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第百六十四話「異国って感じがするわねぇ」

別作品の方へ投降していましたもうそわえありません!!

 ガモンが三人の元へ訪れてから、それほど時間も経ずに交易船は島にある見慣れない様式の建築物群が見えるほどに近づいていた。


「おお……流石異国って感じね」

「見たことのない建築ばかりです……」

「見た感じ木造が殆どだな」


 荷物を携え、甲板にやって来た三人は、手摺りに身体を預けてカミシロの港を見ていた。

 腕まくりをした水夫たちが慌ただしく歩き回っているため、随分と隅の方に追いやられてはいるが、そこからでも風景を見ることができたのは僥倖だった。


「ほんと、びっくりするくらいの和風建築ね……。うぅん、やっぱり私のが関係してる……?」


 その強烈な既視感に、ララは一人唸る。

 初めての異国に少なからず浮かれていたイール達は、そんな彼女に気付く様子もなかった。


「あ、もうすぐ港に入りますよ」

 

 そんなことを言っている間にも船はゆっくりと進み、陸から突き出た長い桟橋の隣へと入る。

 そこでも、屈強な男たちが腕まくりをして、荷物を満載した交易船の入港を待っていた。

 交易船は帆を畳み、太い綱を陸へと投げる。

 陸の男たちがそれを受け取り、総出で引っ張る。

 ゆっくりと速度を落としながら、船は岸へと辿り着く。


「錨を下ろせぃ! 物品目録を渡したら、荷下ろしだ!」


 大声が甲板に響き渡り、水夫たちはそれに従い行動を開始する。

 太い錨が船を固定し、何本ものロープが桟橋へと投げられる。

 船が完全に固定されると同時に、分厚い紙束を持った男が陸に上がって、なにやら地位の高そうな男にそれを渡す。

 それが終われば、初めて荷下ろしが行われる。

 船倉の蓋が開き、積まれていたアルトレットの品々が運ばれる。

 桟橋には背の高い櫓のようなものがあり、それを通じて陸へと下ろされる。


「ひゃぁ、ちょっと前とは打って変わって目が回るような忙しさね!」


 騒々しくなった船内に、ララが驚いて言う。

 船員も、陸にいた者も協力しあい、大きな荷物が運び出される。

 よくもまあこんなに積んでいたものだと感心するほど、荷物は次々に現れた。


「三人とも、初めてのカミシロはいかがかな?」

「ガモン船長! とっても綺麗なところね。緑も豊かだし、海も綺麗。建物も、精練された美しさがあるわ」


 彼女たちが見入っていると、ガモンが扇子を携えやってきた。

 彼はララの賞賛の言葉を聞くと、誇らしげに頷く。


「そうじゃろう。カミシロは、自然との調和を重んじてきた民。木々や森、川、海との距離はとても近い」


 小さな島国だというカミシロは、資源に乏しいだけでなくカムイという脅威にもさらされている。

 雄大な自然と密接に繋がらなければ、これほどの繁栄は無かっただろう。


「っと、それではお三方も船を降りよう。すぐにでも巫女様の元へ行かねばならぬ」

「分かったわ。案内、よろしく」

「あい分かった。では、こちらじゃ」


 ガモンに率いられ、三人は船を移動する。

 荷物の搬出が行われている場所からは少し離れて、人が通れるだけの移動式の階段が横付けされていた。


「足下に気をつけるんじゃぞ」


 言いながら、ガモンがまず降りる。


「じゃ、お先に」


 そう言って、ララが後に続く。

 彼女は足取り軽く階段を降り、桟橋から残る二人を見る。


「次、ロミ行きな。あたしは最後でいい」

「はい。ではお先に……」


 イールに促され、ロミが降りる。

 彼女は手摺りをぎゅっと掴み、一段一段確かめるようにしてゆっくりと降りた。

 最後の一段を超えて桟橋に着いた時には、ほうと安堵の息を吐く。


「イールも早くー」

「はいはい。すぐ行くよ」


 ララに急かされながら、イールも甲板から降りる。

 船が初めてではない彼女は慣れているのか、それとも単に肝が据わっているのか、特に怯える様子も無かった。


「むぅ、面白くないわね」


 残念そうにイールを見るララ。

 イールは思わず目を細めると、ぱこんと軽く彼女の白い髪を叩いた。


「ひっどーい! 何も叩かなくても……」

「何を期待してるんだ、まったく」


 遠い異国の地でも変わらない二人に、ロミは思わず笑みを漏らす。

 そんな彼女たち三人が無事に船を降りたのを確認して、ガモンが頷く。


「それでは、巫女様の御座す緑珠院へ参ろうぞ」


 そう言って、ガモンが歩き出す。

 桟橋には少なくない数の水夫たちが荷下ろしのためあつまっていたが、ガモンが歩けば海を割るようにして道ができる。

 彼らは見慣れない異国の少女達に目を奪われて作業の手を鈍らせ、現場監督に怒鳴られていた。


「やっぱり、顔立ちは結構違うのよねぇ」


 ガモンやミオを見た時も思った事を、ララはまたしみじみと思う。

 人種からして彼らはイール達辺境の人々とは違うのだろう。

 カミシロの民は皆落ち着いた色合いの髪と瞳で、おおよその傾向だが背も辺境人よりも小柄だ。

 ララはどちらかといえば、イール達に似た外見である。


「うぅ、まだ地面が揺れてるような気がします……」


 久方ぶりの地面に、絶えず揺れていた船上に慣れていたロミは違和感を覚えるようだった。

 ふらふらと千鳥足になりながら、ララの隣を歩く。


「心配しなくてもすぐに慣れるわ」

「元々は陸に住んでるんだからな」


 三半規管も含めて全体的に強化されているララはともかく、イールもあまり陸酔いはしていないようで、ふらつくロミに手を貸す余裕さえあるようだった。


「ガモン! よくぞ戻った!」

「ゴウエンか……。久しいな」


 桟橋を抜けて、開けた波止場を歩いていると、唐突に快活な声が響き渡る。

 その声の方を見て、ガモンは髭を震わせる。

 ゴウエンと呼ばれたのは、筋骨隆々で見上げるほどの巨漢だ。

 日に焼けた浅黒い肌を惜しげも無く晒し、丸太のような腕をブンブンと振っている。


「船長、あの人は?」

「ゴウエンと言ってな。この港の長じゃよ」


 小声で尋ねるララに、ガモンもこっそりと答える。

 肉弾戦が何よりも得意そうな彼が、この港の最高責任者だった。

 互いの仕事もあって二人は旧知の仲なのか、親しげに笑みを交えて会話を繰り広げる。


「大陸遠征、ご苦労だったな。まずはその偉業を讃えよう」

「うむ。これも全て、お主の厚い支援があったからよ」

「それで、後ろに御座す見慣れぬ令嬢方は一体? まさか(さろ)うて来たわけではあるまいな?」

「かような話があるか! 彼女らの方から、カミシロへと運んでくれと依頼があったのじゃ。それで、今から巫女様のところへと連れて行く」


 胡乱な顔でララ達を眺めるゴウエンに、ガモンが事情を説明する。

 巫女のところへと連れて行くとガモンが言えば、彼は目を見開いて驚いた。


「巫女様のところへ!? それはまた、ただならぬ事情がありそうだ」

「そういうことだ。船のことは、副船長に全て任せておる。そちらを当たれ」

「あい分かった。ではな!」


 そう言って、ゴウエンはまたブンブンと腕を振るとその場を離れる。

 その大きな後ろ姿をしばらく眺めた後、ガモンはララ達に視線を移し、また歩き始めた。


「ゴウエンって言う人も中々個性の強そうな人ね」

「あれは個性だけで生き抜いてきたような者じゃ。元は小さな漁村の漁師の出じゃったが、その頃から網を破る魔獣共を一人で駆除しておった」

「個性というか、単純に戦闘が強いじゃないか……」

「あの体格も、納得の逸話ですね……」


 淡々と語るガモンに、三人は戦慄する。

 見たところ熱血ではあるが、悪い人ではなさそうだった。

 どちらかと言えば皆を纏め、率いるだけのカリスマを持っているようにも見える。


「まあ、それほどの力がなければ、ここの港では務まらんのじゃよ」


 そんなガモンの言葉には、確かな実感が込められていた。


「あ、そろそろ町に入るわね」


 気が付けば港を抜け、三人はカミシロの町へと足を踏み入れようとしていた。

 中央を貫く太い道は舗装されておらず、ただ人々の往来によって踏み固められていた。

 左右に軒を連ねるのは、木造の線の細い造りの建築物である。

 何かの商店なのか、軒先ではそれぞれに声を張り上げて客を寄せている。


「どこの国でも、こういう大通りの風景っていうのは変わらないのね」

「そういうのも不思議で面白いだろう?」


 ララの言葉に、イールが頷く。

 各地の町を見てきた彼女も、同じ事を思ったのだろう。


「ここまでキア・クルミナ教の影響を全く見ない風景というのも新鮮ですね」

「流石のロミは神官らしい視点ね」

「えへへ。ただの職業病ってやつです。カミシロは、キア・クルミナ教の代わりにまた別の宗教があるんでしょうね」


 きょろきょろとあたりを見回し、ロミが言う。

 辺境はそのほぼ全土にキア・クルミナ教の神殿が存在し、影響も色濃く至るところに神々の意匠が見られたが、カミシロではそれが全くない。

 そのことに、ロミは少なくない驚きと興味を抱いた。


「異国って感じがするわねぇ」


 方向性の違う建築様式、外見の異なる人々、風の匂いや音の透明感まで、自分を取り巻き五感を刺激する全てのものが、海を一つ越えただけで全て変わってしまったような、そんな不思議な感覚を覚えて、ララはしみじみと言葉を漏らした。

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