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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百十七話「とても大切なことだと思うよ」

「それじゃあ麗しいお客様の名前も知れたことだ。贈り物の方も受け取っていいかな?」

「もちろん。ちょっと待ってね」


 ララが懐から、ジローナから預かった包みを取り出す。

 リストの文字と併せて確認し、それをモノクに手渡す。


「おお、これか! いやぁありがとう。助かるよ!」


 包みを手に取っただけで中身が分かったのか、モノクはまた大げさな身振り手振りで喜ぶ。

 彼が早速包みを開けると、中には木箱が入っており、それを慎重にカウンターに置いてゆっくりと蓋を開く。


「中身を聞いても良いかしら?」


 好奇心で首をのばしてのぞき込みながら、ララが尋ねる。


「もちろんだとも!」


 そう言って、モノクは見やすいように箱を回転させて彼女たちの方へと向ける。

 箱の中には、マスティアの時と同様に白い綿が敷き詰められていた。

 その柔らかに保護された中に収まっているのは、透明な青と赤の二つの石だった。

 丸く研磨されたそれは、宝石のような輝きを放っている。


「水と火の魔石だね」


 ソールがそれらの名前を言い当てると、モノクは頷く。

 対照的に、イールとロミは驚きの表情を隠せないでいた。


「こ、これ魔石なのか!?」

「こんなに透き通って……。すごく純度が高い魔石ですよね」


 いつものごとくちんぷんかんぷんなララが、ロミの袖を引っ張って説明を乞う。


「魔石は分かりますよね?」

「魔獣の体内にあるやつでしょう?」

「そうです。その魔石にも品質があって、純度が高いほどその色は透明度を増すんです」

「そういえば、今まで見てきた魔石は濁ってるというか、あそこまで透き通っていなかったわね」

「そうなんですよ。あれだけ高純度の魔石、それこそ竜種くらいからしか採取できないような」


 段々とその価値が分かってきたララは、改めて箱の中の魔石を見る。

 どちらも向こう側が見えるほどに透き通った魔石である。


「それは何のための魔石なの?」

「ああ。これは調理場の魔導具に使うんだよ。青は水生成、赤は炎生成だね」

「なななっ!?」


 あっさりと言うモノクに、ロミが驚き声をあげる。


「そそそ、そんなに希少な魔石を、それだけのために!?」

「でも、これくらいの純度がないと安定した炎や綺麗な水が出ないからね」


 ララは今にも失神しそうなロミを必死に支える。


「あー、そこの君たち。何か勘違いしてるね」


 そこへ口を割り込んできたのは、苦笑したソールだ。

 ロミが首を傾げていると、彼は続きを話す。


「確かにこの魔石は純度が高いものだけど、価値はそれほどないよ」

「な、なぜですか……?」

「理由は簡単。これが人造魔石だからさ」


 一瞬の静寂が店内に満ちる。

 ロミは固まったまま動かない。

 ソールの言葉の理解に、時間が掛かっているようだった。


「エルフは持ち前の膨大な魔力を使って、魔石を作ることができるんだ。とは言っても向き不向きはあるから、魔石職人なんていう職業のエルフにしかできないわけなんだけど」


 つまり、と一呼吸置いてソールは続ける。


「純度は高いけど天然モノじゃない。お値段もぐっとお安い」

「……きゅぅ」

「ちょちょちょ、倒れないで!?」


 処理能力の限界を越えて、ロミがぐったりと倒れる。

 支えていたララは慌てて力を込めて彼女を引き留める。

 そんな様子を、モノクは不思議そうに眺めていた。


「それじゃあ届け物も無事に渡せたことだし、昼食にしようか」


 オーリエのテーブルへと移動しながら、ソールが言う。

 時刻も丁度昼になり、皆も空腹感を覚えてきた所だった。


「そういうことなら、腕によりをかけて作らせて貰うよ」


 カウンターの向こう側から、モノクも張り切った様子で袖を捲る。


「ここのおすすめはルビの葉蒸しとパンケーキなんだっけ?」

「そうそう。ルビの葉蒸しは一度食べてみるといいと思うわ」


 ティーナは頷き、是非にとララ達に勧める。

 彼女達も初めて食べるエルフの料理である。

 期待に胸を膨らませ、全員がそれを希望した。


「兄さんもそれでいい? ソールも? じゃあ六人前ね」


 結局、全員が同じものを頼むことになり、代表してティーナがモノクに声を掛ける。


「モノク、ルビの葉蒸しを六人前頼めるかしら」

「はいよ。しばしお待ちを」


 モノクは大仰に頷くと、早速調理に入る。

 なれた様子で調理器具らしい魔導具を扱う彼の様子を、ロミは遠い目で見ていた。

 あの魔導具の中に組み込まれ、動力源となっているのは、人間の社会ではまずお目に掛かることができないような、高純度の魔石である。


「まさか、エルフの社会だとあれがありふれたものだったとは……」

「驚いてるのは僕らも一緒さ。人間は魔石を魔獣から取り出すしかないなんて、森を出て初めて知ったときは中々信じられなかった」


 呪詛の様に漏れ出たロミの言葉に、ソールが苦笑いを浮かべて言った。

 エルフは、持って生まれた膨大な魔力と高い魔法的素養によって、人間界では希少な魔石を自ら生み出すことができた。

 それは、ロミのような人間の魔法使いから見れば、手から黄金を生み出すようなものだ。


「なんか、それを人間に知られたらマズい気もするな」

「あー。奴隷狩りとかになりそうかも。違法だったとしても隠れてする奴は出そうねぇ」

「そんなにか……。うぅん、人間との共存っていうのは難しいねぇ」


 危機感を覚えるイールとララに、ソールは渋い表情になる。

 それほどまでに、魔石の価値というのは人間にとって高すぎるのだ。


「ほら、難しい話は置いておいて、腹ごしらえした方が良い」


 六人が難しい顔で黙っていると、両手に皿を乗せたモノクがやって来た。


「わ、これがルビの葉蒸し?」


 木皿の上にあるのは、大きな葉で包まれた料理だった。

 微かな湯気と共に感じるのは、覚えのある香りだ。


「ん~、この香り、どっかで嗅いだような……」

「ルビオ茶じゃないのか?」

「それだ!」


 以前に飲んだこともある、ルビオ茶。

 アルトレットでは比較的ポピュラーで、庶民にも広く親しまれている飲料だ。


「ルビの葉を使って作るお茶が、ルビオ茶なのね」

「私も葉っぱをそのまま料理に使うのは初めて見ました……」

「茶葉をパンケーキに練り込むとかは聞いたことあるけどなぁ」


 葉蒸しを囲み、ララ達は口々に語り合う。

 同じ食材でも、文化が違えば調理法も違うのだ。


「さあさあ、とりあえず食べてくれ」


 モノクが追加で残りの人数分の皿も持ってきて言う。

 全員分が揃ったところで、ララ達は一斉に食べ始めた。


「いただきます!」


 細い糸で閉じられたルビの葉を開くと、中に詰まっていた蒸気が香しい香気と共に解放される。

 葉に包まれているのは、細長い淡い黄色の木の実だった。


「これは?」

「若いルビの実だよ。熟し切ると凄く固くなって食べられないんだけど、できてすぐの若い実は甘くて美味しいんだ」


 早速フォークを使って切り分けながら、ソールが言った。

 改めて見て、ララはバナナに似ているように思う。

 恐る恐るフォークを入れると、予想より遙かに柔らかかった。

 少しねっとりとした果肉は、差し込まれたフォークに吸い付くように離れない。

 高温で蒸されたことで、しっとりと仕上がっているようだ。


「……はむ」


 一口大に切ったそれを、口に運ぶ。

 ねっとりしっとり、ほくほくとした食感が口の中に現れる。

 ほのかに甘い香りが突き抜け、濃厚なコーンの様な味が追いかける。

 時折感じるピリリとした刺激は、一緒に蒸された香辛料によるものらしい。


「ほわぁ……」


 一口で感じる満足感に、ララは思わず声を上げる。


「エルフの料理でも、人間の口に合うのね」

「そうだね。僕も人間の料理でも好きな物は多いよ」


 少し驚いて言うララに、ソールも頷く。

 村を出て、人間の町を旅してきた彼だからこその感想だ。


「ただ、エルフは動物の脂とか肉とかは好まないんだよね。そのあたりが使われていないか確かめるのは大変だったよ」

「そっか……。焼き肉食べられないのか……」

「そうだねぇ」


 憐憫の目を向けるララに、ソールは思わず笑い出す。


「でも、同じ物を美味しいと思えるのは、とても大切なことだと思うよ」

「それは私も同感ね」


 パクリとルビの実を口に運びながら、ララは頷いた。

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