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第百八十一話「流石にそこまで重くない!」

「あ、あれがハクロ遺跡かな?」


 しばらく草原の中を歩いていたララは、草の中にぽっかりと開いた小さな四角形の穴を見つける。

 赤褐色の風化した石材で囲われた、一人くらいなら余裕を持って入れそうな大きさの穴が、天に向かって開いている。

 穴の周囲は探索に際して人々に踏み固められたのか、茶色い地面にはげ上がっていた。

 緑一色の中でその一帯だけはそれなりに見つけやすい。


「結構あからさまにあるんだな」

「郊外にあるとはいえ、これならすぐに見つけられそうですねぇ」

「元々は土とか草とかで埋まってたのかもね。屋根も何もないからそういうのはすぐに入ってきそうだし」


 穴に近づきながら、三人は思った以上に遺跡らしい遺跡に驚きの声を上げる。

 よくこんな物が長年見つからなかったものだ。


「中はそれなりに広そう?」

「そうだな。梯子がいるか?」


 そっと穴の縁に立って三人は頭を突き合わせて中をのぞき込む。

 地下にはそれなりに広い空間が広がっていた。

 底までの高さはおおよそ十メートル弱と言ったところか。

 陽の光が直接差し込む為、それほど暗い訳では無いが、降りるには何かしらの準備が必要そうだった。


「とりあえず到着したし、お昼ご飯にしましょうか」

「ですね。首尾良くウサギが獲れましたし」

「ここなら火も熾せそうだ」


 ここまでの道中、彼女たちは昼食を無事に入手できていた。

 ウサギ二羽もあれば、十分過ぎるほどのご馳走である。

 イールは一緒に拾い集めていた枯れ葉や枯れ枝を一カ所に纏め、そこに解した縄をそっと置く。

 発火の魔法を使って火種を作れば、それはすぐに燃え広がり、即席のキッチンとなった。


「鉄串も買ったばっかりのがあるし、早速使おう」

「解体よろしくね。私は調味料準備しとくわ」


 イールがナイフを使って手際よくウサギを解体していく。

 それを横目にララは荷物の中から塩や胡椒、臭み消しの香草などを取り出して調合する。

 ロミは革袋を持って、水場を探しに行った。


「野営というか、野外料理も久しぶりね」

「アルトレットで随分過ごしたし、船にもずっと乗ってたからな。そろそろ忘れてきてた頃か?」

「ちょっと塩っぱかったらごめんね」

「案外すぐ近くに小川がありましたよー。お水汲んできました!」

「ありがとう。使わせて貰うぞ」

「あ、これは触媒にするので、ちょっと待って下さいね」


 革袋をたぷんと揺らしながら戻ってきたロミは、早速使おうとするイールを制止して、袋に杖を向ける。


「『湧き上がれ 清水の泉』」


 彼女の呪文に励起して、ぶくぶくと袋が震える。

 ロミが杖を置き、そっと栓を開くと、さらさらと透明に輝く水が溢れ出した。


「なにこれ!? 明らかに容量以上の水が出てるんだけど」


 流れだす水はそのまま地面に落ちて染みを広げる。

 明らかにそれは袋の容量を遙かに越える量だ。

 驚くララの隣で、イールは感心して言う。


「水生成の魔法か。そういうのもできるんだな」

「えへへ。いつもは沢山水が使えるのであんまりしないんですけどね。今日は特別です」


 イールの言葉は当たっていたらしく、ロミは緩くウェーブする金髪を弄びながら頷いた。


「そんな魔法があるなら、どこでも水に悩まされずに済むわね」

「そういうわけにもいかないんですよ。基本的にこの水は魔力由来なので、魔法の効力が切れたらすぐ無くなっちゃうんです」


 そう言って、ロミは地面に広がる染みを指さす。

 見てみれば、確かにそれは一定の範囲以上に広がること無く消えていた。


「そういうわけで飲用水には使えません。洗浄なんかには使えるんですけどね」

「なるほど、そういうことだったのね」


 そうそう上手くいくはずもなく、ララは少しだけ肩を落とした。


「けどま、洗浄には使えるんだ。ありがたく使わせて貰うぞ」


 そう言って、イールはロミから革袋を受け取る。

 こんこんと湧き出す水を使って、彼女は捌いたウサギ肉を洗った。

 魔法由来の水ということで、不純物もない純粋で綺麗な水なのだ。

 綺麗に切り分けられた肉を串に刺し、ララがそれに調味料を降っていく。

 本来ならば多少熟成した方が旨いのだが、それは町で食べれば済む。

 野味溢れる料理というのも、こういう時の醍醐味だ。


「そろそろ良い感じかな?」


 火の周りを囲うようにして地面に刺した串を見て、ララが言う。

 こんがりと焼けた肉は、ぱりっとしていて美味しそうな香りを漂わせている。

 全員の手にそれぞれ渡ったことを確認して、ララは早速かぶりついた。


「いっただっきまーす! はむっ」

「うん。美味しい」

「久しぶりですが、美味しいですね」


 カミシロでも大陸でも、ウサギの味はそれほど変わらなかった。

 懐かしさすら感じる味に、自然食べる速度もあがる。

 気が付けば火の周りには油にテカテカと光る串しか残っていない。


「ふぅ、やっぱりこういうワイルドなのも美味しいね」

「旅人は大体食事に凝るからな。やっぱりこういう料理ができないと旅はできん」


 様々な理由で旅をする人々がいるが、その中には各地の味を求める者も少なくない。

 ララ達も、旅を続ける理由の中にそれがないかと言えば嘘になる。


「さて、おなかも膨れましたし遺跡に入りますか?」


 こくこくと水を飲んでいたロミが言う。

 腹が満たされれば次は戦である。


「降りるための縄梯子を作ろう。でき次第、突入だな」

「了解!」


 イールの言葉に、ララがぴしっと指を伸ばして敬礼する。

 荷物の中から縄を取りだして解く。

 これも先ほど購入したばかりの新品である。


「のんびり焦らず、ゆったり行こうな」


 食後の水を飲みながら、イールがララに言った。


「今日は別にお宝探しに来たわけじゃ無いしね」


 ララは頷き、そっと穴をのぞき込む。

 陽光の差し込む遺跡の底は、こぼれ落ちた土がふんわりと積もっている。


「内部に魔力反応はありません」


 杖の先に魔法の光を灯し、ロミが言う。

 もしこれで魔力反応があるとすれば、魔獣や罠の存在を警戒しなければならない。

 しかしどこまでも探索され尽くされたこの遺跡には、そんなものも無かった。


「酸素とかも問題無さそうね」


 環境探査からの情報により、内部の空気が腐っているという可能性も潰えている。

 一応、万が一の為にララが指先の眼を一つカナリア役として飛ばす。


「ほら、梯子できたぞ」


 ララとロミが軽く調査している間に、イールが手早く梯子を作っていた。

 梯子と言っても太い縄に等間隔で結び目を作った簡素なものである。

 イールはそれを穴の中に垂らし、先端を鉄串で地面に固定する。

 一本では不安が残るため、更に何本か追加して一人分の体重くらいなら支えられるまで補強した。


「これでいつでも行けるぞ」

「じゃ、早速行きましょ!」


 準備が終わり、ララが目を輝かせて言う。

 その後軽く相談して、イールが先陣を切ることとなった。


「一応、縄梯子は握っておいてくれ。この中で一番重いのはあたしだしな」

「それもそうね。イールだと縄がちぎれちゃうぎゃっ!?」

「流石にそこまで重くない!」


 涙目でおでこを押さえるララに鼻を鳴らして、イールは縄梯子に手を掛けた。

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