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第百四十九話「出し惜しみは負けフラグなのに……」

 フゥリンが杖を振る。

 白く輝く小さな魔方陣が彼の周囲に浮かび上がり、そこから鋭く尖った氷の針が飛び出す。


「『魔力障壁』!」


 しかし殺到するそれらを、ロミは短縮詠唱の魔法によって防ぐ。

 ロミの構築した薄紫色をした半透明の膜が、氷の針を溶かしていく。


「ふむ。さすがはレインの称号を持つだけはあるのう」

「お褒めに預かり光栄です」


 形だけは優雅な会話を繰り広げながら、その実双方警戒を怠ること無く相手の隙を伺っている。

 魔法使い同士の戦いは、基本的には遠距離戦だ。

 あちらの魔法が到達するまでに、それを無効化する必要があり、それができないのであれば戦いは一撃で勝敗を決する。

 それ故、二人の魔法の応酬の間に、ララやイールは割り込もうにも割り込めない、もどかしい状況だった。


「『氷鏃の豪雨』」


 フゥリンが杖を振る。

 細かな氷の鏃が無数に殺到し、それはロミの魔力障壁に突き刺さる。


「くっ!」


 障壁に掛かる負荷は、術者の魔力によって修復される。

 ロミは盛大に減少する魔力に、思わず顔を顰める。

 苦しげな彼女の様子と対極に、フゥリンは未だ余裕綽々といった様子だった。


「詠唱短縮どころか、詠唱破棄、無音発動も使いこなしてまだあれだけの余裕ですか」


 ロミは思わず呻く。

 今は敵とはいえ、昨日までは尊敬の念を惜しみなく送る偉大な老師だった。

 それだけにロミは悔しいという感情が胸に溢れていた。


「貴方は……、どこで道を踏み外したのですか」

「踏み外した?」


 感極まったロミの問いに、フゥリンは白い髭を撫でて首をかしげる。


「儂は道を踏み外したことなどない。道を歩いたことも無い。儂の歩く場所は、たとえ断崖であろうと水上であろうと、全て儂の決めた、儂だけの道だ」

「私の前に道は無い。私の後ろに道は続くとかいうヤツ?」


 杖を掲げ、誇示するように言うフゥリンに、ララが呆れたように言う。


「そんな格好良さそうな言葉を並べたところで、貴方も私も、ロミだって誰だって、みーんな誰かが通った道を通ってるのよ。そこを歩くのが初めてだからって、貴方が遍く全ての生類の代表みたいな顔する理由にはならないわ」

「長台詞は愚者の特徴じゃよ。小娘」

「あれ、図星を突かれてイラッとしちゃった? やーねー、やっぱり老人になると短気になるものね。老い先短いと時間的に余裕がなくなっちゃうのかな?」

「……中々言うのう。その口、切り刻んでやろう」


 ララの挑発に、フゥリンはブルブルと肩を震わせる。

 眉間には深い皺を刻み、杖を握る手に力が籠もる。


「あれくらいの挑発で激昂するなんて、血の気も多いわねぇ」

「ララさん! 気をつけて下さい、あの人はあれでも教会屈指の水魔法使いです」

「大体分かるわよ。さっき”視た”し。任せて頂戴」


 余裕をなくしながら忠告するロミに、しかしララはまるで近所に散歩へ行くような気軽さで答える。


「ちょっと前に出るわね。ロミはイール守っといて」

「だ、大丈夫なんですか!?」

「私を誰だと思ってるの? 魔法すら凌駕するスペシャルな得意技の十や二十いつでも使えるような、ちょっとした化け物よ」

「ば、化け物だなんて……!」


 ララは自嘲的な笑みを残し、魔力障壁を抜ける。

 追いかけようにも、魔力障壁をでてしまえばそれを見逃すフゥリンではないだろう。


「ほう、小娘。なぜ安全な魔力障壁から出てきた? 殺されることを望むというか」

「んなわけないでしょ? もう耄碌始まってるの?」

「冗談じゃよ。最近の若者はせっかちで敵わぬ」


 言いながら、フゥリンは魔法を構築し始める。

 先ほどの物よりも強力で複雑な大魔法の予感に、ララは口角を上げる。


「『身体強化』『脚力重点強化』『視覚拡張』『電脳演算』『ブルーブラストエンジン起動』『ナノマシン二次起動』」


 フゥリンから目を離すことなく、ララは早口でコマンドを入力する。

 ナノマシンの存在を知らないフゥリンは怪訝な顔をする。


「聞いたことの無い呪文詠唱じゃな?」

「そりゃまあ、この世界にはとりあえずなさそうな呪文だしね」


 フゥリンに笑いかけるララ。

 年端もいかない少女が、明確な殺意を露わにする老人と相対するその光景は、ひどく異様なものだった。


「準備はおーけー? 私から行くわよ?」


 ララはハルバードを構え、体勢を低くする。

 狩りを始める獣のような獰猛なオーラを纏う。


「『点火(イグニッション)』」


 バチンッ! と火花が散る。

 それは花弁が広がるように、稲妻が走るように、彼女たちが立つ部屋に広がる。


「ぐっ!?」


 予想外の攻撃に、一瞬フゥリンが怯む。

 ララの後ろに立っていたロミとイールさえも驚くのだがら、仕方の無いことではあるが、それでもその隙は致命的である。


「はぁっ!」


 ララが地面を蹴りつけ、一瞬で距離を詰める。

 フゥリンの白い神官服に肉薄し、ハルバードを構える。


「吶喊!」


 超速の勢いに任せ、ハルバードによる刺突がフゥリンを襲う。


「ぐ、『氷壁』!」


 しかしそれは突如現れた氷の壁によって、間一髪の所で封じられる。

 それどころか、切っ先が壁に埋まったことにより、ハルバードが絡め取られてしまった。


「ふはは、武器が使えなくなってしまったぞ?」

「これくらいで武器取り上げたとか思ってんじゃないわよ」


 得意げなフゥリンの目の前で、ララはハルバードを一度待機状態に戻す。

 一瞬にして収縮したハルバードは、それだけで簡単に氷の壁から抜ける。


「『戦闘形態起動』。まあこんなもんね」


 ララは自由になったハルバードの広い刃を力任せに叩きつける。

 分厚い氷の壁は、脆くもその一撃で砕け散る。


「……中々やるでは無いか」


 砕け散る氷の破片の向こう側で、フゥリンがくつくつと笑う。


「『星の礫』!」


 そこへ、ララの背後から鋼鉄の塊が飛翔する。

 フゥリンは間一髪の所で身体をずらすことでそれを避ける。


「三対一だということ、覚えていてくれてますか?」

「そういえば、そうじゃったの」


 悔しそうなロミに、フゥリンは視線を向ける。

 ロミの隣では、イールが剣を構えて立っている。


「これは、儂も本気でいかねばならんのう」

「まだ本気だしてなかったの? 出し惜しみは負けフラグなのに……」


 呆れたようなララの台詞に、フゥリンは暗い眼で笑った。

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