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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百二十九話「そんなもの、関係ない」

「サクラ、遠距離武装展開。光学的状況把握」

『了解。第一種遠距離武装展開。光学的状況把握。――脅威対象は大型魔獣アームズベア一体。コパ村には現在二十人以上の村人が存在しています』

「ビームライフルで牽制……は村人を混乱させるかな。閃光弾で私たちの存在を示しましょ」

『了解。閃光弾、発射』


 サクラの上部が開口し、太く短いノズルが現れる。

 なおも一定の速度で走りながら、サクラはそこから一発の弾丸を射出した。

 それは空中を高く飛翔し、一瞬で最高高度に達する。

 その瞬間、外殻が弾け、強烈な光が降り注ぐ。


「ひゅう! やっぱり派手なのはさいこーね!」

『派手すぎるのもどうかと思いますが……。と、村人もアームズベアも閃光に気を取られて行動が一時止まりましたね』

「それじゃ、今のうちに切り込むわよ!」


 ダン! と地面を強く蹴り、ララは飛び上がる。

 全身を巡るナノマシンを呼応させ、状態を戦闘に適した物へと移行する。


「第一種近距離戦闘装備展開」


 腰のベルトに吊られていた小さな金属が展開する。

 ララの身体に這う様に広がり、生物的に脆弱な箇所を補強する。

 カミシロで、対サクラ用に用意した装備は、ここでも役に立つ。

 徹底的に無駄を廃し、胸、腕、膝などの致命的な部分だけを保護する軽鎧が彼女を包み込む。

 白銀に輝く衣装に身を包み、ハルバードを展開する。

 陽光に煌めく彼女は、まさに天の将の如き神々しさを伴っていた。


「エネルギー補填。残量70%か……。多分いける!」


 白く輝く光が、彼女の両足に纏われる。

 高周波の甲高い音を発し、エネルギーが凝縮される。

 それを一気に解放し、ララは地面と平行にスピードを上げて飛び出す。

 風を置き去りにして、彼女は村へと到達する。


「あ、あなたは……」


 崩れかけた小屋の影に隠れていた女が、唖然とした様子で彼女を見つめる。

 その腕には小さな赤子が抱かれていた。


「安心して。貴女たちを助けに来た」


 そう言って、ララは微笑む。

 女が言葉を返す間もなく、ララは村の中へと飛び込んでいった。


『ララ様、あのアームズベアかなり大きいのではないでしょうか』

「そうね。私が前見たのよりも随分大きいわ」


 後方のサクラから通信が入る。

 その意見に、彼女も頷いた。

 前方で咆哮を上げる巨熊は、小屋すらも越える大きさだ。

 質量に任せた乱暴な腕のスイングにより、村を守る男たちもおいそれと近づけずにいる。

 かつてララが瞬殺した物など、恐らくはほんの子供なのだろう。

 全身を覆う筋肉はまるで巨岩のように迫り上がり、大きな顎には鋭い牙が光っている。

 野生の炎に燃え盛る赤い両目は、貧弱な槍を持って取り囲む人間たちを捕食対象としか捕らえていなかった。


「久しぶりね! 『旋回槍(スピンショット)』!」


 巨大な六腕の熊へと近づきながら、ララは挨拶代わりの一投を差し向ける。

 猛烈な勢いで周辺の大気を諸共ねじ上げながら、一条の風の槍が熊の胸へと突き刺さる。


『グルゥアアアッ!』


 チクチクと全身を刺され、煩わしさに哮っていた巨熊は、突如割り込んできた一撃に驚愕の声を上げる。

 周囲の人間など一瞬で意識の外へと放り出され、赤い瞳がララを捕らえる。


「ちっ、あれで倒れないの」


 土砂のように血を流しながら、しかし熊は未だ堅強な足で大地を踏みしめていた。

 しかもその傷さえ、今この瞬間に閉じようとしていた。

 驚異的なほどの生命力に、ララは思わず悪態をつく。

 村人たちの包囲網を力ずくで突破し、アームズベアはララに向かって突進する。

 その瞬間、熊の肩を光の弾丸が掠めた。


『ラグゥ!?』

「およ?」

『援護します、ララ様』


 怯むアームズベアを逃さず、更に二の矢三の矢が飛来する。

 それは的確にアームズベアの関節を射抜き、行動を阻害していく。

 ララの背後から繰り出されるそれらは、武装を展開したサクラによる援護射撃だった。


『ララ様、私の攻撃ではトドメはさせません。よろしくお願いします』

「分かったわ。イール達が来る前に決着つけてやるんだから」


 サクラの通信に頷き、ララはハルバードを握って立ち上がる。

 アームズベアの傷は塞がれ、五体満足な状態で対峙する。

 一瞬の睨み合いの後、ララは決壊したダムの如き勢いを以て近接する。


「そーれっ!」


 大振りなハルバード。

 彼女の足を軸として、大きく旋回する。

 十分に運動エネルギーを蓄えたそれは、防御姿勢を取らない熊の脇腹へと突き刺さる。

 ナノの極地に至るまで鋭利で、何よりも硬い一撃が、毛皮を脂肪を筋肉を切り裂く。

 巨熊の顔に、明らかな驚愕と苦悶が表れる。

 そうして、恐ろしいほどの憤怒がそれらを燃やす。


『ガッァァアアアアアッ!!!』


 野生の咆哮が空気を揺らす。

 二本の太い足で大地を掴み、四本の腕を広げて力を鼓舞する。

 傷は瞬時に再生し、赤い瞳が睥睨する。


「……流石にこれおかしくない?」


 ここまで来て、ララも少しずつ違和感を憶え始めていた。

 いくらなんでも、再生力が高すぎやしないだろうか。


「ララ、大丈夫か!」

「ララさん!」


 そこへ丁度、後続の二人が追いつく。

 ララはアームズベアから視線を外さずに声を張り上げる。


「二人とも、この熊ちょっと変よ。再生力が高すぎるっ!」

「見てたので知ってます! 尋常じゃ無い魔力を体内に隠してますよ」


 ロミの返答に、ララははっとする。

 視界を切り替え、魔力を可視化する。

 濃密で、吐き気を催すほどの濃密な魔力が、巨熊を包み込んでいた。


「これはまた……」


 迫る来る巨腕の連撃をハルバードでいなしつつ、ララは舌打ちする。

 これほどの魔力は、あの水竜ですら備えていなかった。

 恐らく尋常のものでは無い。


「拘束しますっ!」


 ロミが魔法を展開し、アームズベアの足下に魔方陣が現れる。

 黒い手が湧きだし、毛皮を掴み拘束する。


「そらよっ!」


 そこへ剣を抜いたイールが飛び出し、脚の裏を狙って刃を当てる。

 鮮血が吹き出し、靱が断ち切られるが、それでもなお熊は倒れない。

 その間にも熊は太い腕を振って荒ぶり、ララはそれを牽制する。

 サクラの援護も加わり、四対一の戦況にもかかわらず、アームズベアに致命の一撃は入らない。


「あーもう! これじゃあじり貧よ!」


 ララのエネルギー残量は四割を切っていた。

 身体を強化し、ハルバードを絶え間なく振り回すだけでも、エネルギーは恐ろしいほどに目減りしていく。

 イール達も疲労には抗えない。

 薄らと終焉が見え始める。


「――ララ」

「なに!」


 突如、イールが足を止める。

 ララが攻撃をいなしながら聞き返す。


「ちょっと危ない事するから、一瞬だけ熊頼む」

「分かった!」


 短いやりとり。

 ララは更に接近し、アームズベアと肉薄する。

 赤い狂気に飲まれた視界を、彼女は身体で覆う。

 脇腹を刺し、心臓を貫き、筋を断ち切る。

 急所と呼ばれる場所を華麗な立ち回りで攻撃して回り、彼女は熊の注意を引きつける。

 傷は瞬時に再生するとはいえ、痛覚は健在らしい。

 明確な傷を与えるララにアームズベアは怒り心頭で、大きな咆哮を上げて釘付けになる。

 結果、視野狭窄に陥り、周囲の状況把握はおろそかになる。

 軽やかに翻弄するララの背後で、イールが剣を落としたのには気付かない。

 彼女は籠手を外し、地面に投げ捨てる。

 現れるのは、禍々しい鱗に覆われた、赤黒い異形の腕だ。


「たまには役に立てよ」


 そう言って彼女は微笑む。

 右腕を固く握りしめる。

 ドクドクと熱い血液が流れ込むのが分かった。

 じんと熱を持ち、それは励起する。

 眠りから覚め、真なる力を解放する。


「ぎゃっ!」


 敵の注意を引いていたララが、イールの真横を飛ぶ。

 アームズベアの渾身の一撃が、彼女の脇腹を強かに殴りつけたのだ。


「すまないララ。……十分時間は稼いでくれた」


 イールが巨熊を睨む。

 赤い長髪が炎のように舞い上がる。

 メキメキと音を立て、異形の腕が肥大化する。

 鱗はより厚く、爪はより鋭利に、より凶暴的な姿へと変貌する。


「す、凄い魔力です……」


 後方のロミが、彼女の腕から漏れ出す魔力に絶句する。


「これだけでいい。お前程度なら」


 琥珀色の瞳が熊を射抜く。

 異常な程の魔力を有するアームズベアは、久しく恐怖という感情を思い出す。

 イールが地を蹴る。

 鬼神の如き圧に、アームズベアの本能は抗えない。

 身を縮め、腕を交差させ、情けなく防御姿勢を取る。


「そんなもの、関係ない」


 冷徹な声でイールは腕を振り上げる。

 肉を砕き、骨を断つ。

 獣の絶叫が響く。

 血を固めたような赤黒い爪はいとも容易く防御を崩し、彼の心臓へと到達する。

 ドクドクと恐怖に脈打つそれを握り、イールは口角を上げた。


「――!」


 生々しい感覚。

 熟れた果物を潰すように、肉が弾けた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] サクラは203話で『一応、自衛手段としてはいくつかあるんですが、最後の切り札的な物でして。一番使いやすいものでも、最低でも接触しなければ使えないほど射程が短いのですよ』といっていたのに…
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