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第二十一話「あとで甘い物でも買ってあげようかしら」

「魔導自律人形?」


 レイラの放った言葉に、ララとイールは揃って首をかしげる。

 当然の如く、聞いたことのない言葉だ。


「そう、魔導自律人形。石や鉄で作られ、魔力によって仮初めの命を与えられた、主人に忠実な傀儡。疲れを知らず、死を恐れない。使いようによって優秀な労働者にも凶悪な兵士にもなる」

「つまりはロボット、いや、どっちかというとゴーレムって感じかしらね」


 ララはレイラの説明を聞き、率直な感想を漏らす。

 ロボットというよりは、フィクションの存在としてファンタジー物語に頻繁に登場していたゴーレムという名称の方が、しっくりくるような気がしたのだ。


「ふむ、ゴーレム。いいね、ゴーレム。いちいち魔導自律人形と呼ぶのもまどろっこしいし、仲間内ではゴーレムと呼ぼうじゃないか」

「ええっ!? そ、そんなあっさり決めて良いの?」


 何気なく放った一言を拾われてララは取り乱す。

 そんな彼女に一つ頷き、レイラはにっと口の端を引き上げた。


「別に名前でその本質が決まるわけじゃない。なら呼びやすいものにしたほうが、情報共有が簡単でしょ」

「そ、そういうものなのかしら」


 眉を寄せて唸るララに、イールは深く考えることでもないと軽く背中を叩く。


「つまるところ、私たち神殿とイールの妹さん率いる『壁の中の花園(シークレットガーデン)』は、外からやってきた『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』を追い払おうとしてるんだよ」

「ついでにそいつらが持ってる技術もかっ攫おうって寸法なんだろ?」

「人聞きが悪いねぇ。彼らを追い返して、その直後にたまたま新技術を発見するだけさ」


 くつくつと笑いながら、レイラは悪びれる様子もなく言い放つ。

 周囲の三人から呆れた視線を送られたことに、気付いていないのか気にしていないのか。


「――とまあ、前座はこのあたりにしてしまおう」


 レイラの声が一段低くなる。

 部屋の温度が下がったような錯覚を受け、ララは思わず背筋を伸ばす。


「今まで話したのは、あくまでも前知識。ここからが本題なんだ」


 ララは緊張の面持ちで、イールは面白そうに、次の言葉を待ち構える。


「『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』は規模も技術力も、あらゆる点で厄介だ。それらが全て、『壁の中の花園(シークレットガーデン)』を上回っている」


 悔しそうに、己の無力を嘆くように、レイラは言う。


「だから、イール。君が腕の立つ傭兵だと見込んで、一つ依頼を出したい」

「ほう、ギルドを通さなくてもいいのか?」

「ギルドもあまり信用できる訳じゃないからね。あまり煩雑なフィルターを通さずに直接金で縛った方が安全なのさ」

「ふふっ。よく分かってるじゃないか」


 イールはふっと息を吐き出し、居住まいを整える。

 これより先は、仕事の話だ。


「依頼内容と報酬を聞こうか。受けるかどうかはそれ次第だな」

「それも当然だね。依頼内容は、『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』の拠点を壊滅させること。報酬は……。ロミ、お願い」

「かしこまりました」


 レイラの言葉に浅く頷き、傍らに控えていたロミは部屋の奥に姿を消す。

 それほど時を経ずに、彼女は銀盆にずっしりと重い袋を載せて持ってきた。


「これが前金。成功した場合は、追加でそれの二倍を渡すよ」

「……ほう。なかなか気前がいいね」


 袋の紐を解き、イールは思わず声を上げる。


「うぇ!? き、金貨かしら……」


 そっと彼女の肩越しにのぞき込んだララも驚き口を開く。

 中に入っているのは、キラキラと輝く真新しい金貨だった。

 イールは無造作に一つ掴むとテーブルに打ち付ける。

 硬質な音が響き、彼女は頷いた。


「これだけの報酬が釣り合う依頼なんだな」

「まあ、そういうことになるね」


 イールの言葉に、レイラは取り繕うことなく認める。

 前金として提示された金貨は、普通に働いて稼ごうとするなら半年は身を粉にしなければならないほどの金額になる。

 それをぽんと用意するだけの、厄介な依頼なのだ。


「それで、敵の拠点とやらはどこにあるんだ?」

「ああ。コパ村って知ってるかい?」

「コパ村!?」


 レイラの質問に、イールは肩を跳ね上げる。


「え、どうしたの?」

「コパ村は、あたしとララが出会った村だよ」

「……ああ! あそこね!」


 きょとんと首をかしげるララに、イールは呆れた表情で説明する。

 一瞬の間を置いて彼女も思い出したようで、ぽんと手を打った。

 彼女としては村に入ることもなく去ってしまったので、そこまで思い入れはなかったのだ。


「どうやら知ってるようで、一安心だ。それで、彼らはそのコパ村の近くの森の中に拠点を構えているらしい」

「村の近くの森ってことは、私が墜ちた場所ね」

「何か言ったかい?」

「いいえ。何でもないわ」


 怪訝な顔のレイラに首を振り、彼女はぎこちない笑みで取り繕う。

 箱に乗って空の外から墜ちてきた、などと言っても信じてくれる方がおかしいだろう。


「というわけでイールたちには、そのコパ村の近くにある『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』の拠点をぶっ潰して貰いたいのさ」

「レイラ様、ぶっ潰すという表現は……」

「ぬああ、今はいいでしょ。どうせぶっ潰すんだから」


 難しい顔で横から進言するロミを、レイラは煩わしそうに手で払う。

 油断して元の口調が出てしまい窘められるのは、日常茶飯事のようだった。


「敵の規模とか、分かっていることはあるのか?」

「すまないけど、ほとんど何も分かってないんだ。まあ、最低でも百人はいるよ。それに、奴らはいくつかの古代遺失技術を持ってるって噂もある」

「なかなか、厄介な相手だね」


 言葉とは裏腹に、イールは喜色を表情に滲ませていた。

 心の底で燃え盛る闘争の業火を押し殺しているかのようだ。


「神殿からは、ロミを派遣する。武装神官という立場は動かしやすいし、何より彼女は魔力バカだからね」

「ま、魔力バカじゃないですよっ!?」


 ロミが涙目で反論するが、当然の如くスルーされる。

 しまいには彼女は部屋の隅で、しくしくと泣き始めてしまった。


「――あとで甘い物でも買ってあげようかしら」


 いたたまれずにララが言う。


「なら、お金は私が出そう」


 そう苦笑気味に言って、レイラは懐から可愛らしい財布を取り出すと数枚の銀貨をララに握らせた。


「ええ、いいの?」

「私が泣かせたような物だし、まあ福利厚生の一環さ」


 むすっとした顔を隠そうともせずに傍らに戻ってきたロミを見て、にっこりとレイラは笑う。

 ララはありがたく銀貨を受け取ると、懐にしまった。


「イール、ララ、そしてロミ。三人で、やれるかい?」

「人外二人に、魔力バカか。いいじゃないか」


 レイラの問いに、イールは間髪入れずに答える。

 瞳の奥に炎を燃やし、唇は嬉しそうに引き上がっている。

 彼女は、この先に待ち受ける艱難を楽しみにしているようにも見えた。


「出発はいつだ?」

「できるだけ、早いほうがいいね」

「ふむ。……じゃあ三日くれ。その間に準備して出発しよう」

「分かった。ありがとうね」


 レイラがおもむろに手を差し出す。

 イールもそれに応え、二人は堅く互いの手を握りしめた。


「じゃあ、三日後。神殿の前に来てね」

「ああ。……ララもいいだろう?」

「私は特に準備することもないだろうし、大丈夫よ」


 ララも頷き、契約は締結される。

 ここに、『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』討伐を目的に掲げたチームが結成された。

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― 新着の感想 ―
[一言] 三人で百人もいる組織の殲滅を依頼するって、普通に受領できる依頼なの?どうも、まだまだこの世界の常識がどの程度か、溶け込むのが難しい。
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