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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百三十三話「村の様子がおかしいの」

 翌朝、ララはいつもと同じ時刻に目を覚ます。

 ナノマシンによって身体のほぼすべての機能を掌握できている彼女に、寝坊という文字はそれほどない。


「うーん、今日も良い天気、かな?」


 鎧戸を閉じた窓の隙間から外をうかがう。

 木々に囲まれ薄暗い朝靄の残る村の上空は、僅かに白く滲んでいる。

 今日は雲も少ない、快晴になりそうだった。


「ん、おはよ……」


 ララが着替えていると、もぞもぞと隣のベッドが蠢く。

 中から目を擦りながら現れたのは一糸纏わぬ姿のイールだ。

 流石に慣れたララは取り乱す様子もなく、側に置いてあった衣服を投げ渡す。


「おはよう。寒くないの?」

「布団に包まってたら大丈夫だ」


 大きな欠伸をして、イールはもぞもぞと袖に手を通す。

 ララはそのたびに揺れる巨大な双子山を白けた目で見つつ、小さく舌打ちした。


「ん、ロミは?」


 そんな彼女に気付く様子もなく、イールが首を傾げる。


「まだ隣で寝てるわ」


 そう言ってララは隣のベッドを見やる。

 純粋な笑みを浮かべ、至福の限りを享受しているようなとろける笑みを浮かべ、ロミは吐息を立てている。

 眠りは深く、そう簡単に目覚める様子もない。


「いつも通りだな」

「そうね」


 服の上からいつもの鎧を装着し、剣を吊り下げながらイールは苦笑する。

 ララもスーツの上に服を着て、ベルトにハルバードを吊る。

 髪を整え、寝床を片付けた二人は、まだ肌寒いツリーハウスの外に出た。


「ケイルソード達はまだ寝てるのか?」

「かな? 見てないから分からないけど、起きてる様子は無かった気がする」


 縄梯子を下りて、彼女達は村に点在する井戸の一つにやってくる。

 釣瓶を落とし、水をくみ上げる。


「はい、イール」

「どうも」


 冷たい地下の水で顔を洗い、眠気を吹き飛ばす。

 ララが持ってきたタオルで水気を拭い、イールは数度瞬きをした。

 琥珀色の瞳に怜悧な輝きが増し、いつもの凛とした表情が戻る。

 イールは軽く身体を解す運動をする。


「ふぅ。きもちー」


 身体に残る暖かい眠りの残滓が、冷たい水が洗い流す。

 さっぱり爽快な気分で、ララは思わず笑みを浮かべた。


「それじゃ、やろっか」

「おう。いつでもいいぞ」


 おもむろに、ララが腰のハルバードを取り出す。

 コマンドを入力し、起動させる。

 ただの白い棒が発光し、巨大な凶器へと変貌する。

 対峙するイールも、しゃりんと音を奏でて剣を引き抜く。

 常人ならば、到底片手で持つことなど叶わない大剣。

 異形の腕に握られたそれは、真っ直ぐに白い少女を捕らえる。


「……」

「……」


 一瞬の静寂。

 どこか遠くで、鳥のさえずりが聞こえる。


「はっ――!」

「ッ!」


 小さく息を吐き、二人はほぼ同時に地面を蹴った。

 間を置かず、金属同士が響き合う。

 剣戟は一度のみならず、二度三度と連なる。

 乱舞のようでいて、その実二人の瞳は極めて冷静だ。

 互いの剣筋を見定め、常に最適解を模索する。

 時に定石を崩し、相手の意表を突く。

 ある意味では呼吸の合った、見る者を魅了する美しいやりとりだ。


「はぁ……はぁ……」

「ふぅ……」


 たっぷり半刻ほどの時間を使い、彼女達は額に汗を浮かべる。

 ぴったりと髪の毛が肌に吸い付く。

 極限状態の集中から解き放たれ、忘れていた疲労が津波のように押し寄せる。

 ララは井戸の近くの倒木に腰掛け、荒い息を整えていた。


「イールの腕力、卑怯だわ」

「ララのナノマシンの方が大概卑怯だと思うんだが」


 ララはむっすりとした顔で言う。

 今日の模擬戦での勝者は、今正に誇らしげな顔で釣瓶を引き上げているイールだった。

 ララが必殺を確信した一突きを間一髪でいなし、逆に彼女の喉元に剣先を突きつけた。


「言っとくけど、私はまだハルバード使い始めて半年も経ってないんだからね」

「半年も経ってないのに、あたしと互角にやり合うどころかたまに勝ち取ってくるのはどうなんだ」


 汗を洗い流し、イールが呆れたように言う。

 毎日続けている二人の模擬戦は、最初の方こそイールが圧倒していた。

 しかしララは日を跨ぐごとに学習し、力を付け、最近の勝敗は三割ほどとなっていた。

 十数年の歳月を掛けて技を磨いてきたイールとしては、少々複雑な思いである。


「ほら、ララも汗流せ」

「く、臭くないよ!」

「誰も言ってないだろ」


 ララは冷たい井戸水を浴びて、火照った身体を冷やす。

 汗はすべてスーツが吸い取り、即座に蒸発させるため、すぐにサラサラになるが、やはり運動後の水は気分を爽快にさせる。


「ところでさ、イール」

「なんだ?」


 髪を滴る水を拭いながら、ララが話しかける。

 彼女は今朝起きてから、妙な違和感を感じていた。


「なんか今日、静かじゃない?」


 村の方を眺め、ララは言う。

 まだ朝方とはいえ、太陽も顔を出している。

 いつもならば、釜に火が入り、どこからともなく朝食の香りが漂うはずだった。

 だというのに今朝は未だに静寂が村に居座り、誰一人として通りを歩いていない。


「確かに。変だな」


 その違和感を、イールも憶えたらしい。

 彼女は胡乱な目で周囲を見渡す。


「とりあえず、一旦戻ろう。身支度整えて、あとロミを起こしてからだな」

「そうね。あとケイルソード達の様子も見ておきましょう」


 二人は手早く片付けると、ツリーハウスへと戻る。

 ロミは未だすやすやと暢気に眠っていたため、ララが強引に布団を剥ぐ。


「わひゃっ!? さ、さむ、どど、どうしたんですか!?」


 突然起こされたロミは、薄い寝間着姿で取り乱す。


「ちょっと村の様子がおかしいの。私たちの杞憂ならいいんだけど」

「……すぐに準備します」


 二人の表情を見て、ロミは瞬時に覚醒する。

 寝間着を脱ぎ捨て、いつもの神官服に身を包む。

 白杖を持ち、部屋を出る。

 まず向かうのは、家主でもあるケイルソード達の部屋だ。


「ケイルソード、ティーナ、起きてる?」


 控えめにノックしながら、ララが尋ねる。

 果たして返答はすぐに返ってきた。

 眠たげに眼を擦りながらドアを開けるのは、寝癖のひどいティーナである。

 彼女は物々しい様子のララ達に首を傾げる。


「ねえティーナ、今日って何か特別な日? 村が妙に静かなんだけど」


 ララが事情を説明するも、彼女は唸る。


「うーん、特に何かがあるわけじゃないよ。でも……確かに静かね」


 彼女は窓から村の様子を見て首を傾げる。

 彼女も違和感を憶える程度には、村の様子が変だったようだ。


「どうした、こんな朝早くに」


 そこへ、ラフな服を着たケイルソードもやって来る。

 いつもと同じく、眉間には深い皺が寄っている。

 ララ達が彼にも同じような説明をすると、ケイルソードは首を傾げながらもすぐに身支度を調え外に出てきた。


「ティーナはここで待ってろ。俺たちは村の様子を見てくる」

「ちょっと、私も行くわ」

「……早くしろ」


 ティーナも着替え、手櫛で髪を押さえながら現れる。

 そうして、五人は静寂に包まれた村へと駆けだした。

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