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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百三十七話「なんか私荷物持ちに来ただけになってる」

 枝を蹴り、根を飛び越え、白い少女は森を走る。

 伸びる蔦を払いのけ、時に曲芸師のような動きを見せる。

 ただ早く進むことだけを意識して、それだけに特化した今の彼女は、森に住む何よりも森での速さに勝っていた。


『ララ様、もうすぐ外に出るようです』

「やっとかー!」


 タンッ! と地面を蹴って落ち葉を散らしながら、ララが大きく息を吐く。

 整備のされていない、獣ですら通らないような道を最短距離で進んだが、それでもかなりの時間を要した。


「見えてきたわね」


 サクラの報告からそれほど間を置かず、ララの目にも周囲の変化が見て取れる。

 取り囲む木々の緑の密度が薄くなり、差し込む光が増える。

 幹の細い物が目立つようになってきた。

 前方に光が現れ、一歩毎にそれは大きくなっていく。

 そうして光の中へと彼女が飛び込めば、森は終焉を迎え、壮大な草原が変わりに彼女を受け止める。


「あそこね」


 そう言って歩を止めずにララは一点を指さす。

 その先には、以前訪れたコパ村の、昼餉の煮炊きの煙が上がっていた。

 アームズベアの襲撃にもへこたれず、彼らは強い意志で営みを続けている。

 ララは風を切って草原を走り、村の近くでナノマシンの発光を止める。

 そのまま常識の範囲内の速度で走り、村の中を歩く人々の顔を眺める。


「あ、いたいた。サムズ!」


 村人の中から見知った顔を見つけて、ララは大きな声と共に手を振る。

 突然の声に村人達はぎょっと目を開き、彼女が呼んでいる人物のほうへと視線を向けた。


「うん? ララじゃないか。どうしたんだ突然」


 サムズは驚いた様子で肩を上げ、彼女の方へと歩み寄る。

 昼前ということもあり、作業の方は一段落付いているらしかった。


「こんにちは。突然押しかけてごめんなさいね」

「いやまあ、それはいいが……」


 言いながら、サムズはまじまじとララの出で立ちを見る。


「お前さん、葉っぱやら枝やら飾り付けて、蓑虫みたいだぞ」

「え? ああ、ちょっと急いでたからね」


 パラパラと肩に乗った葉を払い落としながらララは笑う。

 なりふり構わず速度だけを求めて森の中を突っ切った為、全身に枝葉の欠片を付けていた。


「なんか急いできたんだろう? 用件を聞こうじゃないか」

「話が早くて助かるわ。実はエルフの村でちょっと大変なことになっててね。薬草を融通してもらいないかと思って」

「大変なこと? よく分からないが……。薬草と言っても色々あるぞ?」


 驚きながら首を傾げるという器用な反応をしたサムズ。

 彼の返答も尤もで、ララはどのような物が必要なのかを失念していたことに今更ながら気付く。


「あ、えっと……」


 考えなしに飛び出してきたことに、彼女は顔を青ざめる。


「その、村ではどういう薬草を?」

「ハーブから数えるなら、五十は下らないぞ」

「うえええ……」


 そのすべてを試す時間が、果たして今のリエーナの村に残されているだろうか。

 背中に冷たい汗が流れるのを、ララは感じた。

 その時、俄に周囲にいた村人達がどよめく。

 何事かとララが振り向こうとしたのと同時に、彼女の後ろからぶっきらぼうな声が響いた。


「ここに必要な品々を纏めました。一つでもあれば、それを売って頂きたい」

「る、ルクティーユ!?」


 そこに立っていた人物に、ララは思わず声を上げる。

 リエーナの村の代表たる三長老が一人、その中でも最も人間に嫌悪を示した人物が、そこに立っていた。


「なんで!?」

「緊急事態だからですよ。私だって、必要が無ければ来たくもなかった」


 リストをサムズに渡しながら、ルクティーユは苛立たしげな声で答えた。

 しかし、と彼は言葉を続ける。


「今は正にその必要があったということです。それが最善の手であり、唯一の方法であるのなら、私の思想などちっぽけで取るに足らないものに過ぎない」

「なんか……。凄く割り切った考えしてるのね」


 唖然としてルクティーユを見つめながらララが言う。

 彼はじろりとララを見つめ、フンと鼻で笑う。


「私は別に人間共と仲良くしたい訳ではありません。ですが、村の危機となれば話は別です」


 どこまでも冷静なその言葉に、ララは思わず喉を鳴らす。

 彼がなぜ最長老となったのか、なぜ精霊に選ばれたのか、その理由が分かった気がした。


「このリストにあるもんなら、すぐに揃うと思う。ただ、それなりに金は掛かるぞ?」


 リストを見たサムズはそう言って、早速手近な村人に集めるよう指示を出す。

 しかしその顔には、彼女達にそれに見合うだけの対価があるのか、訝しむ様子が見て取れた。


「残念ですが、我々は人間の通貨は持っていませんよ」

「そうなのか……」

「ですので、物々交換でお願いしたいのですが、大丈夫ですか?」


 ルクティーユの言葉に、サムズは眉を上げた。

 そんな彼に、ルクティーユはおもむろに懐から小さな袋を取り出して渡す。


「これは?」

「私が考える、対等な価値を持つものです」


 サムズが袋の紐を緩め、中に入っていた物をてのひらに出す。

 それの正体に気が付いたララが、思わず口を押さえる。

 少し遅れてサムズもその正体に気が付いたらしく、身体が震える。


「こ、これ……。こんな高純度の魔石、見たこともないぞ!?」

「それで足りますか?」

「足りるなんてもんじゃねえよ。おつりだって払えねえ!」


 神妙な顔で立つルクティーユに視線を向けて、サムズが吠える。

 天然物ではない、エルフが作り出した人工の魔石は、以前ロミが卒倒したように、人間界では見られない至宝だ。

 突然現れたそれに、周囲の村人達も気が付いたようだった。


「おつりなどいりません。今はこちらが誠意を示す場面ですから」


 ざわつく村人に取り囲まれながらも、ルクティーユは淡々と言う。

 そこに、以前彼がララ達に見せた人間への憎悪は感じられなかった。


「すぐに準備しよう。運ぶのも手伝った方がいいか?」

「ご心配なく。私とララさんで運びます」

「うえ、なんか私荷物持ちに来ただけになってるような……」


 完全に取り残されていたララが眉を下げる。

 その様子を一瞥し、人間嫌いなエルフの男は初めて薄い笑みを浮かべた。

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