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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第三章【水辺の乙女と青い灯台】

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第百三十一話「ギルド様々ねぇ」

「そのような現象は、聞いたことがありませんね」


 四人をギルドの奥にある個室へ案内し、そこでウォーキングフィッシュの大行進について尋ねられたピアは、表情すら変えずにそう即答した。

 半ば予想していただけに、ララたちはそれほど驚くこともなかった。

 シアも苦笑するだけで、反論する様子はない。


「それじゃあ、今年はウォーキングフィッシュが数年ぶりの豊漁だっていうのは知っていますか?」


 ロミがララの質問に重ねるようにして、ピアに尋ねる。

 それならば、とピアは頷く。


「ギルドにも、その報告は寄せられています。原因は不明ですが、今年は良くウォーキングフィッシュが穫れるという話で、現在ギルドも調査員を派遣しようか審議しているところです」


 その回答に、ララは眉を寄せる。

 ピアの言葉は、乾物屋のペケと一致する。

 ウォーキングフィッシュが豊漁である、という現象は事実としてギルドも捉えているのだろう。

 少なくとも、ミルのようなそのような噂を把握していないわけではない。

 とはいえ、ギルドはその立ち位置のために魔物の動向を把握していない訳がないのではあるが。


「すぐに調査員を派遣しないのはなんで?」

「上層部がそれを異常だとは判断していない為ですね。調査する必要性を感じられないため、調査員を派遣しない。単純といえば単純な論理です」

「その言い方だと、ピアは調査したいみたいね」


 ピアは不思議そうに首を傾げ、そしてすぐに頷く。


「私としてはどのような小さな変化でも異常と見なして原因を解明しておきたいですね」


 魔獣研究の一線で活躍する仕事人らしい考えである。


「ともあれ、ララさんたちがその大行進についてギルドへ意見を求められるということは、実際にそれを見たということでいいのでしょうか?」

「ええ。実際に見たし、呑まれたし、ぶっちゃけ死にそうだったわ」


 巨大な魚の波に呑まれて圧死しそうになった時の記憶を思い返し、ララは顔を青ざめさせる。

 あの時、偶然シアが通りがかっていなかったら、ララたちは三人仲良くミンチとなって今頃は魔獣の腹の中か土の中である。


「丁度アルトレットの方面からウォーキングフィッシュがそれこそ壁みたいに迫ってきて、あたしたちはそれに真っ正面から出会っちまったんだ。なんとかそこのシアが間一髪で助けてくれたから無事だったけどな」

「アルトレット方面からですか……」

「わたしを通じて神殿が調査した結果、その痕跡も確認できました。ただ、それは一定の地点で自然と群れが瓦解して、それぞれが広範囲に散っていったことも調査で分かっています」

「神殿からもそのような調査結果が……。なるほど、話を聞く分にはギルドも調査に乗り出すべき異常行動のようですね」


 イール、ロミからの証言も聞いたピアは、視線を鋭くして考え込む。

 彼女はおもむろに立ち上がると、部屋に備え付けられた棚からアルトレットの周囲を描いた地図を取り出した。


「ぜひ、ララさんたちがウォーキングフィッシュの大行進に遭遇した場所を教えていただけませんか?」


 地図をテーブルの上に広げながら、ピアが言う。

 ララたちは記憶を頼りに、一点を指し示す。


「大体このあたりだったと思うわ」

「それで、群れが崩壊したのはこのあたりです」


 ロミがさらに、神殿の調査によって判明したことを付け加える。

 ララたちが遭遇した地点にピアは白い石を一つ置き、さらに群が崩壊した地点には黒い石を置く。


「ふむ。まだこれだけでは情報が足りませんね。ギルドからも調査員を派遣して、より詳細に現地を検証しましょう。実際にギルドの傭兵から寄せられた証言を無碍にはできないですからね」


 ピアはそういうと、優しい目でララたちを見回す。


「ありがとう。ギルドが調査してくれるとすごく助かるわ」

「教会も調査はしていると思うのですが、そのことについてアルトレットの神殿は何と?」

「神殿からは特に何も。その件も併せて調べておきましょう」


 胸を張るピアのその言葉に、ララたちもほっと肩の力を抜く。

 ギルドが調査すると言うのならば、それはもうかなりの信頼性を持つ大規模かつ詳細な調査となる。

 ひとまずこれでウォーキングフィッシュの正確な動向はつかめるはずだった。


「ギルドが調査してくれるんだったら安心だ。こちらからも、よろしくたのむよ」


 イールがそう言うと、ピアは先ほどまでの真剣で堅い雰囲気を弛緩させる。


「ギルドにそのような篤い信頼を寄せていただき、光栄です」


 そうして、ピアは今後の調査の予定について伝える。


「すんなりと行けば、という仮定にはなりますが。今日この後すぐにでも先遣隊を出します。まずはララさんたちの証言の事実確認を取り、事実だと断定することができたなら改めて本格的な調査に乗り出しますので」

「結果はいつ頃分かるかしら?」

「そうですね……。早ければ明日の夕方には分かると思います」


 ピアの予想は、ララたちが思っていたよりもかなりのハイペースだった。

 アルトレットの傭兵ギルドに所属する調査員というのは、随分優秀なのだろう。


「それじゃ、明日の夕方か明後日の朝にでもまたここへ来ればいいのね?」

「そういうことになります」


 今日この場で話すことは、これくらいだろう。

 調査が終わった頃にまたギルドを訪れることを約束し、ララたちは立ち上がる。


「ありがとう。助かるわ」


 部屋のドアノブに手をかけながら、ララが言う。

 ピアは目を細め、微かに首を振った。


「ギルドの役目の一つですから。お任せください」


 そうして、彼女たちはピアと別れる。

 ピアはこの後、ギルドの上層部に掛け合い調査団を編成するのだろう。

 随分と仕事を増やしてしまったとララは少し罪悪感を覚える。


「ギルドの職員ってかっこいいわねぇ」


 小部屋の中では口数の少なかったシアが、廊下を歩きながらそんなことを言った。

 確かに、黒い制服に身を包んだピアは、まるで騎士かと思うほどの厳かな雰囲気を纏っている。


「確かに、ギルド職員って並の人間じゃ勤まらないだろうしな」


 ギルドとの関係も長いイールが感慨深く頷く。

 日々膨大な量の業務に忙殺される彼らは、イールたち傭兵からもその半ば人間をやめているような仕事ぶりに一目置かれている。


「他の行商人ギルドや鍛冶師ギルドなんかとは、また扱いが別になっている気がしますね」


 ロミもその意見には賛同のようだ。

 そもそもギルドというのは同業者同士が相互扶助を目的として結成する組織である。

 そのため、傭兵に限らず様々な業種でギルドというものは存在しているのだが、規模や影響力、財力、利害関係者数など、あらゆる観点から傭兵ギルドに匹敵するギルドというものは存在していなかった。


「魔獣っていうのが一番身近な脅威だし、それを排除する傭兵ギルドが力を付けるのは別に不思議でもないわね」

「ま、ギルドが大きくなったおかげであたしたち傭兵は自由に仕事しながらお金儲けができるって訳だ」

「ギルド様々ねぇ」


 廊下を抜けて、ロビーに戻る。

 太陽も登り、天井の高い大部屋には、更に密度を増して厳つい傭兵たちがたむろしていた。


「さて、次は蒼灯の灯台だったか」

「そうね。シア、案内してもらってもいいかしら?」

「任せて頂戴。今頃なら灯台守も起きてるでしょ」


 ひとまず、ギルドでの用事は終わった。

 次はララの大本命である、蒼灯の灯台の訪問である。

 そこに、ララは今回彼女たちを取り巻く一連の魔獣活性化現象の重要なキーがあると考えていた。


「それじゃ、早速行きましょっか」


 ララはそう言うと、ギルドのドアを抜けた。

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