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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第三章【水辺の乙女と青い灯台】

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第百三十八話「流石の怪力ね……」

 工作を終えたララが光学迷彩による偽装領域を解き、のんびりとベンチに座って目の前を通り過ぎる往来を眺めていた。

 アルトレットは地理的にもヤルダと近いということもあり、一番よく目にするのもごく普通の人間種である。

 ララ達同様にハギルからやって来たとおぼしきドワーフもいるが、彼らは全体的にそれほど活発に旅をする種族でもないので、その数は極少ない。

 人間の次に多く見るのは、近郊に集落があるという妖精だった。

 人間と比べるとかなり体格の小さい彼らは、背中に生えた半透明の翅と魔法を用いて、大通りの上空を機敏に飛行していた。

 その他には、今までララが訪れた全ての町で多く見た獣人などはこの町でも同様によく見掛けることがあった。


「うーん、これだけ沢山の種族が平和的に共存できてるっていうのも、奇跡よね」


 ぷらぷらと足を揺らしながら、何気なくララは呟いた。

 人種どころか、種族の壁を越えて、概ねこの世界の住人達は互いに仲良くやっているらしい。

 彼女が目を覚ましてから今まで、多少の諍いを目の当たりにすることはあったものの、戦争や虐殺といった血なまぐさい噂は依然として聞かない。


「種族どころか、色の違いで何万人が死ぬ世界もあるのにねぇ」


 どれほど離れているのかも分からない、懐かしの故郷を思い出してララは感慨に耽る。

 どれほど科学技術が発展しようと、結局人の本質は変わらないのではないかと考えていた彼女だったが、この世界ではそれがあまり当てはまらない。


「共通の言語と、共通の敵がやっぱり大事なのかしら」


 今までの事を思い返し、ララは予想を口に出す。

 この世界では基本的に、共通語と呼ばれる言語が広く使われている。

 ララが最初にナノマシンを用いて習得したのもこの言語である。

 共通語とは別に人間語やドワーフ語など各種族の言語、更には同じ種族でも地域によって違う言語も話されているようだが、共通語はおおよそ全ての種族が使っている。

 今のところ、ララは共通語以外を習得する必要性を感じていないほどだ。

 他種族間の言葉の壁を破壊し、意思疎通を容易にする共通語の存在は、この世界ではかなり大きいだろう。

 もう一つ、彼女が考えるこの世界が概ね平穏な理由。

 それは、共通の敵である魔獣の存在だった。

 魔法の力を持ち、強大な脅威を持つ魔獣の存在は、多種族が結託する理由になる。

 魔獣の対応に追われ、言葉が通じる相手と争う余裕がないとも言えるだろう。


「何にせよ、色々と面白い世界だわ」


 微笑みを浮かべて言葉を交わしながら通りを歩く、人間と妖精の男女を傍観しながら、ララはうんうんと頷いた。


「おまたせ。なんでそんな達観した老人みたいな顔なんだ?」


 丁度その時、紙袋を抱えたイール達が戻ってくる。

 イールはベンチに腰を落ち着けて目を細めるララを見てたじろぐ。


「いや、世界は平和だなーって」

「今まさにこの町に洗脳の魔法掛けてるヤツがいるかもしれないって話してなかったか?」


 唐突にほのぼのとした事を言い始めた連れ合いに、イールは混乱しているようだった。


「それより、イール達は何買ってきたの?」

「あたしはサンドウィッチだな」


 ララの問いに、イールは持っていた紙袋の口を開けて見せる。

 中には大きく切られた長方形のサンドウィッチが六つほど並んでいる。

 どれもハムやレタス、トマトなどの具材がこれでもかと詰め込まれた、かなりがっつりとボリュームのあるサンドウィッチである。


「じゅるり」

「ララはさっき山ほど食べただろ!」


 唾を飲み込むララに、イールが鋭い視線を送る。

 この華奢な身体のどこにそれほどの容量があるのだろうかと、彼女は一抹の恐怖すら抱く。


「うう、やっぱり腹八分目に押さえておかないといけないよね」

「はちぶ……え?」

「それで、ロミとシアは何買ってきたの?」


 発言に首をかしげるイールを置いて、ララは彼女の後に居た二人に視線を向ける。

 二人は同じ店で昼食を購入したらしく、その手には同じマークが描かれた紙袋がある。


「わたしたちも、イールさんと同じお店でサンドウィッチですよ」

「近くにサンドウィッチの専門店があるのよ」

「ええ!? 何それ聞いてない!」


 よく見れば、イールの紙袋の裏側にも同じマークがある。

 驚愕の事実にララは大きく目を見開いた。


「うぅ、私もそこで買えば良かった……」

「一人で突っ走っていったのはララだろ」


 涙目で後悔するララに、イールが冷たい言葉を浴びせる。

 確かに、周囲が制止する間もなくその両手に大量の食べ物を抱えていたのは彼女である。


「まあ下手に三人それぞれが別の店で買っても時間掛かるだけだからな、サクッと同じ店でってことになったんだ」

「サンドウィッチなら、手早く食べられるしね」


 そういうわけでイール達もベンチに腰を下ろし、紙袋から分厚いボリュームたっぷりのサンドウィッチを取り出す。

 美味しそうに頬張る彼女たちを、ただ一人ララは物欲しそうな目で見ていることしかできなかった。




「――ごちそうさま!」


 ぱちんと手を叩いて、シアが元気よく言う。

 当たり前だが、同じ店で買ったとはいえその量は人によって違うらしく、シアは一番早くに食べ終えた。


「いいなぁ、サンドウィッチ……」

「ほんとララちゃんって食欲大魔神ねぇ」


 物欲しそうな視線を送るララに、シアは呆れたように言う。

 食事中もずっと彼女の視線が気になり、落ち着かなかった。


「これに懲りたら、今度からはちゃんとみんな仲良く行動することね」

「うう……。肝に銘じます」


 ピンと細い人差し指を立てて言うシアに、ララはがっくりと項垂れるようにして頷いた。


「ん、ごちそうさま」


 シアの次に食べ終えたのは、一番量が多かったはずのイールである。

 彼女は手に付いたマヨネーズをぺろりと舐め取り、懐から取り出したハンカチで拭う。

 そんな姿でさえ様になるのだから、体格の良い彼女は色々と卑怯である。


「そういえばイールって左利きね」


 そんなイールをぼんやりと見て、ララが気付く。

 彼女は先ほどのサンドウィッチをつまむときも、普段の食事でフォークを持つ時も左である。


「そりゃ、こっちの腕じゃあ使いにくいからな」


 イールは右手を浮かべて答える。

 確かに、彼女の邪鬼の醜腕は怪力を有するが故に細かい作業は苦手そうである。


「そう言われればそうね」

「ああ。元々右利きだったからな、最初は苦労したさ」


 幼い頃を思い出したのか、イールは苦笑して言う。

 当時はまだ力を制御することにも慣れておらず、何本フォークを折ったことかと彼女は漏らした。


「その気になれば結構な太さの木の幹でも片手で折れる」

「流石の怪力ね……」


 何とはなしに軽く言い放つイールに、ララは眉を上げた。


「ご、ごちそうさまでしたっ! お待たせしてすみません……」


 最後までサンドウィッチを食べていたロミが、手を合わせる。

 一番量が少なかった彼女は、一口も小さい為ゆっくりとしたペースだった。


「いや、急ぐようなものでもないから別にいいのよ」

「そうそう。元はと言えば勝手に先走ったララが悪いんだからな」

「ええっ!? 私が悪いの?」


 三人の言葉に、ロミは安心したように肩を下ろす。

 そんな彼女の心情とは裏腹に、ララ達としてはハムスターのように両手でサンドウィッチを食べる彼女の姿は眼福物であった。


「それじゃ、みんなのお昼ご飯も終わったことだし行きましょうか」

「とりあえずギルドで情報集めだな。まだピアからの調査報告は上がってないだろうが」


 全員が昼食を終えたことを確認して、ララが立ち上がる。

 とりあえずは町に存在する魔法使いについての情報を集めなければならない。


「ま、そのうち分かる気もするけどねぇ」

「うん? なんか言ったか?」


 ぼそりと小さく呟いたララ。

 イールが聞き直すが、彼女は首を振る。


「ううん。何でも無い」

「はあ。なら行くぞ」


 一瞬怪訝な顔をするイールだったが、興味はすぐに失われる。

 そうして、四人はまた往来の中へと飛び込んだ。

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