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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第三章【水辺の乙女と青い灯台】

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第百五十四話「ちょっと人数も増えたけど宴を楽しみましょ」

「ほら、ここが『赤クジラ』よ」


 そう言ってシアがとある店の前で立ち止まって振り返る。

 彼女に付いてきたララ、イール、ロミ、ミルの四人は、揃ってその背の高い屋根を見上げた。

 店の名前にもあるクジラのように、ゆったりとした弧を描いた丸い曲線の屋根は、これも名前通り赤い瓦が積まれていた。


「大きい店ねぇ」

「うふふ。大きいのはお店だけじゃないのよ」


 思わず声を漏らすララに、シアは楽しげに笑って言った。


「それじゃ、入りましょう」


 そうして、うずうずと待ちきれない様子のシアによって、四人は店の中へと誘われた。


「いらっしゃいませ!」


 大きい扉を開いて中に入ると、威勢の良い声が彼女たちを出迎える。

 シアの言ったとおり、大きいのは店だけではない。


「うわぁ、大きい人ばっかりだな……」


 イールが瞠目して言うように、店の中を歩く店員達は揃いも揃って大柄だった。

 軽く二メートルを超すような巨体は、がっしりと幹のように引き締まった強靱な筋肉が浮き彫りになっている。

 揃いの赤い服を着て、白いタオルを首に掛けたその姿は、どこかララには懐かしい光景でもある。


「……大学の忘年会とかでこういう店にも行ったわねぇ」


 郷愁の思いを込めたララの声は、ガヤガヤと騒がしい店内の陽気の中へと溶けて消えた。


「いらっしゃいませ! 何人様でしょ?」


 彼女たちが入り口近くで立っていると、すぐに店員の一人がやってくる。

 間近で見ると、その大きさは更に際立つ。

 これは首筋を痛めそうね、とララは心の中で零す。


「五人よ。個室は空いてるかしら?」

「五名様ですね。個室もありますよ」


 にっかりと眩しい歯で笑う店員に案内され、彼女たちは店の奥へと進む。

 大きなテーブルや椅子が並ぶ天井の高い部屋には、店員達と同じように大柄な種族が多くいた。

 まるで自分が縮んでしまったかのような、不思議な感覚に陥ってしまう。


「こちらへどうぞ! ご注文が決まりましたら、ベルで呼んで下さい」


 通されたのは、薄く透けた赤い垂れ幕で仕切られた個室だった。

 シアは慣れた様子でそれを持ち上げ、中に入る。


「ほら、みんなも入って入って」

「シアはなんだか慣れてるわね?」


 シアの声に導かれ、ララたちは中へと入る。


「ま、それなりに来てる店だからね。ピピとも来たことあるし、ミルとも来たことあるわよね?」

「はい。前に数度来ましたね。……わたしはもうミニサイズしか頼みません」


 シアの言葉にミルは耳を揺らして頷く。

 暗い顔で呟かれた言葉の真意は、ララたちも店の雰囲気から大体つかみ取った。


「ここの店員さん達って、もしかして巨人族ですか?」


 ロミがシアに尋ねる。

 確かに、あれほど巨大な彼らが人間族というのは考え辛い。


「そうよ。とはいっても、巨人族の中では小さい方らしいけどね」

「あ、あれで小さい方なんだ……」


 シアの言葉に、一同は戦慄を覚える。

 一番小さな店員でも、イールの二倍に満たない程度の背丈である。


「巨人族は体格的に断られる店も多いからな。大体の町には巨人族がやってる巨人族も入れる店っていうのがあるんだ」

「へぇ。……それもそうか。特に妖精族も多いアルトレットなら余計に巨人族は肩身が狭そうだもんね」


 過去の旅の経験を交えたイールの説明に、ララは納得して頷いた。


「そういえば、今日は祝賀会とシアが言ってましたけど、結局何があったんですか?」


 不意にミルが首をかしげて尋ねる。

 今回の件の当事者ではない彼女は、まだ事態の全容すら知らない。

 しかし、ララ達もこれを説明していいものか迷い、顔を見合わせる。


「まあ、簡単に言えば町に洗脳を掛けてた犯人ぶっ飛ばしたのよ」


 少し考えた後、ララが軽い口調でミルに伝える。

 ミルは大きな目を丸くして耳をピンと張った。


「や、やっぱりわたしたち洗脳されてたんだ……」

「そのあたりは昨日話したから知ってるよね。まあこれで洗脳も徐々に解けてくはずよ」


 ミルとシアとララたちの認識の食い違いから、洗脳の影響は発覚したため、当然ミルもその件については薄らとだが知っているようだった。

 彼女はララの説明を聞き、安心したように肩の力を抜いた。


「それで、結局洗脳の内容の違いはどういうことだったの?」


 メニューを眺めていたシアがふと顔を上げて言う。


「多分だけど、種族による違いだと思うわよ」

「ああ、そういうことね……」


 ララの短い説明に、シアもすぐに納得して顔を落とす。

 彼女にとって、今回の件は地味ながらも安寧の危機だった。


「おお? そこにいるのはララ殿ではないか?」


 そんな時、唐突に垂れ幕の向こう側から声が届く。

 聞き覚えのあるその声色にララが振り向くと、煌びやかな異国の衣装を身に纏った老人が驚いた様子で立っている。


「ガモンさん!? こんなところで会うなんて、奇遇ね」


 そこにいたのは、カミシロ交易船の船長を務める老人、ガモンだった。


「それにミオさんまで。随分意外な組み合わせなんだけど」

「うふふ、こんばんは」


 ララは視線をガモンから横にずらす。

 そこには、ミオが紫紺の浴衣を纏って立っている。


「以前からミオ殿よりこの店の話を聞いておってな、今日は案内して貰っておったのじゃ」

「へえ、やっぱり同郷の人たちは仲が良いのねぇ」


 快活に笑うガモンに、ララは頷く。

 遠い異国の地であるからこそ、故郷を同じくする者というのは自分の支えとなってくれるのだろう。


「ねえ、ララちゃん。良かったらそこの二人もこっちに入ってきて貰う?」

「え、いいの?」

「私は良いわよ。ミルも――」

「はい! 是非に!」


 シアの唐突な提案に、ララは驚く。

 ミルもブンブンと耳を揺らして頷いている。

 彼女の視線を辿ってみれば、眼を細めて立つミオへと釘付けになっていた。


「あの、ガモンさん。良ければこっちで一緒にご飯食べませんか?」

「おお、それはありがたいな。見たところ地元の方々もいる様子じゃし、色々とご教授願いたいこともあるのだ」

「私も是非お願いしたいです。そちらの獣人族の方とお話したいですね」


 そういうわけで、個室に新たに二人が加わった。

 巨人族基準の個室は七人になったところでまだまだ余裕がある。


「それじゃ、ちょっと人数も増えたけど宴を楽しみましょ」


 ララは楽しげにそう宣言すると、早速ベルを振り鳴らした。

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