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第百七十三話「ごめんくださーい!」

「おまたせ!」

「よう、何話してたんだ?」


 ララが緑珠院の外へと出ると、イールとロミが振り向く。

 ガモンもすぐ側にいて、歩いていた住民と談笑していた。


「私の銀髪が珍しかったみたいで、色々聞かれたわ」

「へぇ。まあ、確かにララの銀髪は大陸でもあんまり見ないしな」

「キラキラしてて、わたしも結構好きですよ」


 サクヤと交わした会話の事は伏せ、ララはとりあえずの嘘で誤魔化す。


「とりあえず全員揃ったし、今夜の宿を探そう」

「もう日も傾いてますし、急がないといけませんね」


 イールの言葉に、ロミが空を見上げる。

 西の空がうっすらと鬼灯のような鮮やかなオレンジに染まり、綿雲が逃げるように流れる。

 もうすぐ、カミシロに夜が訪れようとしていた。


「宿を探しておるなら、下の町に良い所があるぞ」


 そう三人に声を掛けたのは、ガモンだ。


「ほんと? 凄く助かるわ」

「けど今度はあの石段を降りないといけないのか……」


 イールは地獄のような長さの石段を思い出し、顔をしかめる。


「とは言っても緑珠院に宿はないからのう。仕方がないの」

「分かったよ。頑張って降りよう」


 そういうわけで、一行は足の方向を定める。

 来た時と同じようにガモンを戦闘にして、今度は木々のトンネルのような長い石段を下っていく。


「体感的には下りの方が楽なんだけどな」

「実際のところは下りの方が膝への負担が大きいらしいですよね」


 細かい段差をおりながらイールがぼやく。


「ロミみたいな魔法使いなら自分を回復しながら歩けたりしないの?」


 ふと胸に浮かんだ素朴な疑問を、ララはそのままロミに投げかける。


「狂走の魔法というものがあって、それを使えば体力や疲労を瞬時に回復しながら走り続けることは可能ですよ。それをやったあとは体力と身体に加えて精神や魔力も全てが空になっちゃうので数日は寝込みますが」

「うわ、結構恐ろしい魔法もあるのね……」

「昔は伝令が使ってたりしたようですよ。流石に寿命が削れるということでもっと手軽で迅速に伝達できる遠話の魔法なんかが開発されると、すぐに廃れました」

「いわゆる古典魔法っていうやつだな」


 魔法にも流行廃りがあるらしく、かつて使われていたが現在はそうではない魔法を、十把一絡げに古典魔法と分類するようだった。


「わたしは古典魔法については専門外なんですが、それでも各地の文化や慣習を調べてると、古典魔法が出てきたりしますよ」

「古典魔法は基本的に使い勝手が悪いの?」

「そうですね。やっぱり研究が進んでいない時代のものですから。でも、何故か古典魔法の方が魔力効率が優れているものもあるんですよね。古代遺失技術みたいなものです」


 そう言った魔法は古びた遺跡の隠された書棚の中などに、ひっそりとスクロールが置いてあったりするのだと、ロミは言う。

 そう言った場合の古典魔法のスクロールはかなりの高値で売れることもあった。


「買うのは主に学院ですけどね」

「ああ、魔法狂……」


 以前チラリと話に出ていた学院の名前に、ララが頷く。

 魔法に人生の全てを捧げたような魔法狂達が無数に巣くう、正にこの世の魔境だという触れ込みである。


「遺跡探索なんかを生業にしてる冒険者っていう奴らもいるぞ」

「冒険者ギルドは、傭兵よりも自由な気風ですよね」

「規模は小さいけどなぁ」

「やっぱり冒険者ギルドもあるんだ……」


 イールの口から飛び出た言葉に、ララは興味を惹かれる。

 なんともファンタジックで魅力的な言葉だ。


「近くに遺跡がある町なんかに支部を置いてるな。規模は結構小さくて、所属してる奴らも傭兵ギルドとか、他の大きいギルドにも入ってる奴が多い」

「ぐぅ、なんか夢のない話ね」

「夢だけじゃ飯は食っていけないからな」


 悲しい現実をまざまざと見せつけられ、ララはがっくりと肩を落とす。

 確かに、見つかるかどうかも分からないようなお宝を目指して、毎日遺跡に潜ることができるほど、人間生活は甘くない。

 当たれば一攫千金なのだろうが、そもそも当たるかどうかが分からない。


「遺跡といえば、カミシロにもいくつか遺跡があるんじゃよ」


 前を歩きながらも話が聞こえていたらしいガモンが振り返る。


「へぇ、カミシロにも遺跡があるのか。お宝はまだあるのか?」

「ふはは、どうじゃろうな。何せ見つかったのはかなり昔、それこそ儂がまだほんの童だった頃の話じゃから」


 イールの質問に、ガモンは盛大に笑って答える。

 ガモンの詳しい年齢は知らないが、恐らく二三十年といった話ではないだろう。

 となれば、苦労せずに入れるような場所は全て探索済み。

 お宝どころかガラクタの欠片すら望み薄だろう。


「カミシロには冒険者ギルドや冒険者みたいな方達はいらっしゃるんですか?」

「遺跡を狙う奴らか? さっきも言ったように見つかったのは随分昔の話じゃからのう……。今はもう誰も見向きすらせんじゃろ」


 ガモンの言によれば、それらの遺跡はある時期に一斉に見つかった。

 全部で七つある遺跡が相次いで見つかったその時は、それこそ島に旋風が巻き上がった。

 老若男女がのべつ幕なしに武器や農具を携えて、おっかなびっくり遺跡へと殺到した。

 最初のうちは珍しい物品も見つかったが、鑑定士が見たところ、それらはただのガラクタだと分かった。


「眠っているものが誰もが驚くような秘宝ではなく、何の面白みも使い道もないただのガラクタだと分かってしもうたからの。すぐに熱は冷めて、火は消えたわい。今はもう、苔むして草と土で埋まっておるじゃろな」

「ふぅん。なんともロマンのない話ね」

「この世はえてして無情じゃよ」


 残念そうに唇を尖らせるララに、ガモンはどこか達観した目で頷いた。


「さて、そんな話をしておったらもう下町が見えてきたのう」

「ほんとだ! 行きは大変だったけど、帰りは早かったわね」

「随分体力は消耗したけどな」

「でも、ララさんが倒れることも無かったので良かったですよ」


 ガモンの言葉に皆一斉に前を見る。

 赤い鳥居の向こう側に、開けた町の通りが見えた。

 すっかり日は暮れて森の闇がじわりじわりとにじみ出しているが、町からほのかに漏れる提灯の明かりがそれを退ける。

 ララ達は急かされるように足を動かし、最後の石段を飛び降りた。


「もうすっかり夜ね」

「早く宿を探して、寝たいな」

「さっきお食事も頂きましたし、おなかは空いてないですもんね」


 空を見上げれば満天の星空である。

 まるで硝子玉をちりばめたような天球に、大きな月が浮かんでいる。

 一日の仕事を終えた人々が、ぐったりとした足取りで帰路を急いでいる。

 ララ達はその中をゆっくりと歩いて、ガモンのおすすめだという宿へと向かった。


「ここじゃ。『花行燈』と言って、旨い食事と広い風呂がある」

「わぁ、綺麗なお宿ね!」


 ガモンが紹介した宿は、緑珠院へと続く石段にほど近い町中にあった。

 木造二階建ての奥に長い宿は落ち着いた色合いで、花行燈と書かれた旗がたなびいている。

 障子紙から漏れる光はオレンジ色で、夏虫を誘い込むように揺れている。


「それでは、儂は一度船に戻って、そのまま帰るとしよう。ゆっくり休むんじゃよ」

「ありがとう。色々と」


 花行燈の前で、ガモンは三人と別れる。

 帯に刺していた扇子を開き、ひらひらと揺らすと、彼はゆっくりと夕闇の中へと消えていった。


「船長には色々お世話になりっぱなしね」

「まさに渡りに船ってやつだな」

「また何か、恩返しできるといいですね」


 消える老人の背中を見送り、ララ達も宿へと入る。


「ごめんくださーい!」


 引き戸を開けながら、ララが声高に叫ぶ。

 そうすれば、すぐに店の奥からぱたぱたと元気な足音がやって来た。

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