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第百八十四話「これじゃあ無理ね」

 先端を鋭く尖らせた細いドリルが螺旋を描きながら殺到する。

 けたたましい駆動音が空を裂く。


「おわっと、危ない!」

『ナンデ避ケチャウンデスカ?』

「当たったら痛いからに決まってるじゃない!」


 モーニングスターのような鉄球を避けながらララが叫ぶ。

 次々に飛来する重機的な武器は、無骨な殺意に溢れていた。

 その数は数えることすら億劫で、ララは逃げることで精一杯だった。


「ただの金属製なら当たって砕けろお前がなの精神で強行突破できるんだけど、アレ絶対特殊金属だもんね。当たったら十中八九私が砕けるわ」


 鼻先を掠めるハンマーを避けながら、ララは冷静に分析する。

 土にまみれ薄汚れてはいるが恐らくあれらの作業用アームは特殊金属製だ。

 大方、もはや無用の長物と判断した宇宙船の外壁を流用したのだろう。


「まだローンも残ってたっていうのに、よくも人の船壊しちゃって!」


 救命カプセルを分解した自分の事は棚に置いて、ララはいきり立つ。

 しかしただのAIがそれで怯むような愚行をするはずがない。

 容赦なく殺到するアームの群れを、ララは後ろへ跳躍することで逃げる。


『ムゥ、サッサト当タッテ下サイ』

「嫌よポンコツ。なんで私が主人って分かんないかなぁ」


 AIサクラに登録されている主人はララただ一人のはずだ。

 マスター登録を行うにはナノマシンの接続が必須であるため、この世界で新たに別の人間に乗っ取られるという事態は考えにくい。


「っ!? ……あんた、まさか!」

『ドーン!!』


 飛来するアームを避ける。

 ララは一つの仮説を組み立てた。

 それを証明するため、彼女は部屋の中に視線を向ける。


『余所見トハヨイ度胸デスネ。ミンチニナッテ下サイ!』

「なるわけ無いでしょ! それより、やっぱりあんた――うわっ!?」


 口を開こうとすると、容赦なくドリルが襲う。

 段々と速度を増しているようにも見えるそれらを掻い潜り、ララはサクラの足下を目指す。

 サクラの巨大な中枢コアに近づけば近づくほどに、アームによる攻撃はより苛烈になる。

 アームが床に激突し、破砕音と火花が爆発する。

 無残にも抉れ捻れ奇妙なオブジェと化する床は、それだけで行動に支障が出てしまう。


「やっぱりあんた、何か隠してるでしょ!」


 一際強烈な一撃が、ララを急襲する。

 反射的に彼女はしゃがんで巨大な破砕ハンマーを回避する。

 毛先がチリっと掠める。


「あっぶな! マジのガチで命狙ってきてるわね」

『カカカ隠シ事トイウモノノノ意味ガガヨク分カリマママ』

「あんた昔っから隠すの下手だったよね。むしろ機械的には器用なのかもしれないけどさ」


 エラーを吐き出すかのように突然挙動不審になった音声に、ララはがっくりと肩を落とす。

 こういうところで、無駄な高性能を発揮しなくてもいいのに、という思いも懐かしい。


「まあそんなに隠し事が無いって言い張るんならっと!」


 前後から挟撃を仕掛ける二つのドリルを避ける。


「あんたの頭直接開いて全部見てやるわ」


 斜め右の死角から矢のようにやってくるブレードを、彼女は見ることもなくハルバードで防いだ。

 火花が散り、甲高い叫声が壁を揺らす。

 いつしか、彼女の周りには、まるで警護する近衛騎士のように銀色の球体がいくつも浮かんでいた。


「指先の眼、指先の牙、指先の喉、指先の爪。さあ、オールスターのお出ましよ」


 カンッ! とララがハルバードの石突きで床を叩く。

 それを合図に、銀球達は一斉に行動を開始する。

 機構を展開し、アームに噛みつく。

 高周波の妨害音波が動きを阻害する。

 それでも迫り来るあらゆる攻撃を、守り立ついくつもの銀球がたたき落とす。

 星のような銀球の中心に立つララに、今や死角はなかった。


『マスマスマスターニ似テキマシタネ!』


 少し怒気を含み、AIが吠える。

 ララは微笑でそれを受け流し、青い瞳で睨む。

 床を蹴り、銀球を纏って彼女は桃色のコアへと走る。


『サセマセン!』


 ドリルが、ハンマーが、ブレードが、あらゆる重機が彼女を襲う。

 それをハルバードではじき返し、時に銀球たちに任せ、更に彼女は掻い潜っていく。


「開けなさい! あなたが私を忘れたなら!」


 火花が散る。

 アームの接合部を狙い、彼女はハルバードに力を込める。


「私が直接分からせる!」


 金属のへしゃげる音がする。

 砂利を巻き込んだ歯車のような怪音がアームから発せられる。

 ララが駆け抜けた背後で、それはボキンと音を立てて首を落とした。


「グレネード!」


 腰のベルトに吊ったグレネードを一つ取り、ピンを引き抜く。

 腕をしならせ投擲したそれは、コアの下まで転がる。


「起動!」


 乾いた殴打のような音が響き渡る。

 しかしながら、グレネードは殺到したアームによって取り囲まれ、その衝撃はコアに届かない。


「まあ予想通りよ」


 しかし、それによって彼女を阻むアームは減る。

 絶好のチャンスをみすみす逃す訳もなく、ララは更に前進する。


『来ルナ!』


 横薙ぎにアームが飛来する。

 ララは跳躍し、跳び箱のようにそれを回避する。

 次いでドリル、間髪入れずハンマーがやってくるが、それもスライディングで回避する。


「随分余裕がなくなってきたわね!」


 もう少しで、コアまで到達する。

 ララは片手をハルバードから放し、ぎゅっと拳を作る。

 ナノマシンが起動し、演算を開始する。

 青白い発光が、腕に集約する。


「さっさとお腹見せなさ――ぎゃ!?」


 あと三歩でコアへと到達するその時だった。

 手を伸ばした彼女は、腹部に強烈な一撃を食らって吹き飛ぶ。

 一瞬後、ガン! と衝撃音が壁を揺らす。

 刹那の間に彼女は部屋の壁に打ち付けられた。


「かふっ」


 肺の空気が全て吐き出される。

 咄嗟の防御態勢も叶わず、壁は大きくめり込む。

 ナノマシンは直前の行動を全てキャンセルし、生命維持に全力を投入する。


「やってくれたわね」

『不埒ナ輩ニ肌ヲ触レサセル訳ニハイキマセンノデ』


 無感情に、飄々と、サクラは言う。

 先の一撃は、サクラが足下に隠していた最後のアームだった。

 あともう少しで到達できるという油断が、彼女に痛みを与える。

 ララは表情を歪ませ、桃色のコアを睨む。

 じんじんと鈍い痛みを訴える背中をいたわりながらも、ハルバードを杖にして立ち上がる。

 特別に用意した装備品がなければ、背骨が折れて最悪死んでいた。

 サクラは温情を与えるかのように、アームを待機させ追撃をしない。


「これじゃあ無理ね」


 万全の状態で届かなかった。

 これほどの傷を受けてしまえば、可能性は潰える。

 悔しそうに、ララは言葉を吐き捨てる。

 胸の中の炎が、消えかかっていた。


「よう、随分面白いことになってるな」

「カミシロの地下にこんな場所があったなんて!」


 その時、聞き覚えのある声がララの耳に届く。

 きょとんとした顔に、驚愕が染まる。

 ララは取り乱し、周囲に視線を向ける。


「イール! ロミ!」


 無数にある穴の一つ。

 そこからひょっこりと顔を出したのは、赤髪の傭兵と、金髪の神官だった。


「あたしたちが寝てる間にこんな面白い事をしてるなんてな」

「そうですよ。水くさいって奴ですよ」

「あ、え……なんで……」


 イールとロミは武装して、ララの元へやってくる。

 驚き混乱する彼女に向かって、笑みを浮かべている。


「私が案内しました」

「無貌さん!?」


 そんな彼女たちの背中から現れたのは、全身黒づくめの男――無貌だった。


「隠れて様子を伺っていたのですが、どうもこれは危ないと思いまして」


 申し訳ありません、と無貌は頭を下げる。


「そういう訳で、助太刀に来たよ」

「わたしも、微力ながらお手伝いします」


 剣を抜き、杖を構えながら二人が言う。

 呆然としていたララは、はっと気を取り直す。


「ごめんね。二人とも」

「なに、説教は後だ。今はあの桃色頭をかち割ればいいんだろ?」


 白い歯を見せるイール。

 ララは小さく頷くと、ハルバードを構える。

 痛みはない。

 もう動ける。


『オ話ハ終ワリマシタカ? デハ、死ンデ下サイ!』


 サクラが行動を開始する。

 首をもたげたアームが、蛇のように三人を射抜いた。


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