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第百八十三話「まるでスサノオの気分ね」

 その日の夜も、ララはサクラ攻略の為寝床を抜け出した。

 人気の無い夜の町を歩きながら、彼女は思案に暮れる。


「無策に突っ込んでも結果は火を見るより明らかよね」


 正直に言って、またあの洞窟に入って正面突破しようとしても、今の彼女では到底敵わない。

 そこで彼女は、緑珠院とは正反対の方向へと走り出した。


「無貌さんも多分見てるだろうし、大丈夫よね」


 そう言って、彼女は夜の町を駆け抜ける。

 建造物の群れの隙間を、強化された脚力で疾風のように進む。

 瞬く間に外縁を突破して、彼女は昼間に来たばかりの広い草原を走る。

 やって来たのは、ハクロ遺跡だった。


「ふう、到着」


 軽く息を乱しながらも、余裕の表情で彼女は穴の縁に立つ。

 さっと手を伸ばせば、穴の中から小さな銀球が現れた。


「よしよし、ありがとうねー」


 忍び込ませていた指先の眼を回収して、彼女は穴の底を睨む。

 暗視と地形情報によって、光源無しでも十分に活動できる。

 ララは一度頷くと、躊躇無く飛び込んだ。


「ほっ!」


 着地と同時に前転し、衝撃を回避する。

 そこにあるのは、何の変哲もない寂れた遺跡である。


「見たところ、何も変わった様子はない。根こそぎ全部持って行かれたただの小さな古びた遺跡」


 ゆっくりと歩を進めながら、ララは誰に聞かせるでもなく呟く。

 そっと壁に指を触れれば、ぽろぽろと乾いた砂が剥落する。


「けどそれは仮の姿。何も知らない外部の人間を欺く為の偽装。見るべき人が、知識と目を持った人が見れば、その姿は一変する」


 坂道を下り、石の扉を押し開ける。

 そこにあるのも、昼間にイールたちと見たただの石室のように見える。

 ララは迷いのない足取りで壁の一カ所に近づく。

 ただの壁に見えるそこに、彼女は片手をぺたりとつける。


「『接続(アクセス)』」


 青白い発光が腕を伝う。

 ナノマシンが流れ出し、壁に広がる。

 ただの壁と思われたそれは、ナノマシンの青い光を受け入れる。

 直線的な光の線が壁に広がる。

 じわじわと光が滲む様子は、まるで水面にインクを落としたようだ。


「暗号化パターンを分析。S-001秘密鍵を使用。……む、若干変えてるわね」


 バチン! と激しい音と共に火花が散る。

 ララは唇を尖らせ、再度手を壁に当てる。


「並列演算による解析。ファイアウォールおよびサーチマクロに停止要請――よし、受理されたわね。S-001-αおよびβ、ε、S-005-βを使用。よしよし、良い子ね」


 光の波紋が広がる。

 波打ち、拮抗するようにそれは揺らぐ。

 しかし確実に範囲を広げ、影響を拡大していく。


「いい加減口を開けなさいこのポンコツ! 解析完了。M-001を作成、使用。解錠完了!」


 ララが腕を押し込む。

 壁が溶けるようにして開く。

 現れたのは、虚空へと繋がる長い廊下だった。


「やった! 流石は私ね。機械なんかに負けるもんかってのよ」


 鼻息荒くララは穴を潜り、廊下へと足を踏み入れる。

 中は先ほどとは一変していた。

 正方形の廊下の全ての面は銀色の金属でコーティングされている。

 経年劣化の様子も見られず、鏡のようにララの像を映していた。


「これ、特殊金属よね。船の金属使ったわね……」


 だからこそここが、サクラの作り上げた場所だということが分かった。


「元々はこっちが神託を出す場所だったのね」


 あの遺跡は、緑珠院の裏にあるあの洞窟と実質的には同じものだった。

 何らかの理由によって使えなくなるまでは、あそこでサクラはカミシロを統治していたのだ。

 この細い通路には、サクラの中枢から伸びるケーブルが走っていたのだろう。


「つまり、ここから辿れば、彼女の中枢に行き着くって寸法よ」


 得意げにララは言う。

 彼女がここを見つけたのは、昼間の探索の時だった。

 指先の目を通じて遺跡の壁を見たとき、微弱だが妨害電波が発生していた。

 本来ならば、そんなものはこの世界では必要ない存在すらしないもののはずだ。


「偽装工作が仇になったわね」


 そういうわけで彼女は、正面突破が無理なら裏口からとこちらへやってきたのだった。


「とはいえサーチマクロが再起動したら普通に私も見つかるよね。早く行かないと」


 ララはあまり時間が無いことを思い出し、足早に廊下を進む。

 廊下はしばらく水平に進んだ後、急な傾斜をつけて上に向かう。


「ぬああ、階段なんて気の利いたものはないよね!」


 本来はケーブルを通す為だけの穴に、階段などという文明の利器があろうはずもない。

 ララは仕方なく両手足を使って登り始めた。

 幸いにも特殊金属製の床は特段滑りやすいという訳でもない。


「くっ、面倒ね。ほんとは一歩ごとに接続と分離を繰り返したいんだけどな」


 彼女の靴は特殊金属でできている。

 そのため、やろうと思えば床と固定することも可能であり、歩こうと思えば歩けるのだ。

 ただ今はエネルギーが惜しい。

 そんなことで浪費してしまえば、来たるべき決戦でじり貧というオチが待っている。


「ぐぬぬ……!」


 そんなわけで、ララは歯を食いしばって通路を上っていった。

 人の移動など欠片も考えられていない通路は、ただただ細く長い。

 次第に彼女は下を見ることを諦めた。


「コアに着いたら一回叩いてやろうかな」


 そんなことで優秀なAIが機能不全に陥るはずもないのだが、ララの黒い思考は無駄に回る。


「無意味に計算ばっかりするプログラムぶち込むのも良いわね」


 へっへっへ……、と暗い笑みを浮かべながら、ほぼ無心で彼女はついに坂を登り切る。

 そこは、ぽっかりと開いた巨大な空間だった。

 高い天井に、広い床のある、円形の空間である。

 彼女が出てきた穴以外にも、壁には等間隔で四角い穴がいくつも開いている。

 そして、その中央部には、薄桃色の光り輝く巨大な球体が、いくつもの金属の部品とケーブルに包まれて鎮座していた。


「やって来たわよサクラ! 今からあなたを叩いてあげるわ!」


 ララは穴を抜けて床を踏みしめると、びしりと指を伸ばす。

 空気を切り裂くような宣言に、球体の光が増す。


『オヤ、侵入者サマデハアリマセンカ!』

「だから私があなたの主人だって言ってるでしょ! なーんでそこに気が付かないかなこのポンコツ!」

『威勢ダケハヨイデスネェ。確カニチンマリシテテペッタンコデチンチクリンナ所ハゴ主人様ニ似テオリマス』

「よし、叩く。絶対に叩く! その壊れた電子回路ぶっ叩いて直してあげるわ」


 ヒクヒクと頬を痙攣させて、ララは歩き出す。

 次第に歩調を速め、彼女は球体に肉薄する。

 これこそがサクラ、ララの船を制御する中枢AIのコアだった。


「チェストーーー!」

『サセマセン!』


 彼女が突進し、ハルバードを展開して突き出す。

 それを、サクラは外部アームを使って阻む。


「ぬあ!? アンタいつの間にそんなの作ったのよ!」

『掘削作業用ニ作成シマシタ。穴掘リシナイト外ノ空気モ吸エマセンデスカラネ』

「あんた生命活動一切いらないでしょうが!」


 それはこの空間を作り上げ、更にカミシロ全体に根を伸ばすようにして穴を掘った時のものだろう。

 ここがどれほど地中深くなのか、ララは知らないが、あの作業用アームは貧弱に見えた。


「ま、なんだかんだであんたも良く頑張ってたのね」

『侵入者トイエド褒メラレルノハ好キデスヨ。ト言イウワケデオ帰リ下サイ』

「ぬあああ!? 今良いこと言ったでしょ私!!」


 迫り来るドリルアームを避けながら、ララは絶叫する。

 気が付けば、コアを中心にして、無数のアームが首をもたげている。


「まるでスサノオの気分ね」


 遙か太古の逸話を思い出し、ララは微笑を浮かべた。

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