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第百五十二話「じゃ、帰りましょうか」

「貴方にこれを使う日が来るとは思いませんでした」


 悲哀に満ちた言葉と共に、ロミは黒鉄の手錠をフゥリンの枯れた腕に掛ける。

 それは、神殿にある拘束具の一つで、魔力を大幅に減衰させる力を持った特殊な金属で作られていた。


「儂が見た物とは、真の魔とは、一体何だったのだ……。あの女は、儂を容易くねじ伏せた、あの女は一体……」


 拘束された事に抵抗を見せる様子も無く、フゥリンはうわごとを漏らす。

 その目から生気は果て、水に濡れた衣の中で微かに身体を震わせている。


「これは……、完全に心が折られてるわね」

「あれだけ圧倒的な差を見せつけられたんだ、元々の自負があった分その衝撃は強烈だろうな」


 ここまで成り果ててしまうと、流石に同情の念も微かに湧いてくる。

 それによってこれからの境遇がどうこうなるという訳でもないが、哀れには思う。


「まあとにかく、これから色々質問するわよ?」


 ララは拘束されたフゥリンを部屋のソファ――といっても戦いの余波で若干湿っている――に座らせ、自らも対面に腰を下ろす。


「まずは……そうね、なんで町の人たちを洗脳なんてしたの?」


 一言目から、ララは単刀直入に本題へと踏み込んだ。

 フゥリンは力の無い目でちらりとララを捉え、またすぐに俯く。


「ちょっとした実験じゃよ。儂の力で、何人の兵士を作れるか」

「その実験結果があの神殿騎士達って事ね」


 そう言って、ララは振り向く。

 フゥリンによって操られていた神殿騎士達も拘束具を嵌められ、部屋の隅に押し込まれている。

 ララも一応”眼”を付けてはいるので、仮に抜け出す者がいてもすぐに分かるだろう。


「けれど、一体どうやって町全体にまで魔法を展開させたんですか?」


 不思議そうに首をかしげて言うのはロミである。

 魔法について精通している彼女だからこそ、それほど広範囲にまで及ぶ魔法に違和感を覚えていた。


「あ、それは多分私分かると思うんだけど」

「ええっ!? ララさん知ってるんですか?」


 その質問に口を開いたのはララである。

 予想外の人物に、ロミは目を丸くする。


「多分だけど、魔除けの聖柱でしょ?」

「……聡いのう」


 ララの言葉に、フゥリンは眉を上げ、ただ一言漏らす。


「魔除けの聖柱って……、あれを起点にして魔法を発動させたって事か?」

「ええ。あれならアルトレットの町中にあるし、管理は神殿の管轄なんでしょう?」


 魔除けの聖柱は、町の周囲は内部に散在する神聖な力を持った柱の事である。

 これにより魔物などの脅威は遠ざかり、人は安寧の地を維持することができる。


「……まさかわたしたち神殿の設備が悪用されるとは。一応、そういった事を防止するための機構もあの柱にはあるのですが、フゥリンには関係ありませんでしたか」


 フゥリンの行ったその行動は、ロミの失望を買ったようだった。

 彼女の老人を見る目はがらりと変わり、同情の念は消え果てる。


「フゥリン、貴方を今、わたしがどうこうするつもりはありません。……ただこれから貴方はヤルダ神殿によって審問に掛けられるでしょう」

「じゃろうな。翼は虚構だと知った。後は地の底にまで落ちるのみじゃ」


 堅く厳しい声色のロミに、フゥリンは落ち着いた声で答えた。


「その爺さんの処遇はあんまり興味ないんだが、要は聖柱を使って魔法を拡大したんだよな? そこまでして大行進を隠す意味ってあったのか?」

「大行進……? ああ、ウォーキングフィッシュの大移動の事か。あれに手綱を付けて御する事も、儂の研究の目的じゃったからの」

「研究の目的?」

「魔獣を従え、人を傀儡とする。全てを支配下に置く魔法の開発じゃ」


 フゥリンの口から飛び出した言葉に、三人は絶句する。

 言うなればそれは、一夜にして万の軍勢すら作り上げる魔法である。

 同族のみならず、敵である魔獣すら取り込む壮大な魔法に、ララは頭痛を覚えた。


「そんな事をして、どうするつもりだったのよ」

「我らが『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』の威光を辺境の地に轟かせるのじゃ。魔獣と人間を支配し、魔導人形によって侵略するのじゃ」

「あー、お人形さんね」


 今頃はヤルダのテトルたちの手に渡っている魔導自律人形の事を思い出し、ララは目をそらす。

 そこまで言ってしまう義理もないだろう。


「そういえば、ララはなんでこの爺さんが『錆びた歯車』の一員だと知ってたんだ?」

「いやまぁ、単純にこの人が『錆びた歯車』関連の資料を持ってたから」

「はあ? そんなの、いつ見つけたんだ」


 ララの説明に、イールとロミは首をかしげる。

 彼女にそんなものを探すほどの時間は無かったはずである。


「ちょっと、眼を使っただけよ」

「視力が良いとかいう次元じゃないな……」


 ララは周囲に浮かぶ【指先の眼】に視線を向けて言う。

 それらの正体について知らないイール達には、よく分からない様子だった。


「とりあえず、聞きたいことは全部聞いたかしら?」

「そうですね。あとはこの人達の処遇です」

「全員ギルドに連行かねぇ」


 洗脳の犯人も無事に判明し、その身柄もひとまず確保できた。

 これにて、ララたちができることは全て終わっただろう。


「これ、洗脳はもう解けてるのかしらね?」

「それはそれで混乱になりそうだが……」

「……洗脳が解けるのはまだ先じゃよ。聖柱の魔力があるうちはまだ解けぬ。次第に薄らいでいくだけじゃ」

「うーん、微妙に便利!」


 フゥリンの言葉に、三人も安心した様子だった。

 洗脳が一気に解けてしまえば、それはそれで町全体を混乱の渦に巻き込むこととなってしまう。

 その点、少し考えなしに行動しすぎたかもしれないとララは反省した。


「とはいえ、洗脳の元を絶っただけで、大行進を止めたわけじゃ無いのよね。この報告をお土産にガモンの所に行って、カミシロに連れて行って貰わなきゃ」

「そういえば、そんな話もあったな」


 イールも失念していたらしく、ぽりぽりと頬を掻く。

 大行進――カムイの拡大した原因を調べ、それを報告するというガモンからの依頼も、これで達成できそうである。


「それではギルドに戻りましょうか」

「そうね。今日はもういっぱい食べて休みたいわ」


 事態が一段落し、ララは緊張がほぐれたのだろう。

 どっと押し寄せる疲労感にぐったりとソファへ身を沈めた。


「もー、ララさんこれから戻るんですから立って下さいよぅ」

「うぇえ、分かったわよ」


 頬を膨らませるロミに急かされ、ララは立ち上がる。

 呆れた様なイールに見られながら、彼女は渋々ハルバードをしまって身支度を整える。


「じゃ、帰りましょうか」

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