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第百三十九話「それじゃ、宿に戻ろっか」

 数時間ぶりにギルドの応接室へと再び足を踏み入れたララ。

 何度も訪問して申し訳ないとピアに言うが、彼女はお構いなくといつもの涼しげな表情で答えた。


「それで、今回の要件はなんでしょうか? 調査隊なら先ほど出発したばかりですが……」

「流石の素早い対応ね。とっても頼もしいわ。でも今回はそうじゃなくて、少し聞きたいことがあるの」


 迅速なギルドの出動に舌を巻きつつ、ララは単刀直入に切り出す。


「簡単に言えば、この町に住む魔法使いの情報を集めたいの」

「魔法使いですか……。条件によってはかなり分厚いリストになりそうですが」


 ララの要請に、ピアは一瞬眉を寄せる。

 魔法が使える者を全て魔法使いというならば、町のほぼ全ての住民はそれに該当する。

 右腕に絶えず魔力の殆どを喰われているイールでさえ、灯火の魔法程度ならば使えるのだ。


「条件は……えっと、ロミお願いできる?」


 魔法については門外漢なララは言葉に詰まり、助けを請うようにしてロミを見る。

 この中で最も魔法について精通しているのは、やはり彼女だろう。

 そうしてララの期待通り、ロミはすらすらと流れる水のように条件を並べていく。


「第一条件としては、上級魔法が扱える人をお願いします」

「上級魔法ですか。それだけで四分の一くらいにはなるでしょうか」


 ピアは頷くと、手元のメモ帳に控えていく。

 ララはなるほど分からんと割り切った様子で、二人のやりとりを見ていた。

 上級魔法という用語の時点で彼女は躓いていたが、後々ロミに聞けば良いだろう。


「第二条件は、幻惑系もしくは水系の魔法が扱える人を。第三としてこの町に十年以上住んでいる人をお願いします」

「ふむ……。条件はその三つですか?」

「はい。この三つで、わたしたちが探している人物は見つかるかと思います」


 ロミの言葉を聞いて、ピアは頷く。

 メモ帳を畳み、胸ポケットにしまう。


「調査の内容が内容ですので、ギルドの特殊業務の範疇になります」

「つまりは依頼料だな」

「話が早くて助かります」


 イールが財布の口を開けて、数枚の銀貨をテーブルに置く。

 確かめるようにそれを打ち鳴らし、ピアは頷く。


「適正な報酬には適正な成果を以て還元いたします。調査結果は明日以降、調査団の報告と共にお伝えします」

「ええ。よろしくお願いね」


 そうして、ピアとの話は終わる。

 彼女にドアまで案内され、ララ達はギルドを出る。


「しかしまあ、改めて考えると個人情報を結構簡単に纏めてくれるのね」


 通りを歩きながら、ララがそんな言葉を漏らした。


「ま、それがギルドってもんだ。ちゃんと金は払ったし、ギルドは『あたし達がどのような情報を集めていたか』っていう情報も得てるんだ」

「そっか、それも情報になるのね」


 ギルドは味方も多そうだが、その分敵も多そうだとララは感心したような驚いたような微妙な表情になる。


「それにまあ、ギルドだって誰にでも安易に情報を渡すような馬鹿なことはしないさ」

「そうなの? じゃあなんで私たちは情報を貰えるの?」

「これまでの実績とか素性とか、後はその前に大行進のことをたれ込んだのが大きいんじゃないか?」


 イールの分析は、実際に的を射たものだった。

 誰彼構わず大切な情報を売り出していれば、それはギルドの信用にも関わる。

 そのため、そのような商談にはギルドの中でも上位の職員が当たり、売り渡す相手に値する人物かを査定する。

 つまるところピアはかなり上層部に位置する職員なのだが、彼女たちはそれを知らない。


「ギルドっていうのも中々大変なのね」

「まああれだけ大きい組織だからな」

「それはともかく、この後はどうするの?」


 今まで口を噤み気配を消していたシアが顔を出す。

 今日予定していた主要な要件は全てこなした。

 四人は顔を見合わせる。


「ちなみに私は特に何も無いわ。帰ってミルを弄っても良いけど」

「あたしも特に何も」

「私も今のところはすること無いわね」

「わたしも……。となれば、いったん帰りますか?」


 全員、これと言った予定があるわけでも無いことが分かり、ロミの意見が採用される。

 まだ昼過ぎで、一日はまだまだ残っているが、久々にゆっくりと身体を休めることができる。


「せっかくのアルトレットだし、観光でもいいんだけどね」

「蒼灯の灯台も行ったし、市場も行ったし、港にも行ったんでしょ? もう行くとこないわよ」

「じ、地元民なのに辛辣ね……」

「地元民だからこそ辛辣なのよ」


 悲しいかな、辺境の片隅にあるこの町ではあまり見るものもない。

 主要な所さえ回ってしまえば、あとは海で泳ぐか釣りに興じる程度だと、シアはバッサリと言い切る。


「それじゃ、宿に戻ろっか」

「ああ、そうするか」


 そうして、ララ達は足を塩の鱗亭に向けて歩き出す。


「さて、私のやつも成果を出してくれるといいんだけど」


 一歩後に下がり、ふっと高い蒼穹を眺めてララが呟く。

 その小さな言葉は雑踏に紛れ、イール達に届くことは無かった。

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