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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第三章【水辺の乙女と青い灯台】

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第百五十五話「お熱いわねぇ」

 『赤クジラ』の料理は、どれも豪快という言葉の似合う品々だった。

 メインディッシュは当然のように巨大な皿に載って運ばれ、各自が注文したミニサイズのものでさえ、丼鉢で現れる。


「凄い量ね……」


 戦慄を覚えながらララが言うと、シアは得意げに頷く。


「なんてったって巨人族御用達のお店だからね。ちなみに巨人盛りっていうのもあるわよ」

「物理的な胃の容量を超えてる気がするわ……」


 とはいえ、料理はどれも美味しそうだ。

 さっくりと揚げられた白身魚のフライや、ガーリックチキン、サラダも大きなボウルに豪快に盛られている。


「それじゃあ、頂きましょうか」


 ぴこんと耳を立ててミルが言う。

 その言葉を皮切りに、それぞれはナイフとフォーク、もしくはマイ箸を手に持ち、早速取り分け始めた。


「ふむ……。かなり味が濃いが、それがよい。白米をかき込みたくなるな」


 拳ほどもある巨大なミートボールを食べて、ガモンが唸る。

 その言葉に頷くのは、ミオとララである。


「白米、やっぱり合うわよねぇ」

「お米は何にでも合う万能食材ですからね!」


 うっとりとした目で言う二人の様子に、シアたちは首をかしげる。

 イールとロミはミオの店で食べたことがあるために少しは分かるようだった。


「そういえばララ殿、調査の件はどうなっておるかの?」


 箸を置き、ガモンはララに顔を向けて聞く。


「丁度さっき、そのことを伝えようと思って星の渚まで行ってたの。入れ違いだったみたいだから、ここで会えたのは幸運だったわ」

「ほう、そういうことじゃったか。それは済まないことをしたな」

「こっちこそアポ無しだったんだから仕方ないわ」


 申し訳ないと頭を下げるガモンに、ララは慌てて手を伸ばす。

 このようなことで頭を下げていいほど彼の地位は安くないはずだ。


「それより、ここで話しちゃっていいの?」

「この卓を囲んでいるのは皆儂かララ殿の知り合いなのじゃろ、ならば問題なかろう」

「一応、防諜用の結界は張っておきましたよ」


 もぐもぐと美味しそうにエビフライを食べていたロミがララ達に言う。


「ナイスよロミ!」


 流石の仕事ぶりにララは感激しつつ、彼女にサムズアップを送った。

 ということで、ここでの会話は外には漏れない。


「それじゃ話すわね」


 そう言ってララは宴の片隅で、今回の事の顛末をガモンに説明した。


「ほう、町全体が洗脳されていたとは、中々に興味深いのう」

「ま、そっちはアルトレットの問題だから、直接カミシロやカムイとは関係無いわね。問題なのは、どうしてカムイがこっちまで広がったのかだもの」

「そうじゃな。蒼灯の灯台だったか、そこからの光が魔獣を狂わせてると言ったな」

「ええ。そして、その灯台の光を変えたのがカムイの正体だと私は考えてるわ」


 蒼灯の灯台にある物が、ブルーブラストエンジンだということは伏せて、ララは言う。

 ガモンはそこまでの話を聞いて、ふむふむと考え込む。


「灯台の光が、カムイに影響されて変化しておる、か……。やはりカムイの力は段々と大きくなっていると考えるのが妥当じゃろうな」

「恐らくね。だから私はカミシロに行って、カムイの原因を特定したいわ」

「ふむ。ありがとう。よく分かった」


 ララの説明を聞き、ガモンは頷く。

 まだ一連の異変は終わっていない。

 カムイという魔獣活発化現象の根源を取り除かねば、それがどれほどの範囲にまで拡大するのかは誰にも予想が付かない。

 もはやそれは、カミシロだけの問題ではないのだ。


「よし、ララ殿。お主らをカミシロに招待しよう」

「いいの!?」

「ああ。約束は果たされた。ならばこちらが応えるのみ。出港までそれほど時間もないから、今伝えておく」

「ありがとう! 凄く助かるわ」


 頼もしく胸を叩くガモンに、ララは飛び上がって喜ぶ。

 カミシロに渡れば、ララの胸の内に秘められた疑問も解消するだろう。

 まだ見ぬ、しかしそこにあるはずの物に思いを馳せて、ララは目を輝かせる。


「イールとロミも一緒でいいのよね?」

「ああ、もちろんだとも。ララ殿は三人でいる方が良い気がするからな」

「手綱はしっかり握っておかないといけないからな」

「そうですねぇ」

「ちょ、二人ともなんかひどくない!?」


 赤ら顔で割り込んでくるイールに、ロミもとろんとした顔で頷く。

 二人ともいつの間にかアルコールが入っているようだった。

 そんな三人の様子に、ガモンは大きく口を開けて笑った。


「はははっ! やはり三人を離してはいけないらしい。何、儂の船は大きいからの。正に大船に乗った気でいれば良い」

「ありがとう。あたしからもお礼を言わせてくれ」


 イールがチラリとララに視線を向けてから、ガモンに礼を言う。

 同時に差し出された杯を受け取り、老人も頷いた。


「ええー!?」


 唐突に、ミオの驚く声が個室に響き渡る。

 ララ達がぎょっとして振り向くと、彼女は恥ずかしそうに目を伏せていた。


「一体どうしたのだ」

「す、すみません。ちょっとミルちゃんと話していて……」


 不思議そうにして尋ねるガモンに、ミオは歯切れ悪く答える。

 その後ろでは、ミルが怯えたようにプルプルと耳を震わせていた。


「あー、ミオがミルに料理の事聞いちゃったのよ」


 二人の隣で呑んでいたシアが、二人の代わりに答える。

 その言葉だけでララたちは大体を察したが、ガモンが分かるはずもない。


「ミルがいつも作ってる料理のこと聞いて、ちょっと驚いちゃったみたいね」

「ちなみにミルは、どんなの答えたの?」

「た、ただのクラムチャウダーですが……」

「ただのクラムチャウダーにイカのワタやタコ墨や魚の目は入りません!」


 ミルの言葉に、ミオは我慢しきれず突っ込む。

 その内容にララ達も思わず絶句である。


「え、ミル……」

「だってコクを出さないとですし!」

「出るのは混沌としたオーラだけです!」


 必死に弁明しようと言葉を重ねるミルだったが、どんどんとドツボに嵌まっていくだけである。

 ミオは涙目になってミルの肩を掴むとこう宣言する。


「明日からミルさんの所に毎日通います! それで、私が料理のイロハを叩き込みます!」

「ふ、ふええええ!?」


 固い志を持って宣言したミオに、ミルは目を白黒させる。


「凄く助かるけど、ほんとにいいの? 私はすごく助かるけど」


 シアも少し驚きながら、ミオに尋ねる。

 彼女は瞳に炎を燃え上がらせて頷いた。


「宿屋を経営するのであれば、料理ができて損はありません。というか、料理ができないのはダメですよ、常識的に考えて」

「それもそうね……。ミル、頑張って」

「わ、わたしは今のままでも十分――」

「明日の夜からお邪魔しますので、キッチン洗って待ってて下さい」

「はひ……」


 すさまじい気迫のミオに、ミルもたじたじで頷く。

 そんな様子をララやガモンたちは微笑ましく見ていた。


「これでミルの宿でも食事が出せるようになったら、他の宿とも勝負できるんじゃない?」

「そうですね。むしろミオさんにお料理習ったら、カミシロの方にも満足してもらえるんじゃないでしょうか」


 ミルの言葉に、ララも頷く。

 それを聞いて、ミオはふむと考え込む。


「……そうですね。むしろ私が宿に住めばいいのでは?」

「ふえ?」


 唐突なミオの言葉に、ミルが首をかしげる。


「塩の鱗亭にも、キッチンはあるんですよね?」

「前は食事も出してましたから、ありますが……」

「ではミルさん。是非私を雇って下さい! シェフとして働きますので!」

「ふぇぇええええ!?」


 二度目の絶叫が響き渡る。

 今度こそは、ミルだけでなく一同全員が目を剥いた。


「ちょ、ミオ、そんなあっさり決めてもいいの!?」

「いいんです。どうせあんな路地裏のお店誰も来ません」

「わ、儂は割と気に入っておったが……」

「船長やカミシロの人が来るくらいで、あとはたまーに現地の方が来られても常連さんいないんです! それなら宿の厨房で料理を作った方がよっぽどカミシロ料理を広められると思うんです」


 ミオの決意は固いようで、ララはもう何も言うまいと口を閉じる。

 そんな中、ミルは耳を震わせながら、ミオを見る。


「あの、流石に、突然そういう話をされるとびっくりしちゃって……」


 その言葉に、ミオはしゅんと肩を縮める。


「で、でも凄く嬉しいです。だから、その」


 萎れるミオに、ミルは慌てて手を振って続ける。

 そして彼女は恥ずかしそうに指を絡めながら言う。


「まずはお友達から始めませんか?」


 ミルとミオの目が合う。

 緊張に表情を硬くするミルとは対照的に、ミオはふにゃりと相貌を崩した。


「お熱いわねぇ」


 そんな二人の様子を、ララは小魚をつまみながら囃し立てていた。

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