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第百四十一話「今日もおまかせ?」

「し、死ぬかと思った……」


 半日みっちりとしごかれたララは、よたよたとした足取りで自室のベッドまでたどり着いた。

 ミルが仕立てた柔らかなシーツに顔を埋めて脱力する。


「死なないように鍛錬してるんだろう」


 彼女の後に続いて入ってきたイールは、汗を掻いてさっぱりとした顔つきである。

 これも力量の差に由来するのか、ララとイールでは体力の消耗もかなり異なる。

 ナノマシンの能力も考慮するならば、二人はほぼ同じ程度の体力量だと推測されるが、足の捌きや体の動かし方などの小さな違いが積み重なって、このように如実に実力となって現れるのだった。


「お疲れさまでした。ララさんも随分イールさんに追いついてきたんじゃないですか?」


 魔法大全をぱたりと閉じてロミが二人を迎える。


「窓から少し見てましたけど、かなり身のこなしが武器を扱い慣れたものになってきてる気がしますよ。今まではハルバードに振られてるって感じでしたけど、今は軸がぶれていないというか、重心もしっかりしてますし」

「ほんと!? えへへ、ロミにそう言われるとうれしいな」

「あたしもその辺は言った気がするんだが……」


 表情を崩して喜ぶララに、イールがじっとりとした視線を送る。

 鬼教官と化した彼女もただ執拗に痛めつけることはせず、ララの動きを見て適切な助言を逐一施していた。

 ララの上達が早いのは、彼女の功績でもあるのだ。


「厳しいけど身に付いてる実感はあるから、感謝してるわよ?」

「ならいいけどな。……とりあえず風呂に行くか」


 イールはじっとりと汗の滲んだ服の裾をパタパタとはためかせて言う。

 その拍子に、手触りの良さそうな、真っ白で引き締まった下腹が覗き、ララが思わず目を細める。


「むぅ、私もイールくらい体を鍛えたら様になるかしら」

「ララさんは今のままでも十分可愛いと思いますけど」

「こんなちんちくりんじゃなくて、もっと大人なレディのナイスバディになりたいのよう」

「何言ってるのか良く分からんが、とりあえずララは大人っていうよりも幼児体型だな」

「ふええ……」


 ばっさりと切り捨てるイールに、ララががっくりと肩を落とす。

 同年代と比べると随分と発育の遅れている彼女は、年齢以上に若く思われる。

 ぷっくりと柔らかい頬の丸顔や、大きな青い瞳などは彼女を全体的に童顔に見せ、小柄な体格もそれに拍車を掛ける。


「教壇に立ってたときも学生によく言われたわ……」


 こんな子供に教わることなどないと憤慨した学生と一騎打ちをしてぶちのめしたこともあったなぁ、とララは遠い目で過去を思い返す。

 彼女も色々と手法を試して魅力的なプロポーションを獲得しようと躍起になっていたのだが、後はもう全身義体化するしかないという段階で流石に諦めた。


「ララさんは今のままでいいと思います!」


 若干興奮した様子でロミが言う。


「うん、ありがとう。でもやっぱりあと二センチはほしいのよね……」


 ぴこんと頭頂部に立ち上がった一房の髪の毛を摘み、ララは嘆く。

 あと二センチ程度あれば、夢の百五十センチに到達するのだが、それは蝶よりも儚い彼女の夢である。


「ロミも一緒にお風呂入る?」


 荷物の中からお風呂セットを取り出しながら、ララが尋ねる。


「はい。せっかくなのでご一緒させてください」

「風呂は何人かで入るのが一番楽しいからな」

「そうね。昨日はイールと二人だけだったし、なんなら死にかけてたし……」


 死にかけてるのは今も一緒か、とララは鉛のように重い体で思い出す。

 鍛錬中は意図的にナノマシンのいくつかの機能を停止、または弱体化させているため、その分体力の消耗も激しいのである。

 だからといってそれをしなければ本当の自分の力とすることは難しいため、世の中上手くは行かないものだった。


「ま、風呂に入れば疲れも落ちるだろ」

「そうねぇ。お風呂入って、ご飯食べて、そんでもってしっかり寝たいわ」

「明日の夕方くらいにはピアさんの調査も終わるようですしね」


 着替えとタオルを抱えて、三人は準備を終える。

 のんべんだらりと取り留めのない四方山話に花を咲かせながら、彼女たちは部屋を出て行った。




 一夜明け、太陽が昇り、町は新しい朝を迎える。

 温かい風呂で体を解し、たっぷり食べてたっぷり寝たララは、体力も十分に回復させて爽快な目覚めだ。


「一晩寝れば体力が回復するのは便利だよね」


 肩や首まわりを動かして筋肉を解しながら言う。

 ナノマシンによって強化された身体能力の中には、自己治癒も含まれている。

 そのため彼女は一晩十分に睡眠を取れば、それほど疲れを持ち越すということもなかった。


「おはよう。今日も早いな」

「あ、おはよー」


 ララが窓際で外を眺めていると、寝ぼけ眼をこすりながらイールが起きあがる。

 もはや見慣れた彼女の一糸纏わぬ姿に、ララはもう取り乱すこともなく落ち着いて応える。


「まあとりあえず早めに服は着てね」

「はいはい。……めんどくさいな」

「服を着るのを面倒くさがるのは流石に人としてどうかと思うわよ」


 唇をとがらせるイールに、ララはげんなりとして言う。

 普段は割合しっかりとしていて常識人の範疇に収まる彼女だが、なぜかこういうところがあって玉に傷だ。


「それに、服着てくれないと髪が整えられないじゃない」

「……別にあたしはさらっと梳いてればそれでいいんだが」


 イールの長い赤髪を整えるのは、もうララの日課となっていた。

 日によって三つ編みにしたりポニーテールのようにしたりと、毛量が豊富な事をいいことに彼女は色々なヘアアレンジを試していた。

 イール自身もそれを嫌がる様子は無く、なんだかんだと言いつつ今もそそくさと服を手に取っている。


「というか、ララだってまだ服着てないじゃないか」


 イールはちらりとララを見て指摘する。


「失礼ねぇ、これだってちゃんとした服装よ」


 ララが着ているのは、銀色のぴっちりとしたラバースーツのような服である。

 彼女の意識的にはこれだけで十分外も歩ける服装なのだが、どうやらこの世界の常識からは少々離れているらしかった。


「それがちゃんとした服だっていうなら、ララの住んでたところは随分とアレなところだったんだな」

「アレってなに!? うぅ、このスーツさえあれば大体どんな環境でも暮らせるのに」

「普通は服にそんな売り文句はないよ……」


 半袖のシャツから頭を出しながらイールは呆れたようにため息をつく。

 どうにもこの少女は変な常識を持っているようだった。


「ほら、着替えたぞ」

「ん、りょーかい」


 長い革のズボンを履いて、イールが立ち上がる。

 引き締まった四肢にシンプルな服装はよく似合う。

 腰まで届くような長い髪を手櫛で整えて、彼女はララに櫛を渡した。


「よろしく頼むよ」

「今日もおまかせ?」

「ああ。纏まってればなんでもいいさ」


 ベッドの端に座り、イールが首を擡げる。

 今日はどんな髪型にしようかと胸を踊らせながら、ララはそっと櫛を差し込んだ。

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