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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百十六話「いつか床が抜けるんじゃない?」

 マスティアは周囲に向けて見せたあと、そっと綿の中に種を戻す。

 随分と希少な品らしく、綿の中にある種はたったの五粒だけだ。


「はあ、今から育てるのが楽しみだ! これがあれば、リエーナももっとずっと明るくて綺麗で華やかな村になるぞ!」


 職人としての部分がおおいに刺激されているのか、マスティアは吠えるように言う。

 いても立ってもいられなくなったのか、彼は土間の片隅にある道具入れからスコップと如雨露を持って家を飛び出した。


「ちょっと守護樹へ行ってくる! ボタニカは他の奴の世話を頼む! それじゃあね!」

「ええ、ちょ、師匠っ!?」

「わ、私たちも置いて行くんだ……」


 疾風の如き速さで飛びだしていったマスティアの背中に手を伸ばし、ボタニカが叫ぶ。

 ララ達も家主が出て行ってしまったことに驚き、呆気にとられた。


「えっと……」


 ボタニカがララ達の方へ振り返り、言葉に詰まる。


「なんか、うちの師匠が申し訳ないね」

「いやぁ、マスティアは昔から植物の事が絡むとああだからね。今更仕方ないさ」


 マスティアの事をよく知るエルフ組は、ソールの言葉にうんうんと頷く。

 彼のあの奇行はかねてより知られているらしい。


「ま、それはそれとして、だ。ボタニカ宛ての荷物はなんなんだい?」


 差し支えなければ見てみたい、と言うソールに、ボタニカは快く頷く。

 彼女宛の荷物は、マスティアのそれより一回り大きい。

 両手でしっかりと持たなければいけない程度の、長方形の箱だ。


「私もこれ、ずっと楽しみにしてた奴だと思うわ」


 心なしか声を弾ませながら、ボタニカは封を解いていく。

 縄を解き、箱の鍵を開け、そっと蓋を取る。


「やっぱり! これで仕事が捗るわ」


 ボタニカは歓声を上げ、箱を手近な棚に置く。

 そうして中から取りだして掲げたのは、木製の如雨露だ。

 口の長い、滑らかな表面の艶がある一品で、丁寧に作られていることが素人目に見ても分かる。


「木製の如雨露っていうのは珍しいな」

「人間達は鉄をよく使うんだっけ? エルフは鉄がダメだからね。こういう水に強い木を使って作るんだよ」


 興奮して隅々まで眺めるボタニカの代わりに、ソールが答える。

 種族的に金属が触れないエルフは、刃物も水回りの物も、全て木材から作り出す。

 木材と言ってもそのあたりに生えているような普通の木ではなく、エルフの栽培師が特別に手を掛けて育てた特殊な木のようだ。


「栽培師にとって如雨露とスコップは基本中の基本。だからこそ一番気をつけないといけないのよ。今まではお金がなくて仕方なく師匠のお古を使ってたんだけど、この前ようやくジローナに頼むことができたの!」


 嬉しそうに事情を語り、ボタニカはぎゅっと如雨露を抱きしめる。

 これから彼女も、この如雨露と共に栽培師として成長していくのだろう。


「仕事道具は命の次に大事。いや、場合によっては命よりも大事だったりするからな」


 イールは腰の剣と左手を見て、うんうんと頷く。

 釣られるようにして、ロミも手に持っていた白杖を見る。

 ララは少し迷ったが、とりあえず待機形態のハルバードを指先で触れた。

 もっとも、彼女の場合は全身を巡るナノマシンが仕事道具だったりもするのだが。


「届けてくれてありがとうございます。これで、これからも良い仕事ができるようになるわ」


 ボタニカは如雨露を抱えたまま、ララ達に感謝する。


「いいのよ。ていうか私たちはそれを運んだだけだし」


 ララは少し戸惑いながらも、そう言ってボタニカの肩を叩く。

 彼女は唇を噛んで何度も頷いた。


「それじゃ、時間も丁度いいし次の配達場所に行こうか」


 そうして、ソールが声を上げる。

 ボタニカに見送られながら、彼女達はマスティアの家を出発した。


「次はどこに行けば良いの?」

「オーリエっていうカフェだね。パンケーキが美味しいお店だよ」


 踏みならされた道を歩きながら、ソールはこれから向かう場所の説明をした。


「私と兄さんもよくそこでお昼ご飯を食べるの。ルビの葉蒸しもおいしいのよ」

「そう言えば時間もいいし、そこで昼食にするか」


 ケイルソードが空を見上げて言う。

 青々と栄える枝葉の隙間から見える青空には、太陽が天頂に差し掛かっていた。

 ララたちもそれに異論はなく、先導するソールに従って村の中を歩き始めた。


『しかし、思っていたほど殺伐とした雰囲気はないので少し安心しましたね』

「そうねー。もっとオルボンさんみたいな人が普通なのかと思ってたわ」


 しみじみと言うサクラに、ララも頷く。

 彼女は、ソールからの話や、他の人たちから聞いたイメージで、エルフはもっと高圧的な種族なのかと思っていた。

 しかし蓋を開けてみれば意外とそういうこともない。

 ソールはともかくとしてアーホルンやティーナ、ジローナ、マスティアもボタニカも今のところは親切なエルフという印象だ。

 ケイルソードも第一印象こそ恐怖を抱くものだったが、数時間を共にしただけで今ではそうとも感じない。


「案外、若いエルフはそういう人間に対する排他的な意識は持ってないのかもしれませんね」

「かもなぁ。あたしのこの腕も、誰も触れないしな」


 ロミが安心したように言い、イールも腕をあげて頷く。

 彼女の懸念材料として、まがまがしい右腕があったのだが、それを指摘する村人はまだいない。


「よっぽど無遠慮に聞いてくる人間の方が迷惑だな。あたしは」


 他に人間がいないのを良いことに、イールはそんなことさえ言ってしまう始末である。


「まあ、若いエルフの方が偏見がないっていうのは本当かも知れないな」

「ケイルソードもそう思うの?」

「年寄り連中は人間を見たことがあったり、自分の父親が実際に人間とあったことがあるって奴も多い。けど俺くらいのエルフはそもそも人間という種族を見たことなかったからな」

「そうそう。どれだけ人間は恐ろしい奴だって聞かされても実感湧かないもの」


 兄の言葉に、ティーナも頷き賛同する。

 結局のところ、実際に見たこともない物は、信じられないのだ。


「エルフも世代によって随分考え方が違うんだなぁ」

「そういうのは人間でもありますけどね。でも、エルフの方が世代間の幅が広いから余計なのかも知れません」


 目から鱗と言った様子で、イールとロミが頷く。


「それじゃあ問題としては高齢エルフとの関係構築ね。どうやって人間のイメージを好転させて行くかってところかしら」

「そうだね。僕としてもそういう方向で持って行ってもらうとうれしいかな」


 ララが纏め、ソールが太鼓判を押す。


「そのための方法は、甘いものでも食べながら考えようか」


 そう言ってソールが足を止める。

 気が付けば随分と歩き、ララたちは落ち着いた雰囲気のカフェの前にたどり着いていた。


「ここがカフェ・オーリエだよ」


 そう言って、ソールはカフェのドアを押し開く。

 来客用のベルがないのも、エルフ仕様ということなのだろう。

 そのかわり、木の擦過音が店内に静かに響く。


「いらっしゃ、おっと。これは珍しいお客さんだ」


 カウンターの奥から驚く声が聞こえる。

 ララがそちらへ視線を向けると、毛皮のベストを着た小太りのエルフがグラスを磨いて立っている。


「エルフって全員スレンダーなイメージがあったけど、そうでもないのね……」

「何言ってるのか半分も分からないが、大体の意味は分かった」


 ぼそりと呟いた言葉に、イールが半目で答えた。


「やあ、いらっしゃい。ようこそカフェ・オーリエへ」


 店主のエルフはグラスを置いてカウンターから出てくる。

 カフェの店主と言うよりは猟師、グラスよりも猟銃の方が似合いそうな男だ。

 これはエルフ特有の物なのか、髭などはなく薄い黄緑色の肌と尖った耳は同じである。


「や、モノク。ジローナ婆さんから預かり物もあるんだ」


 ソールはフレンドリーに手を挙げて言う。

 モノクは丸い目をさらに見開き、全身を使って喜びと驚きを表した。


「そいつはうれしい! 特別なお客さんに、特別な贈り物。これは秘蔵の酒を開けるしかないな!」

「モノクはもうちょっと落ち着いた方が雰囲気でると思うんだけどなぁ」


 小躍りして喜ぶ大男を見て、ティーナは苦笑して言う。


「それはともかくだ。贈り物の前にそちらのお嬢さん方を紹介してもらってもいいかな?」

「ああ、もちろん。気づいてると思うけど、この子たちはエルフじゃなくて人間だよ」

「なんと! じゃあ今日村にやってきたという人間は君たちだね?」


 感激した様子でモノクは雄叫びをあげる。

 ララはどうしてこの静かな雰囲気のカフェの店主がこの男なのだろうかと本気で不思議に思った。


「さ、流石に情報が早いわね。私はララよ。よろしくね」


 ララに続いて、イール、ロミも挨拶を交わす。

 そのたびにモノクは驚き喜び、床を踏みならした。


「この店、いつか床が抜けるんじゃない?」

「大丈夫だよ。三回穴を開けてからは特別堅い木に変えたらしい」


 ひそひそと話すララに、ソールは涼しい顔で答えた。

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