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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第五章【駆け抜ける風】

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第二百一話「さあ、走りましょう」

 翌朝の早朝。

 涼しい海風の吹き付ける塩の鱗亭では、いつもより早く人々の気配があった。


「何も出発の日も早起きしてまで鍛錬しなくても……」

「出発の日だろうが到着の日だろうが、できるならしないといけないんだ」


 既に修練を終え汗だくになったララとイールが、着替えを持って風呂に向かう。


「あれ? 誰か入ってるわね」

「誰かって、この宿だとそう選択肢もないだろ」


 脱衣所の棚に綺麗に畳んで置かれている二揃いの服を発見し、ララが言う。

 見覚えのある大きめの神官服と白衣は、十中八九あの二人だ。


「あの二人もなんだかんだ仲いいわよねぇ」

「年齢も結構離れてるみたいだが、良い友達同士なんだろ」


 手早く服を脱ぎながらとりとめの無い会話を交わす。

 修練の際には動きやすさを重視してそれほど多くは着込まないので、すぐに二人は生まれたままの姿になって、脱衣所の奥のドアを開けた。


「おお、おはよう。武器の練習終わりかな?」

「おはよ。今日も扱き倒されたわ」


 広い湯船の真ん中を占領するようにして陣取っていたレイラが二人に気が付く。

 頭に折りたたんだタオルを乗せて、気持ちよさそうに湯に溶けている。

 その隣では、同じくタオルを乗せたテトルが肩にお湯を流しかけていた。


「おはようございます。お疲れ様と言った方がよろしいでしょうか」

「おはよう。テトル達が朝風呂っていうのは珍しいな」

「私達も今日が最後なので、目一杯楽しんでおこうかと思いまして」


 乳白色のお湯を掬い、指の隙間から落としながら、テトルが微笑む。

 艶やかなに濡れた赤髪と映えて、なんとも色っぽい雰囲気を醸している。


「そうか。二人ももう帰るんだな」


 温かい湯に少しずつ身体を慣れさせながらイールが納得したように言った。


「流石にそろそろ帰らないと、仕事が溜まってそうだ……」

「パロルドには少し休暇を与えた方が良いかもしれませんわね」


 湯船に浸かっている二人は揃って遠い目になると、うっすらとした生気の無い笑みを浮かべた。


「ふぅ、さっぱり! 地位やら責任やらある人たちは大変ね」


 ララは備え付けの桶で掛け湯をして、プルプルと顔を振る。

 彼女の続けた言葉に、二人は諦観の滲む笑みで頷く。


「でも、ララお姉様方も今日出発ですわよね?」

「そうね。だからこの後ロミを起こさないと」


 ゆっくりつま先から湯船に入りつつ、ララが頷く。

 毎日の修練も大変だが、これから待ち構えているミッションも中々に骨が折れる。


「あ、ロミならこっちにいるわよ」

「え?」


 気の重い様子のララに、レイラが声を掛ける。

 ララがそちらに視線を移し、レイラの指さす方向へ更に移動させる。


「ぶくぶくぶく……」

「うわっ!? お、起きてる……!?」


 そこには、顔の下半分まで湯船に沈めた金髪少女がいた。

 今にも溶けそうな表情で、辛うじて意識だけは保っているようだ。


「なんで……、というか脱衣所に服無かったよね?」

「ああ。あんまり起きないから布団と一緒に引っぺがして来た」

「お、鬼がいる……」


 さらりと飛び出した言葉の内容に、思わずララは絶句する。

 聖職者に慈悲など無かった。


「ちょっとロミと話したいことがあって、無理矢理連れてきたんだ。話し終わった途端こんな様子だけど」

「流石はレイラさんの弟子というか。筋金入りですわよね」


 情けない、と眉をハの字にするレイラ。

 テトルはその隣で苦笑して言った。


「ロミとどんな話してたんだ?」


 湯船に浸かり、イールが尋ねる。

 服の形に日焼け後の残る小麦色の肌に湯が染みこむようで、気持ちよさそうに目を細めている。


「まあ、ちょっとした武装神官の仕事をな」

「仕事って、方々の町の神殿を飛び入りで監査するんじゃないの?」

「それも仕事の一つってだけだよ。それ以外にもいくつかある」


 首を傾げるララに、レイラが言う。


「そういえば、ロミと初めて会ったときも魔獣の調査だかなんだかしてたな」


 もう随分と昔のことのようにも思えるロミとの邂逅を思い出す。

 確か、あのとき彼女はブラックウルフの巣を突っついていた。


「そうそう。そういう風に教会が調査したいけど、部隊を派遣するまでもないような事を依頼したりもするんだよ。少し前のウォーキングフィッシュの大行進の時の調査も、初めは武装神官が調べてたしな」


 レイラが頷く。


「じゃあ、今回もそういう依頼なの?」

「ああ。とは言っても、そんなに難しいものでもないよ。道中の魔獣をできるだけ詳細に調べて欲しいって言うだけ」

「できるだけ詳細に、ねぇ」

「それのせいでちょっと進行が遅れるかもしれないから、先に謝っておくよ」

「別に急ぐような旅でもないし、構わないさ」


 申し訳なさそうにするレイラに、イールは気にした様子もなくひらひらと手を振って応える。

 多少進む速度が遅れたところで、差し迫った予定もない彼女たちには関係の無い話なのである。


「じゃ、そろそろ私たちは上がりましょうか」


 ざばんと波を立たせながら立ち上がり、テトルが言う。

 もう随分と風呂を楽しんでいたのか、それなりに膨らみのある身体がほんのり赤く火照っている。


「それもそうか。それじゃ、お先に。ロミは置いていく」


 それに応じてレイラも立ち上がる。

 普段から男装が似合うだけあって、随分ほっそりとした体つきである。

 その割には普通に胸はあり、人生の不条理さを感じさせる。


「ララ、その嫌らしい目はやめな」

「な、なんのことやら……」


 呆れた様子で視線を返すレイラに、ララは慌てて目をそらす。

 彼女は何故か人の視線に敏感だった。


「身体の成長なんて、ほぼほぼ運なんだからな。受け入れろ」

「こんな悲しい運命あってたまるもんですか!」


 優しく言葉を投げかける神官に、少女はふくれっ面で言う。


「そうそう。すっぱり諦めて気にしない方がいいぞ」

「持つ人には持たざる人の懊悩が分からないのよーーー!!」


 興味ナシといった様子で湯船に浸かるイール。

 彼女の間延びした声に、ララは不満を露わに反論した。


「そ、それでは、お先に……」


 身体を見られていたことにようやく気が付いたテトルが、頬を赤く染め腕で身体を隠しながら湯船から出る。

 じっとりとしたララの半目から逃げるようにして、彼女は足早にドアを出た。


「じゃ、ごゆっくり~」


 そんなテトルを追うように、レイラも湯船を上がる。

 貫禄ある彼女はララの視線を受けても気にした様子もなく、威風堂々とした歩みで去って行った。


「もう少し抑えた方が良いぞ」


 二人がいなくなってから、ぼそりとイールが呟くように言う。


「むぅ……。流石に誰彼構わずやってるわけじゃないよ」


 少し不満げだったが、ララも頷く。

 しばし、無言で湯を楽しみ、二人もそろそろ上がろうかと話し始める。


「あ、そういえばロミ」

「あっ」

「ぶくぶくぶく……」


 その時になってようやく、ロミがまだ残っている事に気が付く二人。

 沈みかけている彼女を引き上げ、ぷにぷにと頬を捻る。


「うにぃぃぃ……」

「ほら、起きろ寝ぼすけ。逆上せちまうぞ」

「あと、あと五時間……」

「お湯も冷め切っちゃうわよ! ほらほら!」


 二人の懸命な説得により、なんとか薄ら意識を取り戻した彼女。

 たどたどしい足取りの彼女を両脇から支え、ララ達も風呂を出る。


「ふわぁぁぁ……。あれ? なんでわたしお風呂に……?」

「どこから意識飛んでたんだ……」

「これ、レイラの依頼覚えてるの?」


 がっくりと肩を落とし、二人は嘆く。

 きょとんとした様子のロミは、徐々に意識が覚醒してきたようだった。


「あ、だんだん思い出して来ましたよ。なんだか無理矢理お布団引っぺがされて……、あ、服着てない!? お風呂……? ふ、服がない!?」


 がばりと立ち上がり、棚を探し回るロミ。

 しかしどれ程探そうとも、目当ての物が見つからない。


「どうしたんだ?」


 肌着を着ながらイールが尋ねる。


「ふ、服が、着替えがないんです……」

「ええ……」


 呆れた様にララが声を漏らす。

 どうやらレイラたちは、服を剥いで連行はしたものの、着替えを用意し忘れていたようだ。


「ふぇえええ、どうしたらいいんですか!?」

「ロミ……」


 涙目になるロミの肩に、ぽんとイールが手を置く。

 縋るような目で彼女がイールを見る。


「大丈夫。今、この宿には同性しかいない」

「さあ、走りましょう」

「ふぇえええええん!!」


 ぐっと親指を上げるイールとララ。

 ロミの悲しい絶叫が響き渡った。

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