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第百五十三話「おすすめのお店を教えて頂きたく……」

 拘束されたフゥリンの身柄は、無事にギルドへと届けられた。

 完全に心を折られたらしいフゥリンは、大人しくギルドの牢で座り込んでいる。


「この後あの爺さんは審問に掛けられるんだったか?」


 ギルドからの帰り道で、イールがロミに尋ねる。


「はい。一度教会の審問会がその人の罪などを見るのです」

「その後はどうなるの?」

「場合にも依りますが、魔力を封じられた上で監獄塔送りでしょうか」

「監獄塔……」

「キア・クルミナ教が所有する七大監獄の一つで、辺境にある唯一の監獄なんですよ」


 さらりと物騒な事を言い放つロミに、ララとイールは背筋が凍る。

 キア・クルミナ教ほどの巨大組織ともなれば、そういった施設も必要になってくるのはなんとも世知辛い話だった。


「ギルドからヤルダの神殿までは、テトルが送るらしい」

「あれ、テトルが来るのね」


 イールは遠話の首飾りを使ってテトルとコンタクトを取っていたようだった。

 ロミは久しぶりにイールの妹と会えるとあって破顔する。


「自動車も随分と改良が進んでるみたいで、丁度距離を伸ばしてみたかったんだとさ」

「そっちの方も順調なのね」


 『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』から拿捕した魔導人形を、更にララが魔改造してテトルの所属する『壁の中の花園(シークレットガーデン)』に渡したのも随分と懐かしい話である。

 それの技術を流用してテトル達が開発した魔導式自動車は、現在はヤルダとハギルの間を、とある村を経由しながら運行しつつ実地テストを行っている最中だった。


「テトルはああ見えて天才だからな」

「ああ見えてって、普通に天才だと思うけど」


 自分の妹の事を褒めるのは気恥ずかしいのか、イールが若干頬を朱に染める。

 とはいえ、彼女の聡明さは誰もが知るところである。


「それじゃ、テトルにフゥリンの身柄を渡したら私たちはカミシロ行きの船に乗るのね」

「まだガモンに会ってないから確定じゃないが、順当に行けばそうだろうな」


 一連の事件も首魁の確保という結末で一件落着と相成った。

 この顛末をガモンに伝えれば、ララは念願のカミシロ行きの切符を手に入れる事ができる。


「この後、すぐにガモンさんの所に行くんですか?」


 話を聞いていたロミが首をかしげる。

 しかしそんな彼女の質問に、ララは眉を寄せて答えた。


「うーん、やっぱりすぐに伝えないとダメかな? ぶっちゃけ今日はもう疲れたから帰ってご飯食べて寝たいんだけど……」

「でも流石に依頼主への報告を後回しにはできないぞ。一度ホテルに寄って簡単に説明だけしよう」


 全身を鉛の様に覆う疲労感に、ララがげんなりとした表情で言う。

 ハルバードを振って【指先の眼】を数機常に展開し、その上でナノマシンのエネルギーをかなりの量消費した。

 視界の端に表示しているエネルギー残量も、すでに残り二割を切っていた。

 そんなララをイールは慰め、とはいえ行かない訳にもいかず説得を試みる。


「……うぅ、ちょっと気が進まないけど仕方ないよね。カミシロ行きが掛かってるんだもんね」


 ララは小さくため息をつくと、吹っ切れた様子で頷いた。

 そうして一行は行き先を変え、ガモンが部屋を持つ高級ホテル星の渚へと足を向けた。



「ようこそおいで下さいました」


 相も変わらず煌びやかで上品な星の渚のロビーで三人を出迎えたのは、やはり初老の接客長ポレフだった。

 以前と同じく細い身体に皺一つ無い黒いスーツを纏い、ぴんと背筋を伸ばして立っている。

 彼は戦闘帰りで土埃の付いた三人に眉を動かすこと無く、冷静に応対した。


「こんばんは。ガモンさんにお話したい事があるんだけど、今大丈夫かしら?」


 三人を代表し、ララがポレフに話しかける。


「申し訳ありません。ガモン様はただいま外出中でして」


 しかし彼の返答は残念なものだった。

 申し訳なさそうに腰を折るポレフを三人は慌てて制止する。


「いやいや、いいのよ。事前に連絡も無しで押しかけた私たちが悪いんだもの」

「とりあえずガモンが帰ってきたら、あたしたちが来たって事だけでも伝えておいてくれないか?」

「それはもちろんですとも。ガモン様には必ずお伝えしておきます」

「それじゃ、また日を改めて来るわ」


 ポレフにそう伝え、ララ達は星の渚を後にする。

 ガモンに会えなかったのは残念ではあるが、今日に限っては都合が良いとも言える。


「晩ごはん、何にしよっか?」


 先ほどからクゥクゥと悲痛な声で訴えるおなかを抱えながら、ララが言う。

 エネルギー消費がダイレクトに空腹へと繋がる彼女は、もう既に倒れそうな程におなかが空いていた。


「そうだな、できるだけ量を食べたいか?」

「うん。とりあえず何か食べてエネルギーにしたいわ」

「わたしも今日ばかりはかなりおなかが空いてます……」


 イールの言葉にララが頷き、ロミも便乗する。

 そういうイール自身も、今夜は何かがっつりと食べたい気分だった。


「適当に屋台で買って食べるのもいいけど……」

「朝も昼もそれだったしなぁ」


 今日二食ともそれでこなしたため、新鮮味が無い。

 渋い表情のイールに、ララもこの提案はすぐに捨てた。


「となるとどっかの店だな」

「やっぱり初めて行く場所がいいよね」

「せっかくの旅の身の上ですもんね」


 きゃいきゃいと楽しそうに言葉を交わす彼女たちは、年相応の少女たちのようである。

 一カ所に留まらない旅人であるからこそ、その土地でできるだけ多くの種類の味を楽しみたい。


「あらあら、そこのお嬢さん方。何かお困りのようね?」


 星の渚の庭園を抜け、薄暗い海岸沿いを歩いていた時、不意に暗がりから声が掛かる。

 一瞬にして弛緩した雰囲気を引き締め、ララ達は視線を向ける。

 そんな彼女たちの目の前に、クスクスと堪えるような笑い声と共に、人影が現れた。


「って、シア!?」

「うふふ。みんなまだまだ気が立ってるわね」


 ララが驚愕の声を上げる。

 暗がりから出てきたのは、目に涙を浮かべて笑うシアだった。


「てっきり塩の鱗に戻ったものだと……」

「その辺散歩してたのよ。そしたら見覚えのある三人衆が歩いてるのが見えちゃって」

「た、性質の悪い……」


 目の端の涙を拭い、シアは再度柔らかな笑みを浮かべる。


「とはいえ、今日はありがとう。比喩でも何でも無く、命の恩人よ」

「大げさね。私はただ散歩してたら小石があったからどけただけよ」

「こ、小石か……」

「フゥリンが聞いたら今度こそ血管が破れそうですね」


 あっけらかんと言い放つシアに、イールとロミも苦笑を浮かべるしか無い。

 しかしながら彼女の魔法の実力は本物である。

 フゥリンの魔法をことごとく破ってきた彼女の力は、何よりもこの三人がよく知っている。


「そうだシア、お礼と言っては何だけど今日はご飯ごちそうするわよ」


 シアの身の上を考え、あまり追求されるのは彼女の望むところでは無いとララは考える。

 そうして彼女は話題を変えるついでにそんな提案をした。


「ほんと? それは嬉しいわね。あ、ミルも連れてきましょうか」

「うんうん。ミルも一緒に、みんなで盛大に食べましょう」

「あたしも賛成だ。やっぱり食事は大人数の方がいい」

「わたしも賛成ですよー」


 そういうわけで、すぐさま満場一致でこれからの行動は決まった。


「と言うわけでシアさん。おすすめのお店を教えて頂きたく……」

「あ、そっちが目的ね!?」

「えへへー」


 シアも加えて女四人。

 ララ達は会話に花を咲かせながら、ミルの待つ塩の鱗亭へと足を向けた。

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