空気がこんなに美味しかったなんてな」

「生き返りますぅ」


 特にイールとロミはナノマシンが使えない分悪臭の影響も顕著だ。

 まさしく天国に登ったような表情で、彼女らは新鮮な風を楽しんでいた。


「うーん、しっかし、地下かぁ……。考えてなかったわ」


 そんな二人の隣で、ただ一人ララは浮かない顔をしていた。

 というのも、彼女は環境調査の際に地下深くのことまでは考えていなかった。


「そっか。よくよく考えてみればそうよね。結構時間も経ってたらしいし、地下に埋まってる可能性もあるのよね」

『実際、私が見つけた船体パーツの中には地下に埋まっている物もありますよ』

「そうよね……」


 サクラの言葉に、ますますララは項垂れる。

 気付いてみれば簡単な事実だけに、それは余計に彼女の心に突き刺さった。


「おーい、ララ。そろそろ帰るぞ」

「あっ、待ってよぉ」


 名前を呼ばれてララが顔を上げれば、イール達が出発しようとしていた。

 ララは慌てて駆け出し彼女らに追いつく。


「……ま、気にしててもしょうが無いか」

「なんか言ったか?」

「ううん。なんでもない」


 不思議そうに首を傾げるイールをあしらい、ララは笑みを浮かべる。

 反省は終わり、今後気をつければ良いと彼女は気持ちを取り直す。


「村に戻ったら晩ごはん食べましょ」

「ミートキューブは余裕があるからな。それから消費しよう」

「ええー」


 先ほどまでの落ち込んだ様子をさっぱり捨て去り、ララは軽い足取りで帰路に就く。

 遠く、コパ村の方角では炊事の煙が細く高く立ち上っていた。

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