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第百三十七話「あっ、これいいわね!」

「うーんやっぱり美味しいわね!」


 もぐもぐと咀嚼し、ごくりと飲み下してからララは満足げに言葉を漏らす。


「……ほんとにそんなに食べるのか?」


 その隣ではイールが彼女の方を見て、呆れた視線を送っている。

 見ればロミとシアもララの様子に戦慄を覚えているようだった。


「だって、イールたちが食べてるのが凄く美味しそうだったんだもん」


 可愛らしく頬を膨らませて弁明するララ。


「だもんって……。けど流石にこの量はやばくないか?」


 そう言って、イールはララがベンチの傍らに山のように積んだ料理の数々を見渡す。

 こんがりと芳ばしい香りを放つ、ローストチキンサンド。

 揚げたてのフィッシュアンドチップスに、焼きたてのソーセージ串。

 フィッシュフライポテトにホットドッグにフライドポテト。

 先ほどララが食べ終えたのは、彼女の顔ほどの大きさもある大きなカスタードローフである。


「これ、朝私たちが食べたごはん全部ですよね」

「それに加えてバターロールの代わりにどでかいローフだけどね」


 乾ききった声でロミが言い、シアが補足する。

 ララは今、今朝の露店を回ってイール達が購入していた食べ物を全て買い集めていた。


「朝は食欲ないって言ってなかったか?」


 彼女も朝食は小さなパンにラズベリージャムという可愛らしい、常識の範疇に収まる穏やかなものだった。

 イールがそれを思い出して確かめるように言うと、ララはきょとんと不思議そうに首をかしげる。


「ええ、朝は食欲ないよ。でも、もうお昼だし」

「食欲の幅がでかすぎる!?」


 何をおかしな事をと言いたげなララの青い瞳に、イールはがっくりと肩を落とす。

 そんな会話を交わしている間にも、食べ物は次々と吸い込まれていく。


「なんでララさんのあの小さな身体にあれだけの食べ物が入るんでしょう?」


 魔法よりも神秘的な物を見たように、ロミがしみじみと言葉をもらす。

 まるで水桶に穴を開けたが如くぐんぐんと嵩が減っていく。


「まあ見ていてかなり爽快ではあるわね」


 気持ちの良い喰いっぷりは見ている分にも楽しい。

 速度は異常ながらも行儀が悪いわけではないのもその一旦を担っているのだろう。


「まあ、さっきナノマシンも使ってエネルギー消費しちゃったしね。ある程度沢山食べて回復しないと」

「お前それ今思いついた理由だろ?」


 早口で言うララに、イールがジト目を送る。

 ララは目を泳がせながら食事に戻った。

 実際、あの程度の作業ならばエネルギーの消費もそれほど多くない。


「ていうか、三人は何か食べないの?」


 最後に残ったホットドッグを手に取りながら、ララが周囲で自分を見守る三人を見渡す。

 昼食を購入するのにも同伴してくれた彼女たちだが、自身は何も食べ物を買っていない。


「そうだな。あたしたちも何か食べるか」

「私もララちゃんの食べっぷり見てたらおなか空いてきちゃった」

「他にどんな露店がありますかね?」


 言われて気が付いたのか、彼女たちは異口同音に空腹を訴える。

 ララはホットドッグの最後の一欠片を飲み込んで、ぽんと胸を叩いた。


「私がここで席取りしといてあげるから、三人で何か買ってきたら?」

「いいのか? じゃあそうするか」

「ありがとうございます」

「じゃあ、行ってくるわ」


 ブンブンと手を振るララに見送られ、イール達はベンチを離れる。

 彼女たちが人混みに紛れ見えなくなるまで、ララは見送った。


「――よし。それじゃあやりましょうか」


 彼女たちが完全に見えなくなったのを確認して、ララは表情を引き締める。

 昼は朝よりも通りも混雑し、食事の入手は困難を極める。

 早々にイール達がこのベンチに戻ってくることはないだろう。

 そして、そんな彼女たちがいない間にララはすることがあった。


「いやー、この町でブルーブラスト粒子を手に入れられるなんて、僥倖ね」


 頬を緩め、ララは懐から白銀の円筒を取り出す。

 左右を握り、引っ張ると、中から青く光る球体が現れる。


「おっと、その前に。『領域展開(サークルオープン)』」


 ララの発したコマンドに呼応し、ナノマシンが起動する。

 彼女を中心にして半径二メートルほどの半球状の膜が覆う。

 それは、内側から見れば薄く白がかったただの半透明の膜だが、外からは違う光景になる。

 外部から彼女の座るベンチを見れば、美味しそうにローフを頬張り続けるララの姿が映っていることだろう。

 光学迷彩技術を応用した、隠蔽技術である。


「ブルーブラスト粒子があれば、色々作れるから大助かりだわ」


 そう言いながら、ララは青い球体の中に詰まった粒子を見る。

 これさえあれば今まで大幅に制限されてきたララの能力もかなり改善されるだろう。

 ララは腰のベルトに提げていた待機状態のハルバードと、万能工具を持つ。

 万能工具をスポイトのような形に変形させて、円筒の中から粒子を微量吸い出す。


「色々改造しておこうっと」


 まるで工作をするかのように爛々と目を輝かせてララは作業を進める。

 ハルバードを展開し、柄の部分を構成する特殊金属の形を変更。

 内部構造が複雑化し、機構と呼べるものになる。

 そこへブルーブラスト粒子を注入すれば、簡易的なブルーブラストエンジンを内蔵したことになる。


「これで、とりあえずハルバードはナノマシンのエネルギーを使わなくても良くなったわね」


 石突きの部分に付いたボタンを押せば、それだけでハルバードは待機状態に戻る。

 今まではわざわざエネルギーを消費して特殊金属の形を変えていたが、エンジンを内蔵したことでそのエネルギーを使用することができるようになった。


「特殊金属も粒子もまだまだあるし、何か作ろうかな」


 救命ポッドを解体したり、アルノーから譲って貰ったりとで、なんだかんだ特殊金属の在庫は割合豊富である。

 インゴットを取りだし、ララは手のひらの上でそれをぐにぐにと粘土細工のように変形させていく。


「うーん……。あっ、これいいわね!」


 データベースから有用そうな設計図を検索していたララは、一つ面白そうなものを見つける。

 これならば、彼女が持つ弱点も克服できて、なおかつ利便性も良く応用も利くだろう。

 ララは湧き上がる興奮を抑えながら、早速それの構築を始めた。

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