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第十五話「綺麗な玉のようなお肌です。うらやましい……」

「ララがいない!? この一瞬でどこいったんだ」


 あたりを見回し、焦燥した様子でイールは声を荒げる。


「すみません……。わたしも気付くのが遅れてしまって」


 ロミは申し訳なさそうに何度も頭を下げる。


「いや、あたしだって気が付かなかったんだ。お互い様さ。それよりも今はあの子は探さないと」


 ロミを慰め、イールは眉間にしわを寄せる。

 なにせ、この人混みの中である。

 闇雲に探したところでそう簡単には見つからない。

 最悪、イールとロミさえも連絡が取れなくなってしまう。


「イールさん」

「うん? なんだ?」

「アンデルト広場は分かりますか?」

「ああ、あそこなら……」


 アンデルト広場とは、ヤルダの中心近くにある広場だ。

 大きな噴水を囲む円形の広場で、町の中枢でもある。


「もし、夕の三刻までに発見できてもできなかったとしても、ひとまずそこに集まりましょう」

「あ、ああ。そうだな、そうしよう」

「それでは、わたし探しに行ってきますね」

「よろしく頼む」


 手短にそれだけを決めると、ロミは人混みの中へと消えていく。

 イールはロッドがいるため、おいそれとは動けない。

 やるせないもどかしさを感じつつ、せめてもの足掻きとして、イールは道行く人々に話しかける。


「なあ、白い髪の女の子を見なかったか? やせっぽちで、チビで、革の外套を着てるんだ」

「うん、女の子? うーん、見てないねぇ」


 しかし、人々の返答は芳しいものではない。

 十人、二十人と数を重ねても、進捗はなかった。


「くそっ。まったく、どこに行ったんだ……」


 長い赤髪の毛先を指でいじりながら、イールは言葉を荒げる。

 探しにいけないことが、なによりももどかしい。

 気が付けば日は傾きつつある。

 約束の時間までもうあまり時はない。


「……そろそろ移動するか」


 せめて歩きながら探そうと、イールは早めに移動を開始する。

 足跡一つ見逃さないと、周囲を鋭く睨みながら、彼女はロッドの手綱を引いた。


「ねぇ、そこのお姉さーん」


 そんな時。

 唐突に背後から軽い口調の声が掛かる。


「あぁ?」


 内心穏やかでないイールは怒気を含ませた声で応え振り向き――


「お前は……!」


 琥珀色の目を開いた。


*


「うぅ……。結局ララさん見つかりませんでした……」


 イールと約束した夕の三刻。

 場所は人々が集まるアンデルト広場の噴水。

 通りを歩き回って探していたロミは、結局ララを見つけることができず肩を落としていた。


「不甲斐ないです……。わたしがもっとちゃんとララさんを見ていれば……」


 鳶色の瞳を湿らせて、ロミは失意に暮れる。

 太陽は傾き、もうすぐに夕焼けが町を染め上げるだろう。


「それにしても、イールさんも遅いですね」


 ロミがこの場所へやってきて、少なくない時間が経っている。

 約束の刻限も過ぎ、そろそろ彼女が現れてもよい頃合いだった。

 しかし、ロミがきょろきょろと群衆を見渡しても、その中に特徴的な赤髪と体躯の良い荷馬を見つけることはできない。


「ま、まさかイールさんまで迷子に!?」


 最悪のシナリオが脳裏をよぎり、ロミは思わず身を震わせた。


「おーい!」


 口から魂の漏れ掛けていたロミの耳に、聞き慣れた声が届く。

 一瞬で正気を取り戻した彼女は慌ててあたりを見渡す。


「おーい! すまない、遅くなった」

「イールさん!!」


 人混みから現れたのは、申し訳なさそうな顔のイールだった。

 ロミは駆け寄り、彼女の手を握る。


「イールさんまで迷子になっちゃったのかと思いましたよ……」

「すまない。ちょっと知人に会ってね」

「ちじん?」


 イールが視線を横にやる。

 それにつられてロミも顔を向けると、金髪を短く纏めた細身の青年がにこにこと笑顔を浮かべて立っていた。


「初めまして! オレ、パロルド。イールとは傭兵ギルドを通して知り合った古い仲なのさ~」

「ふ、ふぇぇ……」


 耳や指に銀の装飾を身につけ、青い半袖のシャツを着た、いかにもな軟派男である。

 膝の見えるハーフパンツには細いチェーンも巻き付いて、動く度にジャラジャラと音が鳴る。

 パロルドと名乗った青年は、猫のような青い瞳を細め、ロミを見た。


「こんなナリだけど悪い奴じゃないよ。その証拠に、ほら」


 警戒心を露わにするロミに苦笑しながら、イールがロッドの背中を指す。

 そこには旅荷に紛れ、見覚えのある白い髪が見えた。


「ララさん!? な、なんで倒れてるんですか? こんなに泥だらけですし」


 ララはロッドの背中に載せられ、だらりと弛緩していた。

 目を閉じ、意識もないようだ。

 服は泥まみれで、変わり果てている。


「ララが路地裏で倒れているところを、パロルドが保護してくれたんだ。あたしたちと一緒に歩いてるところも見てたらしくて、探して持ってきてくれたんだよ」


 イールが事情を説明する程に、ロミは顔を赤くする。

 そして勢いよくパロルドに向き直ると、深々と頭を下げた。


「すすす、すみませんでした! つい人を見た目で判断してしまいました」

「あはは~。大丈夫だよ。オレもこんなカッコだからよく勘違いされるしー」

「イールさんをナンパして、あああ、あんなことやこんなことを……」

「オレはどんな男だと思われてたの!?」


 顔を真っ赤にして吐露するロミに、パロルドは少し涙目になる。

 傍らのイールも微妙な表情である。


「とりあえず、このお嬢ちゃんは生きてるみたいだし、休ませてればいいと思うよん」


 それだけ言い残し、パロルドはくるりと身を反転させる。


「あの、あ、ありがとうございました!」

「あたしからも。ララを見つけてくれてありがとね」

「いいってことよー。オレは困ってる子を放っておけないのさー」


 適当に手を振って、パロルドは人混みに消える。

 その背中を、二人は見えなくなるまで追った。


「それで、ララさんは大丈夫なんでしょうか……」

「なんで路地裏なんかで倒れてたのかは分からないけど、とりあえず消耗してるみたいだね。医者に診て貰ってから、宿屋で休ませるよ」

「あ、それならわたしが診ましょうか?」


 勢いよく手を上げて、ロミが進言する。

 怪訝な顔のイールに、彼女は胸を張って説明した。


「武装神官は、というか神官はみんな医療技術と治癒魔法を習得してるのです。必須技能の一つなのですよ」

「ああ、そういえばそんな話も聞いたことあるね」


 イールが思い出したように手を打つ。

 医者のいない辺境の村などでは、神官が医者を兼ねることもよくある。

 そのため、キア・クルミナ教の神官たちはその地位に関係なく、全員が医療技術を習得しているのだった。


「それでは、失礼して……」


 そう言って、ロミはララのくるまれた外套を剥ぎ取る。

 慣れた手つきで服を緩め、各所を視診していく。


「あれ? 外傷はないですね。綺麗な玉のようなお肌です。うらやましい……」


 ララの肌は傷一つ、痣一つなかった。

 柔らかい絹のように滑らかで、艶のある肌だ。


「うーん、打撲とか骨折という訳でもないですね」


 ララが倒れた原因が分からず、ロミは眉を寄せる。

 そして、次に魔法を使って身体の内部を診る。


「……あれ?」


 瞳に青白い光を宿らせたロミは、疑問の声を上げる。

 側で見守っていたイールがのぞき込む。


「ララさん……、魔力が一切見当たらないんです」

「魔力が見当たらない!?」


 イールは思わず驚きの声を上げた。

 すぐに周囲を歩く人々に気付き、声を潜める。


「そんなこと、ありえるのか?」

「普通はありえませんよ! 魔力はあらゆるものに宿っている万物の根源ですよ」

「だよね……」


 二人は尋常ならざる物を発見したように表情を硬くした。


「とりあえず、これはお医者様には見せられませんね」

「混乱の種になって、学院に連れて行かれる。ってことだね」


 イールの言葉に、ロミは頷く。


「ひとまず、宿屋に運んで様子を見ましょう」

「そうだね。そうしよう」


 二人はララを再び外套でくるむと、足早に広場を後にした。

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