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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百四十一話「期待しておくわ」

 以前、ララは空気中に普遍的に漂う未知の元素について考察した。

 その結果、彼女は魔力と呼ばれるそれに『原始的なナノマシンの劣化品の模倣品』という烙印を押した。

 事実、その評価は間違っていない。

 詠唱という術者の呼びかけに呼応して、様々な働きを見せる様は、まさしく彼女の慣れ親しんだナノマシンの挙動そのものだ。

 その上で、彼女はまたナノマシンにはない長所も見いだしていた。

 それはその不思議な物質が変質する範囲だ。

 ナノマシンの根源にあるのは、使用者の利便性向上である。

 そのため、その有効射程はそれほど広くはない。

 だがしかし。

 原始的なナノマシンの劣化品の模倣品である魔力は、彼女の予想を遙かに超えて遠方にまで変化をもたらす。

 それはまるで電波通信のように遠方との会話を実現する。

 しかもそこに時間的な齟齬は存在せず、擬似的な未来予測すら可能かと思われた。

 だからこそ、ララは確信していた。

 合わせ鏡の如く連なり、無限の空間を生み出すこの魔力的な小さな世界の端にまで魔力は到達し、光すら、時すら超越するスピードは甚大な破壊力を孕み、世界の壁すら突破するだろうと。


「あは、あはははははははっ!」


 何千、何万という世界を越える。

 複製に複製を、模倣に模倣を重ねた幻影の世界を、ララは一瞬よりも短い刹那で通り過ぎる。

 声は遙か後ろへ置き去りとなり、光は目に届く前に消えてゆく。

 暗く、静寂に満ちた世界を、彼女は未だかつて何人たりとも到達しなかった速度で走り抜ける。


「魔力のもつ最も特異な点は、その瞬発力と影響力。限界を見せない可能性。私はそれを使う。それを利用して、魔法を越える!」


 幾億ものループを越えて、彼女は徐々に徐々に、ほんの僅かずつだったが、確かな変化を感じていた。


「魔力はあらゆる法則を無視できる。距離という概念に縛られず、時間という拘束に囚われない。何よりも自由で、だからこそ強靱で確固たる唯一の法則――」


 少しずつ、蛹が衣を脱ぐように。

 少女は自分の変化を知覚する。

 それは、物質界からの脱却。

 肉の衣という枷を脱ぎ捨て、真に自由な精神体への昇華。

 位相固定術式を錨として、世界に己を結びつける。

 瞬きの間に行われる無限の周回は、やがて第四の壁にすら亀裂を入れる。


「さあ、開きなさい。道が閉ざされているというのなら、私はそれをこじ開けるだけよ」


 暗黒に満ちた世界に、小さな罅が走る。

 一周、二周、百周、千周と重ねる毎に、それは確実に広がっていった。


「あともうちょっと。さあ、さあ!」


 次元の欠片が剥落する。

 いつしか身体は輪郭を失い、一条の光となる。

 それでもララは自我を保ち、唯一の目標に向かって走り続ける。

 速度はなおも上がる。

 破壊力は高まり続ける。


「扉を――開けなさいッッ!」


 光がはじける。

 不可視の壁が四散する。

 灼熱の奔流が、ララを包み込んだ。

 歯を食いしばり、ララは前へと進み続ける。


「こんな程度で、止まると思わないでよね!」


 一歩ずつ、着実に。

 距離は縮まる。

 そうして、その時はやって来る。


「たどり、ついた!」


 世界の縁に手を掛けて、彼女は勝利の雄叫びを上げる。

 第四の壁を乗り越えて、物理という絶対の掟を突き破って、ララという少女は世界の階段を一つ登った。


 そこは、悠久の時が流れる安穏とした世界だった。

 眩い光が満ちた空間に、滴の輝く若草の丘が広がっている。

 暖かく乾いた風が頬を撫でる。


「ようこそいらっしゃいました。と、言うべきでしょうか」


 彼女の背後から、突然声が掛かる。

 振り返れば、そこには見知った顔の女性が二人、肩を並べて立っていた。


「まさか世界の壁を、あんな力業で破ってくるとは思いませんでした」

「ちょっとは驚いてくれたかしら? オビロン」


 猫のような笑みを浮かべるララに、背の高い女性――オビロンは頷いた。

 その隣に付き従うシルフィも、同じ意見のようだ。


「私が知る限り、神霊界にまで至った人間はおりませんので」

「へぇ。ここって神霊界なんだ? てっきり地上界の上の世界だと思ってたんだけど」

「天空界、天上界は物理的にも地上界と繋がっていますので、有翼種族ならたどり着けますからね」

「そっか。それで神霊界以上が貴女たちの本拠地なのよね」


 ララの質問に、オビロンは頷く。


「はい。ここより上が、神話の世界。世界の管理者とも呼ばれる存在が住まう世界になります」


 ここまで到達した彼女を、オビロンも賞賛に値すると考えているのだろう。

 彼女はララの質問に快く答えた。


「それじゃ、世界の管理者さんに聞くけどね」

「ええ。何なりと。答えられることならお答えしましょう」


 オビロンはにこやかな微笑みを浮かべ、軽く手を振った。

 二人とララの間に、いつぞやも見たテーブルセットが広がる。


「さあ、お掛けになって」


 そんな声に案内されて、三人は共に席に着く。

 そこで、ララが口を開いた。


「なんで、精霊花の種をエルフに渡したの?」


 オビロンが鷹揚に頷く。


「目的はただ一つですよ。私は、エルフという種族のさらなる繁栄を願っています。あの停滞し淀んでしまった種の世界には、新たなる風が必要だった。種は、穴を開ける杭でした」

「……あの種が花を咲かせるのは必然だった。貴女が咲かせたのよね?」


 そう言って、ララがシルフィを見る。

 押し黙っていた少女は、その言葉に頷いた。


「花を咲かせたら、それは収穫される。香水に加工され、村人達に行き渡る。そこで、あの効果が発揮され、村人達は魔力を根刮ぎ吸われて倒れ込む」


 それは全て、オビロンが思い描いたシナリオだった。

 彼女のてのひらで、人形はくるくると踊り続ける。

 彼女の描いた線から外れることなく、事態は展開し続ける。


「なんでコパ村に都合良くリエーナの村にはない薬草があったのか。なんでルクティーユはそれを知ることができたのか。一つ思いつけば、辻褄は合うわ」

「よくお気付きになりました。貴女方には第三勢力としてコパとリエーナを繋ぐ橋になって頂くだけの予定でしたのに」

「良いように操られてることが分かっちゃうと、どうにも苛々しちゃうのよね。とはいえ、私が気付くことも予想の範疇だったでしょうに」


 ララの追求を、オビロンは掴みきれない笑顔で躱す。

 ララはため息をつくと、テーブルに手を載せて目の前の精霊に疑問を投げかける。


「なんでこんなに迂遠なことをしたの? もっと直接的にエルフを導いたらいいのに」


 それに対して、オビロンは困ったように柳眉を寄せた。


「私も、できることなら真の姿を現して直接言葉を交わしたいと思っています。ですが、上位存在の常と言いましょうか、我ら世界の管理者が下界の存在と接触するには、様々な制約があるのです」

「せめてそういうのを事前に教えてくれたら良かったのに」

「それも制約によってできなかったのですよ」


 申し訳ないと頭を下げる精霊を、ララはやめてと一蹴する。


「私、別に糾弾しに来たわけじゃ無いのよ。そりゃまあてのひらで転がされてちょっとイラッとしてるけどね? それよりも、もうちょっと信じてあげた方がいいんじゃない?」

「信じる、ですか」


 オビロンがきょとんとして首を傾げる。


「貴女たちから見ると、確かに人間もエルフも弱々しいと思うけどね。もうちょっと信頼してあげていいと思うわよ。確かに頭は固いし偏見の塊だし性格悪いけど――」


 罵倒の言葉の数々を一気にまくし立て、ララは一度区切る。


「それでも、貴女たちが思ってるよりずっと彼らは強いし賢いわ」


 種の弱さを自覚する強さが、彼らにはあった。

 現実を見る勇気が、彼女達には備わっていた。

 間近で接した村人達の多くが、変わろうとしていた。


「だからさ、シルフィー」


 ララが視線を向ける相手を変える。

 突然の呼びかけに、精霊の従者は肩を跳ね上げた。


「せめて、友達くらいは大事にしたほうが良いわよ」


 その言葉に、彼女は大きく目を見開いた。

 隣のオビロンも僅かに唇を揺らし、すぐに笑みを浮かべる。


「お見通しですか」

「まあ、あれだけ揃ってるとね」


 オビロンの言葉にララは苦笑を混じらせて頷いた。


「まさか、ばれるとは思ってなかったよ」


 シルフィが笑う。

 彼女は髪を梳かすように手を動かし、次の瞬間には薄緑色の髪の青年へと姿を変えていた。


「村から外れた場所に庵を結んだり、敢えて村人から反感を買うことで接触を抑えたり。まあ、考えてみれば色々と思い当たる節はあったわ。私たちに声を掛けてきたのも、全体の案内役になったのも、ソールだったしね」

「そっか。それはちょっと、ヒントを出し過ぎたかもしれない」


 ララの指摘を粛々と受け止めて、ソールは頬を掻く。


「そうだね。確かに、ケイルソード達には謝らないといけない。二人がいると進行に支障をきたすとは言え、手荒なことをしてしまったよ」


 反省してくれたならそれでいい、とララは緊張を解く。


「それじゃ、私の用事は終わったわ。これから帰って村人の治療をしなくちゃ」


 仕事がまだまだ山積みね、と彼女は一転して渋い顔になる。

 そんな変わり身の早さに、オビロンが思わず笑みを零した。


「あとは上手く行くでしょう。無責任ですが、貴方たちなら」

「そうそう。神様なんてのはそれくらい無責任な方がいいのよ。あ、でもソールは手伝ってよね。一応村人なんだから」

「ああ、分かってる。罪滅ぼしもしないとね」


 そろそろ行くわ、とララが立ち上がる。


「それでは、私が地上に送りましょう」


 オビロンがおもむろに手を上げる。

 光の渦が、ララとソールを包み込む。


「本当に、ありがとうございました。お礼は必ず」

「期待しておくわ」


 そう言って、ララはぱちりと片目を閉じた。

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