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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百三十八話「あとは私たちが働く番です」

「村中かき集めて準備したぜ。全部揃ってるはずだ」


 コパ村の民の動きは迅速だった。

 ララ達が頼み込んで半刻もしないうちに、彼らは共用倉庫や各自の家からリストにあった品々を用意した。

 それらはすべて木箱の中に収められ、ララとルクティーユの前に積み上げられている。


「ありがとう、本当に。助かるわ」

「いいってことさ。俺たちはララに助けられなきゃ、今頃無かった命だ」


 ララが深々と頭を下げると、サムズは親指を立てて白い歯を見せた。


「――まさかこんなにも簡単に揃うとは」


 ララの隣に立っていたルクティーユが、押し殺した声で言う。

 彼がリストにしたためた数々は、すべてリエーナの村では用意できなかった品だ。

 それらをサムズ達はいとも簡単に集めてしまったことに、彼は驚いていた。


「この辺はなんでか知らんが肥沃でな、薬草も揃ってたんだ。日頃からコツコツ集めといて良かったよ」

「……まるで差し合わせたかのような偶然ね」


 楽観的な青年とは対照的に、ララは思わず目を細める。

 ともあれ、これで精霊花の香水に対する準備は整った。


「ララ、これを運ぶのを手伝って下さい。早く村に戻って調合しなければ」

「はいはい。任せて頂戴」


 ルクティーユの言葉にララは頷くと、木箱を重ねて持ち上げる。

 彼女の腰ほどの高さのある木箱をいくつも抱える様子に、村人達がざわめいた。


「相変わらず冗談みたいな力だなぁ」


 村人達の心の声を代弁し、サムズはララの持ち上げた木箱を見上げる。


「女の子には秘密があるの。それじゃあありがたく貰うわね」

「女の子の秘密ねぇ……。まあいい、それで助かる奴がいるなら、俺たちは満足さ」


 胡乱な目で少女を見つめながら、サムズが薄く笑う。

 そうして、ララ達は彼ら村人に見送られながら、森の方へと足を向けた。


「森に入ったら魔法を使います。それで村まではすぐにいけます」

「へぇ。なんだかんだ魔法も上手いのね」


 少し前を歩いていたルクティーユは片眉を上げてララを見る。


「馬鹿にしていますか? 一応、これでも三長老が次席ですよ」


 そう言って、エルフの青年は大きくため息を吐いた。

 彼は突然歩みを止めると、反転してコパ村の方を振り向く。


「人の民よ、此度の施しにリエーナのエルフを代表して感謝します。願わくば、永き精霊と深緑の加護が汝らにあらんことを!」


 側に立っていたララが驚く程の声量だった。

 ルクティーユは一息に言葉を吐き出すと、くるりと背中を向けて足早に進む。

 しばらく唖然としていたララは、慌ててその背中を追った。


「なになに、やっぱりちゃんとした所あるじゃない!」

「馬鹿にしてますか!? 私は三長老が一人ですよ! 通すべき筋は通すのが、エルフの誇りというものです」


 照れ隠しなのかいつもより語気を強めるルクティーユ。

 その細長い耳が赤く染まっているのを見つけて、ララは肩を揺らした。


「何を笑っているのです。早く戻って対応しなければ」


 ルクティーユは森に入ると、おもむろに手を振った。

 空間に波紋が広がり、時空が歪む。

 位相が捻れ、距離が湾曲した。


「わ、凄い……」

「ソールも使っていたでしょうに」

「え、知ってるの!?」


 何を今更、とルクティーユがララを一瞥する。

 ソールが彼女達をリエーナの村に連れ込んだ際のことは、長老達にはお見通しのようだった。


「長老たるもの、村の異変をいち早く察知できない訳にもいきません」

「精霊に全部任せてるんだと思ってたわ」

「精霊は確かに我らを守護し育む大いなる存在ではあります。しかし我らがそれに甘え、依存するのは違います」


 それは、確固たる信条だった。

 気難しげな瞳の奥に光るのは、揺るぎない種の導き手としての誇りだった。

 ララは木箱の影からそれを見て、今までの印象を少し変える必要を感じた。

 なんだかんだと言ってはいるが、彼もまたリエーナの村のことを思う長老なのだ。


「ほら、門が開きました。早く入りなさい」


 楕円形に歪んだ空間の中に半分だけ身体を入れながら、ルクティーユが言う。

 ララははっと気を取り直して、木箱を抱えて門の中へと飛び込んだ。


「おわっ、ほんとに一瞬ね!」

「当たり前です。そういう魔法なのですから」


 彼女達が辿り着いたのは、リエーナの村の広場だった。

 そこには仮設の救護所が広げられ、被害を免れた少ない村人達が、長老コルミとアーホルンの下で駆け回っていた。


「コルミ、アーホルン。コパ村から薬の材料を受け取ってきました」


 木箱を抱えたララを伴ってルクティーユが指揮所に入る。

 それに気が付いた二人の長老は、目に輝きを宿らせて出迎えた。


「やあ、これはありがたい!」

「ルクティーユが行くと言ったときは驚きましたが、まさか無事に持って帰ってくるとは!」


 信じられないと木箱の中身を確認する二人に、ルクティーユはピクピクとこめかみを痙攣させる。


「あとはこれを使って、薬を作るだけですが……」


 あたりを見渡しながら、ルクティーユが言う。


「人手が少し足りませんね。薬の必要数は膨大なので、手分けして作業を進めたいのですが……」


 動ける人員はララ、イール、ロミの三人と、長老たち、あとは村人達が数人である。

 そのうち、村人達は皆森へと薬の材料を探しに行ったり患者の看病をしていたりと手の空いている者は少ない。


「あたしは薬学は門外漢だぞ」


 指揮所の近くにいたイールが話を聞きつけてやって来る。

 しかし、彼女に専門的な薬学の知識は望めず、人選からは外れる。


「それなら申し訳ないけど私も無理ね」


 同じ理由で、ララも外れる。

 彼女ら二人は大人しく肉体労働にいそしむこととなった。


「わ、わたしは初歩的なことなら」

「それだけでも今は必要な人材だよ。よろしく頼むよ」


 おずおずと手を上げるロミに、アーホルンがにこやかな笑みを浮かべる。


「私たちもルクティーユ程ではないにせよ、手伝うことはできるわ」


 当然のように長老二人も参戦し、合計で四人となる。

 しかしルクティーユとしてはもう一押し欲しいのか、苦々しい表情のままだ。

 その時、指揮所に一つの人影が現れる。


「――儂が手伝おう」


 不機嫌で不本意そうなしわがれた声だ。


「ワシも、多少は手伝えるよ」


 それに続き、もう一つの人影。

 怪しげな声は、ララの耳にも良く通る。


「オルボン、ジローナ……!」


 それは、二人の老人だった。

 思わぬ人物の登場に、アーホルンが驚きの声を上げる。


「そうか……。オルボンが来てくれるのなら安心ですね」


 助っ人の存在を認め、ルクティーユが声を和らげる。

 疑問符を浮かべるララ達に、コルミが笑みを浮かべて説明した。


「実はね、オルボンは昔それなりに名の通った薬師だったのよ。今はもう引退しちゃったんだけど」

「そうだったの……。なんだか意外だわ」


 人は見かけによらないと言うが、それはエルフにも当てはまるらしい。

 ララはしげしげとオルボンを見て、感嘆の声を上げた。


「そこの人間共、何をぼさっとしておる! さっさと手伝わんか!」


 それに気が付いたオルボンが、顔を真っ赤にして声を張り上げる。

 ララ達は飛び上がり、早速行動を開始した。


「ほほ。それじゃあワシも少し本気を出そうかな」


 そう言って、ジローナが楽しげに笑みを浮かべ、袖を捲る。

 細い枝のような腕を振り、彼女もまた若かりし頃のことを思い出していた。

 まるで若返ったかのように、オルボンとジローナは驚く程の機敏さで指揮所の中を駆け回る。

 乳鉢を準備し、湯を沸かし、いくつもの魔法を巧みに操り、一瞬でそこは薬品を生成する工房へと早変わりしていた。


「これだけ人手があれば足りるかしら?」


 コルミがそっとルクティーユに歩み寄り、微笑みを浮かべる。

 そんな最長老の様子を一瞥し、ルクティーユは鼻を鳴らした。


「十分でしょう。あとは私たちが働く番です」


 そう言って、彼は手を上げた。

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