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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百三十九話「そんなわけないじゃない」

 村の広場に仮設された救護所には、たちまち薬草の青臭い臭気が立ちこめた。

 ララとイールが入れ替わり立ち替わり井戸から水を汲み上げ、村人たちが倒れている患者の様子を見て回る。

 それらを傍目に、ルクティーユが指揮を執る調剤組は一層忙しなく手を動かした。

 エルフに備わった魔法の技術を存分に活用し、オルボン、ジローナ、そして長老たちは驚異的な光景を見せていた。

 宙を乳鉢が浮遊し、乳棒がひとりでに回る。

 青い魔力を帯びた炎が吹き上がり、ララが汲んだ井戸水を蒸留水に変える。


「すごい、綺麗な光景だわ」

「エルフの真骨頂だな。膨大な魔力量に物を言わせて、無茶なやり方だ。その割に端々まで繊細に制御されててる」

「隣で薬草煎じてるロミが肩身狭そうにしてるわ」


 種族差を嫌と言うほど実感させられる現場だ。

 自分なら耐えられなさそう、とララは健気に働く金髪の少女を見ていた。


「しっかし、オルボン爺さんが薬師だったとはな」

「意外よね。意外と言えば私たちに手伝うのを許してくれたこともだけど」


 オルボンとララ達の邂逅は苦々しいものだった。

 彼は村でも一際人間を毛嫌いしている側のエルフであり、今回の救護作業に加わらせてもらえるかララは一抹の不安を抱いていた。

 しかしそんな彼女の危惧とは裏腹に、彼は至極簡単に彼女らの行動を許していた。

 いや、許したと言うよりは努めて気にしないようにしているだけなのかも知れない。

 その証拠に、彼は未だ一度もララ達と言葉も視線も交わしていない。

 全ての指示はルクティーユを経由していた。


「猫の手も借りたいくらいなんでしょうね。村の緊急事態だし」


 ララは広場に敷いた綿草の上に寝かされた患者たちを見渡して言った。

 決して大きくない村の、決して多くない村人たちではあるが、その大部分が床に伏しているとなれば、今後の村の運営も危機的な状況になる。

 オビロンからエルフ種の繁栄の仲人を依頼されているララ達にも、決して無関係ではない。


「イールさん! すみませんが手伝ってくれませんか?」

「はいよ。今行く」


 看病に当たっていた村人に呼ばれ、イールが駆けていく。

 それを見送って、ララも小さく息を吐いた。


「はぁ。それじゃ私もがんばるか。……そういえばソール達を見ないわね?」


 見慣れた顔が広場にないことに、ララがいぶかしむ。

 ソールだけではない。

 ケイルソードとティーナの二人も見あたらなかった。


「まだ救助出来てない人がいるのかしら?」


 首を傾げ、ララはてくてくとアーホルンの方へと歩み寄る。


「ねえ、ソール達知らない? 見当たらないんだけど」

「え? あれ、ほんとだね。どこいったんだろう」


 訊ねられたアーホルンは広場を見渡すと、ララと同様に首を傾げた。


「他に救助できてない人がいたりするのかしら」

「うーん、見たところ全員いる気がするけど……。ごめん、ララさん。申し訳ないけど、探してきてくれないかな。もしかしたら怪我でもして動けないのかも知れない」


 自分は今手が放せなくて、とアーホルンが申し訳なさそうに肩を落とす。

 ララは任せて、と胸をたたくと、早速広場を飛び出した。

 木々の間を走り抜け、彼女はひとまずケイルソード兄妹の家へと向かった。


「さて、いるかしらね?」


 ツリーハウスを載せた木の根本に立ち、見上げる。

 外観を見たところ、人の気配は感じない。


「ソール! ケイルソード!」


 外から声を掛けてみるが、当然のごとく反応はない。

 ララは小さくため息をつくと、縄梯子を登る。


「……いないわね」


 それほど広くない室内である。

 時間を掛けずとも、中が無人であることはすぐ分かった。

 騒々しい音の飛び交う広場とは対照的に、重い時間が流れていた。


「次は……。そうだ、ソールの家にでも行ってみようかしら」


 そこまで考えて、ララははたと気づく。

 そういえば、彼の自宅の場所を知らなかった。


「一旦広場に戻って、アーホルンにでも聞きましょう」


 そう指針を定めると、ララは早速ツリーハウスから飛び降りた。


「ソールの家かい? ここの道をずっとまっすぐ行って、右にある小道を進んだ突き当たりだよ」


 救護所に戻り、アーホルンに訊ねれば、答えはすぐに帰ってきた。


「ありがとう。それじゃあ行ってみるわ」


 ララはそれを聞いて、休む間もなく再出発する。

 アーホルンの指し示した道は、広場から伸びて村を分断する太い通りだ。

 迷うこともなく、人気のない森を駆け抜ける。

 村人が全員広場に集中しているせいで、人の気配といったものは全く感じない。

 昼間とはいえ、単独で進む森の中は心細く、恐ろしいものがあった。

 とはいえ、そこは孤独に慣れた超科学文明の申し子ララである。

 彼女は恐ろしい速度を出しながら、鼻歌交じりで道を走っていた。


「右に小道があるって聞いたけど、ぜんぜん小道が出てこないわね……」


 行けども行けども同じような木々が立ち並ぶ森の中を、ララはげんなりとしながら進む。

 同じような景色が続き、だんだんと距離感が麻痺していった。


「サクラ、これちゃんと進んでる?」

『はい。広場に設置した仮想ビーコンからの距離は正常に伸びていますよ』


 サクラの声にララはふむぅ、とうなる。

 鏡面結界の効果で村の外周の森は無限に続いているが、どうやらこれはその範囲内の話ではないらしい。

 となれば、単純に広くて遠くて退屈な光景が続いているだけである。


『ララ様、あれが小道では?』

「おっと、ほんとだ。たぶんあれでしょうね」


 どれほど進んだか数えるのも嫌になってきた頃、ララはサクラの声で思考を励起させる。

 半ば自動的に動かしていた足を止め、茂みに隠れるようにして枝分かれしている細い道を見つけた。

 それは今までララが走ってきた道よりも整備がなされておらず、一見すれば獣道とも思いそうなほどか細いものだった。


「この先にソールの家があるのね。随分辺鄙なところ」

『村の集落密集地域からも随分離れていますよね』

「ソールってあんまり村人と仲良くないのかなぁ」


 そんな事を話しながら、一人と一機はわき道へと踏み行っていく。

 伸び放題の蔦草を飛び越えながら、細い道を進む。


「もう当分森を歩くのはいいかな……」

『とはいえ、この大陸はかなり森が多いみたいですよ』

「うぅ……。そんなひどいこと言わないで……」


 グチグチと言葉を漏らしながら、ララは進む。

 どれほどの時間歩いただろうか、彼女はようやく道の先に開けた空間を見つけた。

 そこには、簡素な庵も結ばれている。

 おそらくはあれがソールの家なのだろう。


「ソールー! ケイルソードー! ティーナー! いるなら返事してちょうだーい」


 庵に向かって、口に手を当ててララが叫ぶ。

 その声は儚くも濃い緑の中へと溶けて消えた。


『生体スキャンをしましょうか?』

「あっ……。そうね、よろしく」

『もしかして忘れてました?』

「そんなわけないじゃない」


 ララは胡乱なカメラアイを向けるサクラから逃げるように視線を逸らす。

 サクラはため息をつくように上下したあと、周囲に向かって白い光を走らせた。


「どうだった?」

『生体認証、ありました。……二つだけですが』

「二つだけ?」


 サクラの報告にララが眉を寄せる。

 とはいえ、反応があるのならば探さねばならない。

 サクラから情報を送信してもらい、ララは庵へと近づく。


「ちなみに、誰の反応か分かる?」

『エルフのデータはサンプル数が少ないので断定はできませんが――』


 庵の入り口には、エルフの作った織物の暖簾が掛けられていた。

 それを払ってララは内部へ踏み行る。

 明かりのない、薄暗い室内は、ツリーハウスと同じくらいに狭かった。


「ちょっ!?」


 室内を見渡し、その隅にララは二つの人影を見つける。


『反応は、ケイルソードさんとティーナさんの物ですね』


 そこには、手足を縛られ昏倒する二人の姿があった。

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