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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第三章【水辺の乙女と青い灯台】

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第百四十六話「魔法使いに会ってくるわ」

 二人が買い物を終えたのは、それからしばらく後のことだった。

 何軒か別の店にも足を運んで様々な物を買い集めた二人の両腕には、大きな包みが抱えられている。


「一旦宿屋に戻るべきかな」

「けどもうそんなに時間もないぞ」


 気が付けば空も淡くオレンジ色が滲み、ピアとの約束の時間になりそうだった。

 彼女は明日の朝でもいいと言ってくれていたが、ララたちはできるだけ早く情報は集めたい。


「しょうがない。荷物を持ったままでもいいだろ」


 そんなわけで、イールの言葉に従って二人は荷物を抱えたままギルドへと向かうことにした。


「お待ちしておりました」


 ギルドを訪問した三人を、ピアは恭しい一礼と共に出迎える。

 彼女は両手で抱え込むようにして赤い布張りの箱を持っていた。


「ごめんなさい。色々荷物持ちで騒がしくて」

「お気になさらず。私も同じようなものです。台車をご用意いたしましょうか?」

「そこまでして貰うのも申し訳ないわ」


 荷物を携える二人だが、ピアはそれを気に留める様子も無かった。

 そんな彼女に案内されて三人はいつもの如く応接室へと通される。

 防音の魔導具を起動し、ドアには錠を掛ける。

 物々しい準備を終えて、ピアはようやくララ達の対面に座った。


「いつもと違って色々と前準備が多いわね」

「これからお話する内容が内容ですので」


 落ち着きをなくして忙しなく首を動かすララに、ピアが答える。

 いつもの彼女とそう変わらない冷静沈着な声色だが、その表情は少し硬い。


「まずは、調査結果の方からお伝えします」


 全員の準備が整ったのを見て、ピアが口を開く。

 赤い箱を開き、その中から紙束を取り出して目を落とす。


「結論から言えば、イール様方からの情報は正しかったです。レイト平原には多数のウォーキングフィッシュが一斉に、一方向に進行した跡が残っていました」

「やっぱり、あれは事実なのね」


 ひとまず、その事実だけは揺らがなかったことにララは胸をなで下ろす。


「ロミ様から伝えられた神殿の調査結果と、ほぼ同じ結果をギルドも得ることができました。ウォーキングフィッシュは一斉に移動し、ある地点で一瞬にして統率を失った。アルトレットの猟師たちは散り散りになった魔物を討伐し、町へと運び込んでいました。それを、私たちは数十年以来の豊漁と捉えていたわけです」

「それだけ聞いてると豊漁っていうのは間違い無いと思うんだけど」

「確かに、豊漁は豊漁です。市場にウォーキングフィッシュが溢れているのは事実ですし。ですが、色々と疑問点が残るのもまた事実です。何故ウォーキングフィッシュの大行進が発生したのか、何故一瞬にして統率を失ったのか、何故大行進の事実がギルドや神殿で観測されなかったのか等々」

「付け加えるなら、情報にムラがあるのもよく分からないわね。だからこそ私たちは洗脳の線を疑ってるんだけど」


 ララの補足に、ピアは頷く。

 新たな紙を手にして、彼女はまた口を開いた。


「平行して町の住人にウォーキングフィッシュの豊漁について尋ねました。おおよその答えは数十年以来の豊漁という共通した認識でしたが、中には例年の産卵行為と認識している方もいらっしゃいます。更には、そもそも大行進やその影響による市場の流通増加を把握していないという方も」

「大体、三種類の認識に分かれる訳だな」

「そういうことになりますね」


 乾物屋のペケや蜂蜜屋のミルトの様な認識、シアの様な認識、そしてミルの様な認識。

 図らずともララ達は三つ全ての誤認識を知っていたことになる。


「それぞれの人たちに、共通点はあるんでしょうか?」

「豊漁と認識した方々は数も多く、人種も性別もバラバラでした。しかし、産卵と認識したのは、いずれも人間の女性、認識していなかったのは人間以外の十七歳以下の女性でした」

「性別や年齢によって、捉え方が違うってこと?」

「しかし、豊漁型の人の中には人間の女性も多数含まれています」

「……あー」

 不思議そうに首をかしげる面々の中で、唯一ララだけは何かを悟ったような苦い顔になる。


「どうかされましたか?」

「いや、多分ある程度個人差があるんじゃないかしら。魔力量とか身長、体重、その日の体調、色々と」

「それもそうですね……」


 取り繕うようなララの言葉は、彼女自身若干苦しいと思ったが、ピアはすんなりと引き下がった。

 ララはとりあえず、帰ったらシアに忠告だけしておこうと心のメモ帳に記す。


「それじゃ、次のお話なんだけど」

「この町に住む魔法使いの情報についてですね。しっかりと集めてきましたよ」


 ララが話題を変え、ピアが箱の中から紙束を取り出す。

 機密と書かれた大きな赤いスタンプが上部に押された紙には、魔法使いの名前が羅列してある。


「バレック・レヤード、フゥリン・レイン・ロッド・コーナス、パック・トック、カジー・ミシェリア……。どっかで聞いたような名前が色々あるな」


 紙を受け取り、ざっと目を通したイールが驚きの声を上げる。


「みんな有名なの?」

「そうだな。とはいえ、全員今はそれなりの年だと思うぞ。大方、若い頃一財産作って余生をのんびり田舎の町で過ごすとかいう、そういう感じだろ」


 リストに並ぶ名前の殆どは、今では現役を引退した魔法使いたちだった。

 何故かという具体的な理由は残念ながら解明されていないが、魔法使いという人種は基本的に短命か長命か両極端な人種だった。

 それは種族に依る所も多いのだが、それでも人間の魔法使いが五百年の時を生きたという記録さえ残っている。


「イールさんの言葉通りですね。多くの方は町の片隅に小さな家を建てて、慎ましく暮らしています」

「町全体に洗脳掛けるような奴らとは考えづらいな」

「そうですね。穏やかな暮らしを望んで、そして満喫する方が大抵です。それ以外の方々も大体は要職に就いている為、そういった行為に及ぶ理由が考えられません」

「となると、やはり在野の魔法使いでしょうか」


 ロミの言葉に、ピアは眉を寄せた。


「在野となると、中々難しいです。ギルドや教会などの組織に属していないとなると、その補足は中々できるものでもなく……」

「それもそうよね」


 リストを眺め、ララは頷く。

 能力的には該当しそうなシアも、このリストには並んでいない。

 ギルドに所属している様子どころか、何か定職に就いている様子もない為、彼女の本当の実力を知るものはそう多くないのだろう。


「ていうか、シアの収入源って何なんだろう……」


 毎日を気ままに生きている彼女の姿を思い出し、不意にララは疑問に思った。

 しかし、今はそんなことを考えている時でも無いと思い直し、首を振って疑問を霧散させる。


「しかし、名前だけだと答え合わせできないわね」


 リストに再び目を落とし、ララは苦々しく呟く。

 ララが絞り込んだ対象についての情報に名前は無い。

 そのため、外見的情報が一切記されていないリストでは、答え合わせのしようが無かった。


「……しょうがないか」


 ララは諦め、残念そうにため息をつくと、ロミに視線を向けた。


「ねえロミ、このリストの中に神殿の人っている?」

「ふえっ!? あ、ああ、神殿ですか。えっと、二番目のフゥリン師がこの町の神殿長ですね」

「そっか。……それなら、とりあえずその人に会いに行きましょう」

「ま、神殿関係者ならロミも知ってるだろうし、妥当かもな」


 イールの助け船もあり、最初の方針が決まる。


「ピア、今回はありがとう」

「こちらはギルドとしての務めを果たしただけですので」


 ララが向き直り、ピアに感謝を述べる。

 ピアは薄く微笑み、そう返した。


「それじゃ、魔法使いに会ってくるわ」

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