表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/352

第二百二十五話「聞いてみるものね」

 一瞬の暗転。

 その後の彼女の眼下に現れたのは、息を飲むほど広大で絢爛豪華な空間だった。

 上質な深紅の絨毯の敷き詰められたその部屋は、奥が見えないほどの大空間だ。

 天井も見えず、煌びやかなシャンデリアが空中に浮かんでいる。

 水や風の奏でる音楽がどこからか流れ、柔らかな空気が二人を包む。


「ここがミニミアの内部。オビロン様の玉座です」

「なんていうか、スケールが違うわね。流石は精霊というべきかしら」


 絶句するしかないララに、シルフィは胸を張り誇らしげに鼻を鳴らす。


「ミニミアは世界に根ざす塔。世界の全てがここにあり、世界のどこへでも繋がっているのです」

「塔ね。世界樹って言葉がしっくり来る気もするけど」

「確かに、そのように形容されることもありますね。何せオビロン様は植物と縁の深い御方ですから」


 シルフィは頷き、立ち止まっていた足を進める。

 それに追随していたララは、妙な違和感を覚えて首を傾げる。


「なんか、私たちの歩く速度早くない?」


 一歩歩けば十歩も、もしくはそれ以上に進んでいるような気がする。

 周囲を流れる景色が、一瞬で移り変わる。


「ああ、申し訳ありません。慣れない方には少し辛いですよね」


 シルフィは彼女の様子に気が付き、申し訳なさそうに言う。


「ミニミアの内部は広大なので、目的の場所までの距離を短縮する仕掛けがあるんです。そのせいで外の世界とは多少感覚が違っていて」

「そっか。……うん、慣れた。もう大丈夫よ」


 説明を聞きながら、ララは感覚を調整する。

 多少驚きはしたが、便利な機能である。


「それでは、先に進みますね」


 そう言ってシルフィが腕を差し出す。

 ララもそれを握り、二人は歩き出した。

「む、粒子が濃くなってきたわね」


 シルフィと手を繋ぎながら歩いていたララが不意に声を上げる。

 眉を顰め、しきりにあたりを警戒する様子は、気難しい猫のようだった。

 彼女の顔を見て、シルフィは眉を下げる。


「流石ですね。もう少しでオビロン様の所に着きますよ」


 その宣言通り、それから数分もしないうちに、彼女達は前方に白く輝く何かを見つける。

 まだ遠く、微かに靄が掛かったように輪郭が定かではないが、それは簡素ながら品のいい玉座らしかった。


「あそこに座ってる人?」

「はい。あの方こそが正真正銘、本物のオビロン様です」


 不思議な塔の、一歩歩けば百歩進む魔法のお陰で、驚く程の速さで影は鮮明になっていく。

 玉座はララの想定よりも遙かに大きかった。

 背もたれは見上げる程大きく、まるで巨大な柱のようだ。

 反面、座面は小さく、そこに座る女性も必然小さくなる。

 イールと同じくらいの身長だろうか。


「あの人が……」


 歩調を緩めながら、ララが感嘆する。

 薄い紗を纏い、葡萄色の透けた覆いで口を隠している。

 細い手に捻れた枝の杖を持ち、青い瞳が二人を見て微笑んでいる。


「ようこそ、ミニミアへ。そしてまずは、昼の無礼をお許し下さい」


 オビロンは静かに立ち上がると、恭しく頭を下げる。

 驚いたのは、ララの方である。

 まさか彼女がそのような行動を取るとは予想できず、わたわたと慌てて両手を振る。


「そんな、別に私殴り込みに来たわけじゃ」


 慌てる彼女に、頭を上げたオビロンは薄く笑みを浮かべる。

 金にも見える薄い緑色の長髪が小さな顔を煌びやかに彩り、太陽のような生命力に溢れた笑顔だ。


「分かっておりますよ。途中から、少し覗かせて貰っていましたので」


 オビロンは悪戯っぽくそういうと、ぷっくりとした唇に人差し指を当てた。

 彼女の領域内を駆け抜けてきたのだ、彼女が気付いていないはずも無かった。


「シルフィも、案内ご苦労様でした」

「はっ。滅相もありません」


 いつの間にかシルフィはララの隣を離れ、玉座の傍らに膝を突いていた。

 彼女はオビロンに労いの声を掛けられると、嬉しそうににやける顔を隠そうと俯いた。


「それでは、まずは歓待の準備をしないといけませんね」


 そう言って、オビロンが杖をコンと突く。

 水面に波が広がるように、絨毯の敷き詰められた床が揺れる。


「おお!?」


 驚くララの目の前に現れたのは、小柄なテーブルセットだった。


「大きい物も出せますが、二人で座るならこれくらいでいいでしょう?」


 そう微笑みかけながら、オビロンは玉座を立つ。

 ララもシルフィに促され、テーブルを隔てた対面に腰を下ろした。


「来客なんて何年ぶりかしら。今までずっと引き籠もってたから、ちょっと緊張するわね」


 言葉の割にうきうきと楽しそうにしながら、オビロンが言った。

 人間よりも更に高位な存在であるため、もっと高貴で威厳のある人物だと勝手に想像していたララは、そんな彼女の親しみやすい姿に少なからず驚いた。

 彼女達の隣で、どこから持ってきたのかティーセットを用意して、シルフィが甘い香りのお茶を準備していた。


「それでは、準備も整いましたね。お話しましょうか」


 目を細め、さも楽しげにオビロンが言う。


「幾億の星を越えて、この大地に降り立った貴女は、どんな事を聞きたいのかしら?」

「色々知ってくれてるのね。嬉しいわ」

「私は世界を見る者。何か見慣れないものがあったら、すぐに気が付くわ。だから、あの日、空から銀の匣が飛来した日から、その目覚めを密かに待っていたのですよ」

「また気の長い話ねぇ」


 装置は半分地中に埋もれ掛かっていた。

 墜落してから、かなりの月日が経っているはずだ。

 それを彼女はどのような思いで待っていたのか。


「私にとっては、それほど長い時ではありませんでした。永遠の炎を持つ者には、一瞬も悠久もさほど違いはありませんので」

「神様みたいな感覚ね。私にはよく分からないわ」

「神様ですから」


 えっへん、とオビロンは可愛らしく胸を張る。

 想像される神様の例に漏れず、彼女も随分と神様らしい胸囲を揺らす。


「その後、私たちが色んな所を旅してたのは知ってるの?」

「ええ。私も日々の業務があるため、断片的にですが」


 神様と言えど仕事からは逃れられないのか、彼女は眉を寄せて言う。

 なんとも世知辛い神様社会を垣間見て、ララも肩を竦めた。


「それじゃ、私たちが何を探してるのかも知ってるのね」


 ララの問いに、彼女は頷く。


「貴女方が古代遺失技術と呼ぶ、前時代の遺産。そして、貴女がやって来た時に飛散した銀の欠片たち。ですよね?」


 淀みなく返ってきた答えに、ララは満足げに頷く。


「ソールにも教えて貰う約束はしてるんだけど、オビロンは何か知らない?」

「むしろ私が知らないはずもないです」

「ですよねー」


 確信を持ってララが話を進めれば、オビロンも素直に頷く。


「それじゃあ、教えて貰えると嬉しいんだけど」

「いいですよ。久しぶりの来客、できうる限りのおもてなしをさせて下さい」


 ララのお願いに、オビロンは快く頷く。

 ララは立ち上がり、目を見開いて驚く。


「ありがとう! 聞いてみるものね」

「私にとっては、それほど重要なものでもありませんので」


 感激するララに、オビロンは軽く言う。

 世界を俯瞰する彼女にとっては、点在する遺跡や異物の場所を教える程度造作も無いらしい。


「それよりも、ですね」


 カップで唇を濡らし、オビロンが話題を切り替える。

 首を傾げるララを見て、彼女は目を細める。


「私も一つ、伺いたいことがあるのです」

「何かしら? 答えられることなら答えるけど」


 一宿一飯どころではない恩を受けたララは、ぽんと胸を叩く。


「ララさんと行動を共にしている、赤毛の少女——イールと言いましたか。彼女の様子はどうですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◆剣と魔法とナノマシン1〜7巻まで好評発売中です!
◆合法ショタとメカメイド1〜3巻もよろしくお願いします!

ナノマシン
第1巻 ⚫︎公式ページ ⚪︎ Amazon Kindle ⚪︎ Book Walker
第7巻(最新) ⚫︎公式ページ ⚪︎ Amazon Kindle ⚪︎ Book Walker
メカメイド
第1巻 ⚫︎公式ページ ⚪︎ Amazon Kindle ⚪︎ Book Walker
第3巻(最新) ⚫︎公式ページ ⚪︎ Amazon Kindle ⚪︎ Book Walker
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ