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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百二十六話「これで、旅が捗るわ」

「イール?」


 突然放たれた名前に、ララは首を傾げる。

 オビロンと彼女の間に、接点を見出せなかった。

 少し考え、ララはオビロン――正確にはオビロンの代役をしていたシルフィだが――がイールについて言及していたのを思い出す。


「親友の寵愛を受けた娘っていうのと関係あったりする?」


 彼女の問いは、的を射ていたらしい。

 オビロンは微笑して頷く。


「あの腕は、私の親友の加護によるものです。授けられた者には、多大な力と引き換えに大いなる災厄が降り注ぐ。シルフィを通して見たところ、上手く付き合えているようですが……」

「そうねぇ。邪鬼の醜腕だっけ? 禍々しい名前だけど、彼女はそれなりに使いこなしてるんじゃないかしら」


 ララは顎に人差し指を添えて言う。

 確かに魔力を根刮ぎ吸収してしまう為、イールはほぼ全ての魔法が使えない。

 しかし、その対価として人ならざる怪力を有し、それを以て傭兵稼業も順調だ。


「そういえば、武器作ってくれるって聞いて楽しみにしてたわよ」

「そうでしたか。では、近いうちに、久しぶりに作りましょう」


 ツリーハウスでの会話を思い出し、ララがオビロンに伝えると、彼女は俄然やる気を出して言った。


「あの加護は、本人の意思に関係なく溢れ出し、多くの場合は無辜の民を傷つけるしかありません。ですので、私も少し心配だったのです」

「イール以外にもあの腕を持ってる人はいるのね」

「あまり多い訳ではありませんが。多くの者はあの加護が現れた時点で、周囲から迫害されるか、負荷に耐えきれないため……」


 物憂げな表情でオビロンが言う。

 イールが涼しい顔でいるためにララも気が付かなかったが、邪鬼の醜腕というのは、所有者にかなりの負荷を掛けるものだったようだ。


「迫害か……。今のところ、普段は籠手で隠してるし、そんなのは見たことないかな」

「見えない、というのは最も効果的な隠蔽法ですからね。今後も、要らぬ災いを呼び込まぬようにそうするべきでしょう。本人には、あの腕を取り払うという気はなさそうですしね」

「そうね。最初はあれを治す為に旅に出たらしいけど、今じゃ自分の戦力として数えてるみたい」


 その気になれば、オビロンなら簡単にあの腕を治すこともできるのだろう。

 しかしその事実を伝えたところで、あのイールがどう答えるか、ララはおおよそ予想していたし、恐らく当たっているはずだった。


「ただ、もし、彼女が求めるのであれば。こちらはいつでもそれに応えましょう」

「分かった。それはイールにちゃんと伝えるわ」

「それと、武器の方は数日かかると思っていて下さい。久しぶりに頑張るので」

「あ、うん。……ほどほどにね?」


 女神の聖槍やらなんやらと、神話級の武具を創造したらしい彼女の本気というのは、見たい気持ちもあるが、反面恐ろしいものもある。

 場合によっては邪鬼の醜腕よりも要らぬ反感を買いやすいかもしれない。

 ふとララが視線を動かし、オビロンの背後に控えていたシルフィに視線を合わせる。

 彼女は困ったように目を細め、小さく頭を下げた。


「ああ、そうだ。古代遺失技術と、貴女の船の場所をお伝えしなくては」


 オビロンが思い出したように手を叩く。

 彼女は手を振って、テーブルの上に紙とペンを現す。


「便利そうね、それ」

「塔の中なら、アルメリダにだって負ける気はしませんよ」


 羨ましげにララが言うと、オビロンは鼻を鳴らす。

 今、この場に於いて、彼女は全知全能に匹敵するほどの神権を持っているのだ。

 そんな恵まれた能力を惜しげもなく使い、彼女は白紙の紙にペンを走らせる。


「全てを書き連ねると流石に量が多くなってしまいますね」

「というか、そんな重要書類持ち歩きたくないわ……」


 全ての古代遺失技術の在処が書かれた紙など、どこかでその存在がばれた時点で気ままな旅は命がけの逃避行へとシフトすることだろう。

 一先ず、ララは自分たちが徒歩で行ける範囲内にある物に限って教えて貰うこととした。


「私の船の方は、全部残ってるかしらね」


 彼女としては、どちらかというと船の方が重要である。

 工作室や図書室があれば、かなりの戦力増強に繋がる。

 しかし冷凍睡眠装置が今まで無事だったからといって、他の施設も無事だとは限らない。


「流石に私もそこまでは存じません。あれらは本来、この世界にあってはならない異物ですので」

「そうよね。うーむ、探すのは大変そう」


 オビロンの声に、ララは困って眉を寄せた。


「……これくらいでしょうか」


 そう言って、オビロンがペンを置く。

 差し出された紙には、細やかな字で地名が書き記されていた。

 その意味を知るものが見れば、まさに宝の地図である。


「ありがとう! これで、旅が捗るわ」

「良いのですよ、これくらい。それよりも……」

「村との交流の件ね。ちゃんと進めるわ」


 もちろん、そちらも忘れてはいない。

 ララは丁寧に紙を懐に仕舞い、白い歯を見せて言う。

 元々、彼女達に頼まれた用件は果たさねばならない。


「そう言って頂けると、こちらとしても心強いですね」


 そう言って、オビロンは目を細めた。


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