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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第四章【神のいる島】

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第百八十五話「突っ込め!」

 迫り来る鉄塊。

 明確な殺意を持って強襲するアームを、ギリギリで避ける。

 うねる風が銀髪を揺らす。


「ララ! これは当たったら死ぬって考えて良いんだな?」

「その認識で合ってるわ。だから回避を最優先に」

「了解。避けるのは得意だ」


 地面に激突し、破片をまき散らすアームを尻目に、ララとイールは走り出す。


「『『神聖なる光の女神アルメリダの名の下、腕の使徒イワに希う。求める者に虚偽の安寧を、黒き贄に永久の拘束を』!」


 ロミの声が高らかに響き、無数の腕がアームに手を伸ばす。

 あり得ないほどの膂力で動きを固定し、活路を開く。


「長くは持ちません! 早く!」

「ありがと、流石はロミね!」


 鋭いロミの声にララは微笑を浮かべる。


「『空震衝撃(エアーショック)』!」


 圧縮した空気を後方に放出し、加速する。

 拘束しきれず迫り来るアームを避けて、ただひたすらにコアを目指す。


「ララ!」


 イールの声が飛ぶ。

 ララの後方から高い駆動音で嘶くドリルが迫っていた。

 彼女はそれに視線すら向けず、ハルバードでいなす。


「無駄に固いわね全く!」


 じんじんとしびれる腕に悪態をつきながら、先へと進む。


「はああああっ!」


 イールがアームへと近づき、そのままの勢いで剣を振り上げる。

 鬼の腕の力全てを載せられた強撃がアームの関節を叩く。

 ガインッ! と激しい音が響き、火花が上がる。

 しかしアームが不能になるほどの損傷は与えられない。


「これもしかしてハルバードと同じ素材か?」

「そうよ。だから余計に厄介なのよ」

「それなら、ナノマシンで形を改変できないのか?」

「今は制御を完全にあっちに取られてるから。奪うにはそれなりに時間がいるわ」


 アームを掻い潜りながら進みつつ、二人は言葉を交わす。

 進んでいるとは言っても殺意を持って襲うアームの群れを避けながらの行軍は、一進一退という方が正しい有様だ。


「すみません、拘束持ちません!」

「ありがとう! 無理しなくて良いわ」


 ロミの悲鳴が上がる。

 ララ達が壁際まで下がると同時に、アームを押さえつけていた腕が霧散した。


『フフフ、三人集マッタ所デコンナモノデスカ』

「よく吠えるわね。今のはほんの小手調べよ」

『マ、ソノ余裕ガドレホド続クカ見物デスネ』


 サクラは余裕綽々といった様子で、軽い言葉を飛ばす。

 ララは唇を噛み、ぼんやりと光るコアを睨む。


「ララ、一つ質問がある」


 彼女の隣に立ったイールが視線を向ける。


「なにかしら?」

「さっき言ってた制御を奪うのに掛かる時間、具体的にはどれくらいだ?」

「そうね……」


 イールの質問に、ララは顎に手を添えて考え込む。

 サクラの制御下にある特殊金属を奪うのは、ハクロ遺跡の隠蔽を解除するのとは訳が違う。

 しかも、その間ララはそれ一つに集中してしまうだろう。


「頑張って三分ってところかしら」

「三分か……」


 それは、普段を過ごすには短い時間だ。

 しかし一秒が勝敗を決する戦闘において、途方もなく長い時間でもある。

 ララの返答を聞いて、イールは表情を硬くする。


「やりましょう」


 凛とした声がした。


「ちょ、ロミ!? 本気なの?」


 きゅっと唇を一文字に結ぶロミは、取り乱すララに頷いた。


「わたしが全魔力を使って三分を稼ぎます。だから、ララさんは必ずあの機械を止めて下さい」


 決心の固い彼女を見て、ララはおろおろと視線を迷わせる。


「そうだな。それしか手はないんだ。あたしもこの剣に誓って、ララに三分やるよ」

「イールも……」


 イールが剣を掲げる。

 二人の顔を順に見て、ララもふっと表情を崩す。


「――分かった。必ずアレを止める。だから、死なないでね」

「分かってるよ。あたしもこんなところで死ぬ予定はない」

「右に同じく、です。では、やりましょうか」


 三人はうなずき合い、視線をコアに向ける。


『オヤ、オ話ハ終ワリマシタカ? 遺言ヲ持チ帰ルノハドナタデス?』

「舐めたこと言ってんじゃないわよ。今からあんたをぶっ飛ばす」


 極めて静かな声で、しかし燃えるような意思を籠めてララは言う。


『ソレハ面白イ。――デハ、始メマショウカ』


 金属が擦れる音がする。

 甲高い駆動音が響き渡り、アームが動く。


「今度は全力でいきます。――『神聖なる光の女神アルメリダの名の下、力強き腕の使徒イワに希う。求める者に虚偽の安寧を、黒き贄に永久の拘束を。死して逃れぬ光の監獄に哀れな獣を封じたまえ。青き蛇の牙と眼を以て、餓狼の如き獰猛を以て、微動を許さぬ絶対の拘束を』!」


 光の奔流が部屋を渦巻く。

 これまでの中で最大の魔方陣が空間を埋め尽くす。

 現れるのは腕ではない。

 太くぬらりと動くのは、それら全てが意思を持つ、金の眼をした青い蛇だった。

 それは大きく顎を開き、鋭い牙を見せつけるようにして吠える。

 そうして、手短なアームを見ると、その身をくねらせて絡みつかせる。


「こりゃすごいな! あたしも負けてらんないな!」


 蛇の下を潜りながら、イールが笑みを浮かべて言う。

 だらりと垂らした腕に剣を持ち、ひたすらにコアを目指す。

 そんな彼女を見逃すほど、サクラのAIも鈍くはない。

 蛇の拘束から逃れたアームが、イールに襲いかかる。

 先端に付いた爪が、彼女を握り潰さんと開く。


「良い奴が来てくれたね!」


 剣を立て、イールはそれに向かう。

 逃げるのではなく、敢えて前進する。

 開いた爪の間に転がり込む。


「この剣はちっと固いよ」


 ギンッ! と金属同士の激音が響く。

 勢いよく閉じた爪は、しかしイールの大剣に阻まれて閉じることができない。

 出力を上げて、無理に閉じようとすればするほど、剣先が爪にめり込んでいく。

 イールが全財産を投じて作った最硬の剣は伊達ではない。


「よく見れば、弱点はいくらでもあるもんさ」


 震えるアームをじっくりと見つめ、彼女はうっすらと口角を上げる。

 彼女は柄を握り、狙いを定める。

 爪の根元、隠しきれない脆弱な部分を目がけ、強烈な蹴りを入れる。


「そらよっ!」


 回路がひしゃげ、一瞬だけアームの力が緩む。

 それを逃さず、剣を取ると、先ほど蹴りを入れた場所に剣先を突っ込む。

 今までの硬さが嘘のように、そこだけは脆い。

 回路が破壊され、火花が散る。

 青い粒子の輝きが流れ出し、アームが悲鳴を上げる。


「一匹目!」


 イールが剣を引き抜き、爪から飛び降りる。

 アームは断末魔を上げるように火花を吹き出しながら、首を振る。

 理性的な制御を失い、それは他のアームに激突しながら身体を揺らし、どさりと床に倒れた。


「よし、頑張れば倒せないこともないな」


 剣を構え、次なる標的に目を向けつつ、イールは白い歯を見せた。


「ちっ、流石は警備も厳重ね。ちょっとずつ溶かしながら入るしかないか」


 ロミとイールがその身を賭けて戦う後方で、ララもまた一世一代の勝負を繰り広げていた。

 しかしそれは、端から見ればただ両手を床に付いて唸っているだけにしか見えない。

 彼女はその身に置いたナノマシンと電脳の全てを投入し、サクラの構築したセキュリティの突破を試みていた。


「いつの間にこんな厳重なファイアウォール作ったんだか。ダミー001から500を作成、解析開始」


 ブルーブラストの青い粒子が彼女を中心として舞っていた。

 ララは周囲の剣戟すら耳に届かないほどに集中して、静かな激戦を繰り広げる。


「一瞬で全滅はちょっと悲しいわね。DoSするにはちょっと処理能力高すぎる。第五層まで突破したわね、あと何層あるかも分かんないけど!」


 ブツブツと独り言を呟きながら、彼女は処理を進める。

 かつて無いほどに思考は巡り、一種の知恵熱のように頭痛が起こる。

 ゆらぐ身体を必死になってささえながら、活路を模索する。


「十二層突破。あーもう!」


 くしゃくしゃと髪を掻き乱し、それでも作業を進める。

 仲間が作り上げている三分間は、無駄にはできない。

 こんなことならバックドアでも仕込んでおけばよかったと妙な思考すらよぎる。

 0と1の奔流が彼女の思考を埋め尽くす。

 辛うじて自我を保ち、彼女は荒波の中を進んでいく。


「キー完成! 突っ込め!」


 残り時間は、三秒を切っていた。

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