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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第六章【合わせ鏡の双子】

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第二百四十三話「これはおかしいだろう?」

第6章です。

「本当に、いいのかい?」

「ええ。昨日三人で話し合ったの」


 森の中を歩きながら、ララは頷く。

 ソールは疑念の表情を浮かべながらもすぐに引き下がる。

 リエーナの村での一騒動が、彼女達の尽力によって終息した。

 それと同時にララ達が引き受けた依頼も達成となった。

 ララ達は村を後にし、旅の空へと戻ることを決めたのだった。


「わたし達は一度、コパ村に寄ろうかと考えているんです。そこで遭遇したアームズベアのことが気になりまして」


 ララの言葉を継いで、ロミが口を開く。

 彼女は生い茂る蔦を白杖で払いながら、そっと人差し指を頬に当てた。


「実は、最近魔獣の生態に変化があるらしくて。それで上司から調査依頼が下っているんですよ」

「そうそう。つい昨日まで私は忘れてたんだけどね」

「あたしも忘れてたさ」

 

 てへへ、と舌の先を覗かせながらララが頭の後ろを掻く。

 先頭を藪漕ぎしながら歩いていたイールもばつが悪そうに笑いながらそれに続く。

 そもそもが、アルトレットでレイラ達と再会した彼女達は、神殿から魔獣の調査を依頼されていた。

 しかし出発して早々にソールによってリエーナの村まで拉致されてしまったため、今の今までその仕事ができないでいたのだ。

 ララやイールは忙殺されて忘れていたが、そこは責任感が人一倍強く根っからの生真面目なロミの出番である。

 彼女はしっかりとコパ村訪問の際に遭遇した異常な強さを誇るアームズベアを憶えていて、昨夜に二人へ伝えていた。


「いやぁ、ロミがいなかったら普通に忘れてたわ」

「ほんと、ロミ様々だな」

「もぅ! 二人ともレイラ様から直々に任せられたお仕事なんですからしっかりしてくださいよ」


 情けない様子の二人に、ロミが頬を膨らませる。

 そんな和気あいあいとした様子を見て、後方を歩いていたソール、ケイルソード、ティーナの三人は顔を見合わせて綻んだ。


「まあ、コパ村とは今後も長い付き合いになっていくだろうし、僕たちも顔を合わせないとね」


 そう言ったソールに、ティーナも頷く。


「ルクティーユ長老が村に行ったときは驚いたが、そのお陰で反対派だった人達も受け入れ始めてくれてるしな」


 ケイルソードが数日前のことを思い出し、目を細める。

 村を率いる三長老の中でも、人間との交流に否定的な立場だったルクティーユが、先の騒動をきっかけに融和派に歩み寄ったことは、派閥を問わず殆どの村人達にとって驚くべき事象だった。

 彼は表面上こそあの深い眉間の皺を残したままだったが、それでもコパ村の面々と同じテーブルにつくことを決断していた。

 そんな彼の変化によって、リエーナの村とコパ村の関係は着実に構築されつつある。


「今度またコパ村からリエーナの村に視察団が来るんでしょ? 大丈夫?」

「大丈夫よ! オーリエで盛大におもてなしする予定らしいわ」


 茶化すようなララの言葉に、ティーナが自信満々に胸を張って答える。

 今後、双方から積極的に視察団が送られ、その中から貿易品の選定や通貨の交換レートなどを慎重に協議していく方針になったというのは、今朝聞かされたばかりの話だった。


「これから三長老も忙しくなるってげんなりした顔で言ってたわ」


 私も頑張らなくっちゃ、とティーナは袖を捲って言う。

 彼女もまた、コパ村からやって来る視察団の接待を任されているのだ。

 そういったことを話している間に、いつの間にか木々の密度が薄らいでくる。

 まばらだった木漏れ日が燦々と増し、足下まで明るく照らされる。

 森を抜けると、すぐにコパ村の家々が視界に捉えられた。


「今回は平和そうね」


 目の上に手を翳しながら村の方向を見て、ララが肩を揺らす。


「そう頻繁に魔獣の襲撃があってたまるか」


 そんな彼女を三角形の目で見ながら、イールが小突く。

 そもそも、村というのは地形的にある程度魔獣が侵入しにくい場所に営まれるものである。

 コパ村もその例に漏れず、細い川が村と森との境界線を引いている。


「エルフを見るのは初めてじゃないとは言え、まだ慣れてないわよね」

「そうだろうね。だからこそララ達と一緒に来たんだよ」


 コパ村の民とエルフの邂逅は、非常事態に際してのことだった。

 その後も改めて長老の側近が挨拶に訪れたらしいが、それでも村人たちが異種族の隣人に慣れるのには時間が必要だろう。


「そういうわけだから、最初は頼むよ」


 ソールがララに向かって視線を向ける。

 期待に輝く緑の瞳に、ララが小さくため息をついた。


「仕方ないわね」


 村のすぐ側までやって来た一行は、自然と背筋を張る。

 そんな彼女達に気が付いたのか、村の方も慌ただしく人が走り始めた。

 そうして現れたのは、白い歯の眩しい男、サムズだった。


「よう、ララ。他の二人も。あんたはこの前来たケイルソードだな。後ろに居るのも、エルフの村の人達かい?」


 サムズはララ達の側まで駆け寄って、そう口を開いた。


「こんにちは。先日はどうもありがとうね。こっちはソールとケイルソードの妹のティーナよ」


 ララの紹介に合わせて、エルフの二人が順に挨拶する。

 サムズはそれらに丁寧に言葉を返していった。

 彼はコパ村に新しく根付いた元移民団の指導者的な役割を担っていたらしく、そのまま流れで村長にまでなってしまったらしかった。

 そのためか外交官のような役割さえ兼任するとことなり、リエーナの村との交流も、もっぱら彼が先頭に立っていた。


「俺はサムズ。これから長い付き合いになる。よろしく頼む」


 そんな彼だからか、村の中でも頭1つ抜けた適応力を見せ、今ではすっかりエルフとの対話もこなしていた。

 サムズの屈託ない笑みに毒気を抜かれたのか、三人は表情を緩める。

 ソールは彼と手を交わしさえした。


「それで、今日は何の用なんだ?」

「ソール達は顔合わせってところね。私たちはまた別件なんだけど」


 疑問を浮かべるサムズに、ララが事情を説明する。

 アームズベアの名前を出せば、彼も先日の惨状を思い出したのか、はっと目を開いた。


「そうか……。そうだな、とにかく村の集会所に行こうか」


 そう言って、サムズは身を翻す。

 彼の後を、ララ達は鴨の子のように連なって村に入った。

 村人達は遠巻きにその姿を見て、見知った顔があることに安堵の表情を浮かべていた。

 その反面、最後尾に続くエルフの姿には、まだ少し驚きを見せてもいるが。


「この前の熊なんだがな」


 村の中を歩きながら、サムズが切り出した。

 ロミが神官服の内側からメモを取り出して書き取る準備を整える。

 それが終わるのを少し待ってから、サムズは続けた。


「どうにもおかしいところがいくつもあったんだ」

「おかしいところ、ですか」


 興味深そうに、ロミが反復する。


「まず、骨の硬さが尋常じゃなかった。村一番の木こりが全力で叩き折ろうとしたが、びくともしねえ」

「それは……。まああり得ない話じゃ無いけどね」


 イールが驚きながらも口を挟む。

 彼女の言に依れば、過酷な競争を生き抜いた歴戦の魔獣ならば、それほどの硬さも不自然ではないという。


「それだけじゃねえんだよ。皮も鉄板みたいに硬い。肉なんて食えたもんじゃ無かったな。だからまあ、その辺に放っておいたんだがな……」

「だが……?」


 興味をそそられたらしく、ケイルソードがにじり寄る。

 そんな様子に構う素振りも見せず、サムズは続けた。


「奇妙なことに、ちっとも腐りゃしねぇんだ」

「腐らない?」

「ああ。普通なら外に置いて一日しない間に虫が飛ぶ。次の日にゃ蛆が湧くし、ドロドロに溶け始める。それがまあ、まったくそんな様子がないんだ」


 不思議を通り越して空恐ろしいぜ、とサムズは締めくくる。


「魔法的な何かで、防腐されてる訳じゃないの?」

「そりゃないな。生命活動が終わった時点で魔石からの供給も途絶える。そうなればただの肉の塊だ」


 ララの意見は、イールによって一蹴される。

 だが、その会話を聞いてサムズは思い出したように手を打った。


「ああ。それもだな」

「それもって、どういうこと?」


 追求するララに、サムズは表情を曇らせる。


「まあ、実際に見て貰った方が早いさな。とりあえず、集会所の裏に来てくれ」


 そう言って彼が案内したのは、村の隅に構える一際大きな建物。有事の際に村人達が集まり会議を開いたり、非常時には避難所としての役割を果たしたりする、集会所の裏手だった。

 そこには、藁が被せられた小さな山ができていた。

 その正体は、言わずとも全員が察していた。

 サムズが藁を掻き分ければ、血の臭いが鋭く鼻腔を刺す。

 ララは思わず口元を覆った。


「ここまでは解体できたんだがな」


 そう言って、サムズは困り顔になる。

 丸太のような六本の手足と、小山のような胴体、そして頭の八つに分けられた熊の死体がそこにあった。


「ほんとに、一切腐敗してないのね」

「あたしも初めて見る現象だな」


 それを目の当たりにした一行は目を見張る。

 自然の摂理から取り残された超常が、そこに横たわっていた。


「私のつけた傷跡と、イールのつけた傷跡だけね」

「あとは強引に斧で関節を切ったのか」

「そうだ。関節でも、切るのは一苦労だったけどな」


 冷静に分析するララ達に関心したような目を向けながら、サムズが頷いた。


「そんでもって、一番おかしいのはここさ」


 そう言って、彼は心底嫌そうに胴体へと近づく。

 彼が指し示したのは、その中央。丁度、胸部に当たる場所だった。


「ここがどうかしたの?」

「まあ、よく見てみろ」


 促されるまま、ララがのぞき込む。

 そこには、イールが穿った穴が大きく開いている。


「これは――」


 その奥にあった光景に、思わずララは絶句した。

 彼女は無言で立ち上がり、イールを手招く。

 イールもまた、そこをのぞき込み、赤い瞳を見開く。


「魔石が……二つ……」

「ああ。これはおかしいだろう?」


 震える唇でイールが言葉を漏らす。

 サムズもまた、怯えた様子で頷く。

 彼女らの視線の先。巨熊の胸の奥には、光を失った巨大な魔石が、二つ鎮座していた。

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