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第百八十九話「よし、ちょっと行ってくる」※

第二部開始です。

今後ともよろしくお願いいたします。


2019/04/01

第五章の全面的な改稿を行うため、189部分~250部分までを削除しました。今後、新たな第五章を更新していきます。読者の皆様には多くのご迷惑をおかけし、申し訳ありません。

 突き抜けるような空の下を、一隻の帆船が滑るように進んでいた。

 大きく広げた帆は全身に風を孕んで反り返り、屹立した船首から続く竜骨は濃紺の水面を割って白い波に裂いている。

 甲板では黒く焼けた肌の水夫達が忙しなく歩き回り、各々の受け持った仕事をこなしている。

 そんな男所帯の船の中に見目美しい乙女が三人もいるとなれば、水夫達がチラチラと視線を動かし注意力が散漫になるのも仕方が無いことだろう。


「あの三人、またあそこで話してるよ」

「ほんと、仲いいよなぁ」


 甲板を通りがかった水夫の二人組が彼女たちを見て言う。

 海図の隅にある小さな島、カミシロから出港して早数日、その間彼女たちは連日のように甲板の縁で会話に花を咲かせていた。


「もうすぐアルトレットかしらね」


 甲板の縁にもたれていた少女の一人が声を弾ませる。

 彼女の名前はララ。

 三人の中で最も小柄で、丸みを帯びた童顔の愛らしい少女だ。

 燦々と降り注ぐ陽光を浴びて白銀に輝く髪を肩口で揃え、猫のように好奇心旺盛な青い瞳を輝かせている。

 彼女はひょんなことからこの剣と魔法の渦巻くファンタジーな世界に迷い込んだ、奇異な境遇の少女だ。

 元々の出身は超越した科学技術を有する星であり、そこで彼女は平凡な人生を謳歌するただの一般人だった。

 そんな彼女がこの危険の多い世界でのんびりと生きて行けているのは、ナノマシンという彼女の身体に宿った超科学の結晶によるものだ。


『アルトレットと言いますと、大陸の端にある町ですね。ちょっとだけなら知ってますよ』


 ララは胸の前に銀色の球状の金属を抱えており、それが唐突に声を発する。

 このボールもまたララの故郷で発展した超科学の産物で、高性能なAIを搭載していた。


「白々しいわね。サクラの探査波のお陰で大変だったんだから」

『ぐぅ、申し訳ありません……』


 サクラと呼ばれた銀球は、ララの言葉にしゅんと項垂れる。

 感情豊かなこのボールは彼女の相棒とも言える存在で、かつては宇宙船を制御するコアAIとしての役割を担っていた。

 その本体は今もカミシロの地中にあり、このボールは端末の一つに過ぎない。


「まあ、そちらも解決したんですし、ララさんもあんまりいじめない方が」


 まあまあと諫めるのは、ララの隣に立ったロミである。

 キア・クルミナ教の武装神官でもある彼女は、白いコートのような神官服を纏い、細い杖を両手で握っている。

 緩くウェーブした長い金髪と、鳶色の瞳が特徴の優しげな雰囲気の少女だ。


「む、ロミは優しいわね」


 ララは唇を尖らせて、抱きかかえたサクラの天辺をコツコツと指の背で叩く。

 サクラはボールの真ん中に付いたカメラアイをぐるぐると回して悲鳴を上げる。


「ほら、そこのちびっ子。そろそろ港が見えるぞ」


 少し離れたところから、ララ達へ声が掛けられる。

 声の主は、燃えるような長い赤髪の美しい、しなやかに引き締まった体つきの長身の女だった。

 身体の要所を金属の鎧で覆い、肉厚で幅広な大剣を佩いた歴戦の女傭兵である。

 特徴的なのは、その右腕。

 肘から先は赤黒い細かな鱗に覆われた、禍々しい鬼のような腕になっている。


「イールはなんでそんなに離れて立ってるの?」


 ララは視線を向けて、首を傾げる。

 イールは琥珀色の目を細めて言った。


「これくらい離れてないとうるさいからな」

「むぅ、聞き捨てならないわね、それは!」


 鼻を鳴らして言うイールに、ララは頬を膨らませる。

 イールはわざとらしく両手を耳に当ててそっぽを向いた。

 ララが彼女に近づいてぽかぽかと背中を叩くが、効いている様子はない。

 むしろもっと叩いてくれとマッサージを要求する始末である。


「ララさんっ、サクラちゃん落としましたよ!?」

『うえーん、ララ様ひどい!』


 甲板に転がったサクラを拾い、ロミも二人のところへと駆け寄る。

 ララ、ロミ、イールの三人は、共に旅をする仲間だった。


「ほら、アルトレットの港だ」


 ぽかぽかと腰を叩かれながら、イールが真っ直ぐ波の先を指さす。

 波間に小さく黒い影が見え隠れした。


「ほんとだ! 懐かしいなぁ」

「言ってもまだそんなに経ってないだろ」

「でも、なんだか安心しますよ」


 彼女たちが話す間にも、船は順風満帆に進路を進む。

 ぐんぐんと大きく鮮明になっていく港の影に、ララたちの興奮も高まっていく。


「アルトレットに着いたら、塩の鱗亭に行かないとね」

「シアさんとミルさんにも会いたいですもんね」

「ミルはミオから料理教えて貰ってるんだったか。楽しみだな」


 アルトレットで別れた友人達に思いを馳せて、三人は心躍らせる。

 期間を考えればイールの言ったとおりそれほど長くは開いていないのだが、それでも海という大きな壁を隔てていると何か気持ちも変わってくる。


「三人とも、そろそろ港に着く。荷物の準備をしておいたほうがいいじゃろう」


 そんな彼女たちのところへ、老人の声が降りかかる。

 ぱっと三人が振り向けば、白い顎髭を伸ばした着物姿の男が立っていた。

 彼の名はガモン。

 この船の長を務め、カミシロとアルトレットの交易路を繋ぐ商人だ。

 アルトレットで彼女たちと出会ったガモンは、三人をカミシロまで案内した。

 その時の繋がりで、今回カミシロから帰る手筈を整えたのも彼だった。


「そうね。それじゃあ客室に戻ろっか」


 ララはガモンの言葉に頷き、三人に促す。


「ありがとう、船長。帰りも送ってくれて」

「ふはは。行きを乗せたのなら帰りも乗せるのが道理というものじゃよ」


 丁寧に頭を下げるララに、ガモンは快活に笑う。

 老齢を感じさせない、朗々とした声だ。


「じゃから、そう気にする必要はない。そら、早う行け」

「ええ、ありがとう。じゃ行ってくるわ」


 ひらひらと手を振って、ガモンは彼女たちを行かせる。

 パタパタと駆けて船室へと降りていくその背中を眺め、彼はうんうんと頷いた。

 女傭兵に、キア・クルミナ教の武装神官、そして謎めいた少女。

 一見するとちぐはぐな取り合わせの三人だが、見ているうちにそれらががっちりと噛み合った歯車のように互いを支え合っていることが分かる。


「良い仲間じゃなぁ」


 長い髭をさらりと撫でて呟いたガモンの言葉は、潮風に溶けて消える。


「海竜だ! 海竜の魚影だ!!」


 その時、突如として見張り台から銅鑼のような声が響く。

 甲板を歩いていた男たちは表情を一変させ、手摺りから身を乗り出して下を見る。


「あそこだ! 右舷後方!」

「見つけた! ありゃかなりでかいぞっ」


 船のたてる波に隠れるようにして黒い影がしっかりと併走していた。

 甲板は蜂の巣をつついたように騒乱の渦が入り乱れる。


「なんでこんな浅瀬に海竜がいやがる!?」

「うるせえ、今は武器を用意しろ!」


 男たちは銛を集め、応戦準備を整える。

 だが、海面に映る影は船に匹敵するほどに巨大で、到底貧弱な銛程度では相手にできそうにない。

 どうにか振り払えないかと操舵輪を回すが、完璧に補足されているらしくぴったりと船の側面に位置を固定している。


「ぬぅ、あともう少しで港だと言うのに」


 ガモンは黒影を睨み、苛立たしげに言う。

 港を眼前に捕らえ、あと数刻もしないうちに着岸できる海域。

 そもそも、このような浅瀬に海竜のように図体の大きな水棲魔獣が現れることなど考えられない。

 それだけに手練の水夫達も油断しきっていた。


「お困りかしら?」


 そこへ、声が掛かる。


「ララ殿!? イール殿に、ロミ殿も……。しかし、いくらお主らでもアレは……」


 立っていたのは、三人の見目美しい乙女。

 しかしながら、この世界に於いては外見など殆ど意味を持たない。

 彼女達は準備も万端な様子で、口元に薄く笑みを浮かべている。

 ロミは白杖を持ち、イールは肉厚な剣を佩いている。


「んー、まあちょっと大きいけど、行きと大体同じだろ」

「やってやれないことは無いと思いますよ」


 ロミとイールが顔を見合わせて言う。

 そこに一切の油断はなく、ただ淡々と己の技量を分析しての発言だった。


「ま、船長は大船に乗った気持ちでいたらいいのよ」


 そう言って、ララはベルトから細いステッキを取り出す。


「『戦闘形態起動(バトルアクション)』」


 彼女の声に呼応して、ステッキは青白く発光する。

 硬質な金属の擦れる駆動音と共に、それは形状を変化させる。

 延伸し、展開し、固定する。


「よし、ちょっと行ってくる」


 たん、と彼女が石突きで甲板を付く。

 彼女が手に持っていたステッキは、背丈ほどもある巨大な白銀のハルバードに変わっていた。

 青い目を輝かせ、彼女はガモンに向かって笑い掛けた。

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