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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第三章【水辺の乙女と青い灯台】

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第百十話「さあ、釣り上げるぞ!」

 雷は白い光となって蜥蜴の全身を貫く。

 形振り構わない最大出力の雷撃は、柔らかな体内だけでなく体表を覆う鱗にまでまとわりつき、焦がし尽くす。

 予想だにしない反撃に、マリンリザードが絶叫する。

 未知なる衝撃に、その体は自由を失い、重力に従って落下する。


「『光の刃よ敵を切り裂け』!」


 船の床に叩きつけられ目を回すそれを、ロミがすかさず短い詠唱の呪文で襲う。

 虚空から生まれた光輝く菱形の針は一直線にマリンリザードの白い胸元を貫き、絶命させた。


「は、はは……。びっくりしたぁ……」

「大丈夫か!? 怪我はしてないか?」


 剣を納めたイールがララに駆け寄り、飲み込まれ掛けた腕を見る。


「大丈夫。噛まれる前に雷撃で麻痺させたし。びっくりしてつい最大出力にしちゃったから、もしかしたらあの段階で死んでたかもしれない」

「そうか……。無事なら良かった」


 傷一つ無い綺麗な腕に、イールもほっと胸をなで下ろす。


「すみません、ララさん。わたしがもう少し迅速に行動していれば……」


 しょんぼりと肩を落とし、ロミが謝る。

 彼女の方を振り返り、ララは不思議そうに首を傾げた。


「え、なんでロミが落ち込んでるの。あれはしょうがないよ。私だって混乱してたし」

「あたしなんて剣を抜いたものの、まともに動けなかったしな。そんな中で詠唱して止めをさせるのは流石だよ」


 イールも口を揃え、ロミを慰める。

 ロミは幾分表情を軽くして小さく頷いた。


「しかしまあ随分と血の気の多い魔獣だな。水中から飛び上がって襲ってくるなんて」


 湿っぽい話は終わりと、イールは船に転がるマリンリザードを見た。

 今頃宿屋でシアに看病されている二日酔いのミルと同じくらいの背丈の蜥蜴である。

 深緑色の鱗は細かく滑らかで、長い顎と尻尾の流線型をしている。

 今はくすんでいる瞳は金色に輝いていて、獰猛な気性を覗かせていた。


「これでこの辺りにマリンリザードが住んでることは分かったわね」

「そうだな。じゃあここらで釣り糸垂らすとするか」


 ララはマリンリザードの尻尾を掴み、邪魔にならない船の端の方にまで引っ張る。

 少々扱いが雑なのは、ご愛敬と言ったところだろう。


「しかしロミ、さっきの魔法はすっごく詠唱も短かったよね」


 マリンリザードの胸元を貫いた光の刃の魔法を思いだし、感心したようにララが言う。


「咄嗟のことだったので、詠唱を省略したんです」

「詠唱の省略なんてできるんだ!?」


 何気なく答えたロミの言葉に、ララは驚く。

 あまり魔法のことに明るくはないが、これはおそらく高等技術だろう。

 そんな彼女の様子に、ロミは照れたように顔を伏せた。


「えへへ。消費魔力が大きいですし、わたし自身あまり省略するのは好きじゃないので滅多にやらないんですけどね」

「やらないのとできないのとは全然違うよ。やっぱりロミってすごい魔法使いなんだね」


 ララは青い瞳を輝かせ、尊敬の眼差しを送る。

 ロミは顔を赤くして身をよじった。


「よし、準備できたぞ」


 そこへイールが件の巨大な釣り竿を担いで割り込む。

 細い鉄の糸を編んだ特別製の釣り糸の先の鉤爪のような禍々しい針には何かの肉が付けられている。


「その餌は何の肉なの?」

「知らん。多分魚肉だろうがな。船の道具箱の中にあった」

「ええ……」


 単純明快な返答に、ララとロミは絶句する。

 何の物とも知れない餌を使うのは少し気が引ける。

 帰港したらエドワードに聞こうと彼女たちは心に決めた。


「まあ何の肉でも蜥蜴野郎が食いつけばいいのさ。ほれ、いくぞ」


 イールはその辺り深く考えていないようで、針の先を掴んでぽんと海へ投げる。

 綺麗な放物線を描いてそれは海面に打ち付けられ、細かな泡と共に沈む。


「さて、ちょっと待ちに入るかな」


 グローブを填めた手で竿を握り、のんびりとイールが言う。

 その間に、ララとロミも装備を整え準備を進める。


「水中からあれだけ高く飛べるってことはかなり身体能力は高いのよね。あれと水中でタイマン張れる人って何者よ……」

「多分水に近い種族なんだろ。それこそ人魚とかな」

「人魚ですか……」


 何気ないララの疑問に、イールは軽く答える。

 それに反応したのは船首に腰を降ろしたロミだった。

 つい最近、彼女はその種族について耳にしていた。

 教会の上層部にあるレイラですら知らない幻の種族。

 水の中を華麗に踊るように泳ぐ美しい種族。


「へぇ、人魚っているんだ?」

「ああ。あたしも一回しか見たこと無いが」

「……へ? へええ!?」


 ポロリと転がりだしたイールの言葉に、ロミが思わず絶叫する。

 予想外のところから響く大音量の声に、イールは竿を取り落としそうになる。


「な、なんだよいきなり!?」

「いいい、イールさん人魚見たんですか? 知ってるんですか? 人魚なんですか!?」

「いや、人魚ではないけども」

「見たんですよね!? ど、どこでいつ何回どんな姿なんですか!?」


 ロミは興奮した様子でイールへとにじり寄る。

 普段とは違う彼女に、イールはたじろぎながらも記憶を手繰り寄せた。


「会ったと言っても、すごく昔の話さ。まだあたしがただのがきんちょだった頃だな」


 穏やかな波に合わせて揺れる釣り糸の先を眺めながら、イールは静かに語り出す。

 ロミははっと正気を取り戻すと、また元の位置に戻って耳を傾けた。


「さっきも言ったと思うけど、あたしは何回か船に乗ったことがあるんだよ。ここよりもっと南の港町でね」


 そこは、現在のアルトレットのように観光業を興そうとしている町だった。

 暖かな気候に、白い砂浜、透き通った海と、条件は揃っていた。

 イールは幼いテトルと存命だった両親と共にその町を訪れ、近海を巡る船に乗った。


「まあ端的に言えばその船が転覆してあたしたちは沈んだんだよ。テトルも両親もその他大勢の乗客も、すぐに助けられたけどね」


 しかし、そのときイールだけは別だった。

 まだ呪われた右腕と上手く付き合うことの出来なかった頃だ。

 そのとき彼女は衆目を避けるため分厚い包帯でそれを覆っていた。


「その包帯がすごく水を吸って重りになっちゃってね。体も小さかったし、ろくに泳げないまま沈んでいったんだよ」


 暗い海底の底へ沈む。

 遠くなる海面を見上げながら、彼女の意識はだんだんと冷たい水に溶けていった。

 朧気な視界の中、彼女は空を飛ぶように泳ぐ艶めかしい人影を見た。


「腰から下は魚のそれだった。その人はあたしに気が付くとすごい速度でやってきた」


 長く滑らかな髪をたなびかせ、その女はやってきた。

 彼女はそっとイールの体を抱き寄せる。

 イールの記憶は、その半人半魚の女の浮かべた嫣然とした笑みを最後に途切れていた。


「その後どうなったの?」

「少し離れた砂浜に打ち上げられてた。包帯や服はいろいろ脱げてたけど、海草やらなんやらに絡まって人の尊厳と腕の隠蔽は保たれてたらしい」

「すごい……。そんな経験をされてたなんて……」


 イールの話を聞き終え、ロミは感動したように喉を振るわせる。

 そんなに感激するような話じゃないよ、とイールは薄く笑った。


「けど、あれはきっと現実さ。テトルに言ったら『お姉ちゃん海水飲み過ぎて頭がおかしくなっちゃったの?』って心配されたけどな」

「そりゃあそうよねぇ。人魚って実際珍しい種族みたいだし」

「珍しいもなにも、禄な目撃例がないですからね。イールさんのお話はすごく貴重です」


 心の底から賞賛するロミに、イールは目を細める。

 これくらいの話で喜んでくれるのならば、話し甲斐があるというものだった。


「――っと、丁度よく何かかかったな」


 ピンと張った糸。

 確かな抵抗を感じ取り、イールが腰を低く落とす。


「おし、今度こそ華麗に捕まえてやるわ」


 先ほどは散々だったララも気合い十分といった様子で構える。

 ロミもまた先ほどまでの高揚した様子を一変させ、真剣な表情である。


「さあ、釣り上げるぞ!」


 イールが水面を睨み、獰猛な笑みを浮かべた。

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