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第百四十八話「最終決戦、スタートね」

 銀閃が走るたび、重厚な甲冑の騎士たちが宙を舞う。

 体格に勝る騎士達を軽くいなしながら、ララは神殿を奥へと進む。


「はっはー! 邪魔よ、退きなさい!!」


 前方に立ち塞がる騎士を吹き飛ばし、そのままの勢いでハルバードを旋回させる。

 そして、背後から忍び寄ってきていた別の騎士を、ノールックで迎撃する。


「無駄無駄! とっとと道を開けるが良いわっ!」


 端から見ればどちらが悪役かも分からないような台詞を吐きながら、ララは進む。

 全方位から襲いかかる騎士達を瞬時に迎撃する彼女の傍らには、小さな銀球が飛翔している。


「眼のお陰で視界は良好以上! うーん、やっぱ便利ね!」


 彼女に随伴する銀球【指先の眼】は、彼女の視界を拡張する。

 必要最低限の動力を確保するためだけに用意された極小のエンジンしか備えていない眼は、戦闘力こそ皆無なものの、その小柄な体格を活かした俊敏な動きによって主の意のままに動くことができる。

 そんな三つの眼を周囲に配置することによって、ララは死角をなくしていた。


「しっかし、倒しても倒しても起き上がってくるのは厄介ね」


 ララはへしゃげた甲冑のまま襲いかかる騎士を再度吹き飛ばして言う。

 彼らは人間とは思えない、異常なまでのタフネスを保有しているようだった。


「ォアア……」

「いつの間にか言葉も忘れちゃってるみたいだし、やっぱりこれ操られてる感じかなぁ」

「グバッ」


 見かけだけは超重量のハルバードが、騎士の横っ腹を殴りつける。

 騎士は鞠のように吹き飛び、白い壁に亀裂を作る。


「やっぱり、大元を止めるしか無いよね」


 仕方ない、とララは肩をすくめる。

 そうして再度ハルバードを構え直すと、三つの眼を引き連れて神殿の奥へと走り出した。


「ほらほらほらぁ! 邪魔よ邪魔邪魔!」


 迫り来る騎士達は、ハルバードによって粗暴に吹き飛ばす。

 どうせこの神殿に正気を保った者などいないのだ、自分も少々の狂気を見せたところで問題はない。


「場所は分かってんのよ! 科学とストーカーの情熱舐めんな!」

「ゴァッ!「ガフッ!「グガッ!?」


 一振りで三人の騎士さえ吹き飛ばし、ララは強引に道を開ける。

 吹き飛ばしても吹き飛ばしても、また起き上がって殺到する騎士達が多すぎて、まるで無限に現れているかのような錯覚さえ覚えるが、ララはその全てを吹き飛ばしていく。


「問答無用、情け無用、容赦ナシ! はっはー!」


 若干バトルジャンキーな言動になりつつあるが、どうせここに理性を持っている人間などいないのである。

 快調に神殿の長い通路を駆け抜け、ララはやがて一つの扉の前で立ち止まる。


「ここね」


 ハルバードを構え、ララは扉を見据える。

 フゥリンを追尾させている眼の反応は、ここを示している。

 それから送られてくる視覚情報からは、何やら怪しげな作業をしている老人の姿もバッチリと映っていた。


「お邪魔するなら、ノックは大切よね」


 そう言って、ララはおもむろにハルバードを持ち上げる。


「まあ、ノックで壊れちゃうような、柔い扉じゃないといいけど」


 ナノマシンの起動する、白い光が廊下を埋め尽くす。

 群がる神殿騎士達の視界を焼き、その動きを一瞬だけ怯ませる。


「お、じゃ、ま――」


 ぐるん、ぐるん、とララは自分の身体を軸にしてハルバードを旋回させる。

 丁度ハンマー投げの予備動作のように、ハルバードは遠心力を飲み込み勢いを増していく。


「し、まぁぁぁああああっす!!」


 小柄な少女が放つ、背丈よりも巨大なハルバードの一撃。

 十分な勢いによって破壊力を増したその一撃は、容易く扉を破砕した。

 爆音を轟かせ、石の扉は崩れ落ちる。

 土煙がもうもうと舞い、通路の光が薄暗い室内へと流れ込む。


「だ、誰だ! この神聖な神の家にかような振る舞い、許されると思うでないぞ」


 部屋の奥から、老人の激怒した声が響く。

 どうやらこの部屋の中からは、外の様子は伺うことができないようだった。


「何が神の家よ、騎士達を勝手に改造して、私兵に仕立て上げてるくせに」


 空気を読まず殺到する騎士達を吹き飛ばしながら、ララが声を上げる。


「ふん。神殿騎士をものともしないとは、見掛けに依らぬようだな」


 土煙が晴れ、フゥリンとララは互いに視線を合わせる。

 ララは一方的に枯れた老人の姿を知っていたが、フゥリンは年端もいかない少女の侵入者に少なからず驚いていた。


「年齢も体格も膂力も、そんなもの重要ではないもの。まあ、とりあえず騎士の動き止めてくれない?」

「……いいじゃろう。ここまで到達した者には敬意を払わねばな」


 ララの要請に、フゥリンは意外にも素直に答える。

 老人が手を振ると、騎士達は凍ったように動きを止める。


「それで、まああなたを引っ捕らえる前に色々聞きたいんだけど」

「ふははっ! 儂に勝つのは前提なのじゃな……。それも良い」


 フゥリンはさも楽しげに笑い声を上げ、肩を震わせる。

 この様な状況だというのに、随分と余裕な態度だった。


「まずは……、そうね、なんで町の人を洗脳したの?」

「洗脳か。なに、ちょっとした実験じゃよ」

「これみたいに、騎士を操る魔法の?」

「そういった所じゃな」


 ララが視線を騎士へと向ける。

 自我を失い、傀儡となった騎士は、剣を振り上げたままの姿で硬直している。


「洗脳によって反旗を翻すことのない忠実な兵力を確保する……。まあ定番と言えば定番なのかしらねー。神殿の人間がやって良いことじゃないけど」

「随分と言うのう。……しかし儂は神殿の長である前に、とある組織の研究員でもあってな」

「『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』でしょ?」

「な!? ……まさか、知っておるとはな」


 軽く言い当てるララに、フゥリンは動揺を隠せない。


「あそこの人とはちょっと知り合っててね。あ、まあお友達ではないけど」


 あそこを襲撃したのも、もう随分と過去の話になったなと、ララは感慨深く思う。

 『錆びた歯車』の新首領となったイライザだったが、あっけなく身柄を拘束された。

 今頃はレイラの監視の下、どこかに監禁されているのだろう。


「貴様か……。貴様がイライザ様を!」

「あら、随分と興奮するわね。そんなにあの女の人って人望あったの」


 フゥリンはブルブルと腕を振るわせて激昂する。

 そんな彼の様子に、ララはさも予想外だと言ったような反応を見せる。


「あ、フゥリンさんちょっと待って。仲間が来たわ」


 今にも戦いの火蓋を切らんとしていたフゥリンを、ララは軽く制止する。


「ララ! 無事だったか」

「お待たせしました!」

「二人も無事みたいで何より。それよりも、ここに首魁さんがいらっしゃるわよ」


 硬直する騎士達の間を縫って、イールとロミが駆けつける。

 フゥリンはその中に長い金髪を認め、愉快そうに笑みを浮かべた。


「ロミ殿ではないか……。ふはは、これは奇遇ですな」

「フゥリン師……。いえ、ただのフゥリンと呼ばせて頂きますね」


 ロミはフゥリンに視線を向け、ララたちも初めて見るような冷徹な瞳になる。


「色々とお訊きしたいこともありますが……。まずは決着を付けてからにしませんか」

「ふはは。ロミ殿は案外血の気の多い。そこは師匠譲りなようですな」


 おかしそうにフゥリンは声を弾ませながら、おもむろに杖を構える。


「最終決戦、スタートね」


 ララの緊張感の無い言葉によって、戦いの炎が巻き上がった。

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