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第百一話「開放的で新鮮だわ」

 無事に買い物を終えたララたちは、日が傾く前に塩の鱗亭に帰ることができた。

 三人はそれぞれが市場で買い集めた食料品を抱え、ほくほくと満足顔である。


「おかえりなさい! わわ、いっぱい買ったんですね」


 ロビーのカウンターでぼうっと肘を突いて窓の外を見ていたミルが、ウサギの耳をぴょこりと動かして三人を出迎える。


「ただいま。お酒もおつまみもばっちり買い込んだわ」

「流石に買いすぎた感じもするがな」


 ドワーフの老人が営む酒屋で酒を買った後、彼女たちは市場を回って更につまみを買い足していた。

 背中のリュックにも両手にも限界ぎりぎりまで抱えた荷物に、イールは思わず苦笑する。


「ま、別に今夜だけで全部食べちゃわないといけないってわけじゃないからね。楽しむことが第一よ」


 そんなイールに軽い声を掛け、シアは頬を緩める。

 彼女は思い出したようにミルの方へと顔を向け話しかける。


「ねえミル。今夜貴女も一緒に飲まない?」

「ええ、お酒ですか? わ、わたしはそういうのは、ちょっと……」

「じゃあおつまみ食べてるだけでもいいからさ。お話しよーよー」

「ふええ……。わ、分かりましたよぅ。それじゃ、おじゃまさせていただきます……」


 ぐいぐいと肩を寄せて迫るシアに、ミルも最初は渋っていたが最終的には根負けして頷いた。

 シアはにぱっと笑みを浮かべると、彼女をぎゅっと抱きしめた。


「やっほーい! やっぱり持つべきものはノリのいい親友よねぇ」

「きゃああっ!? く、苦しい!」


 身長が遙かに高いシアに抱き上げられ、ミルはじたばたと足を動かす。

 そんな彼女をしっかりと固定して、シアはぐるぐるとその場で回り出した。


「仲良いわねぇ、あの二人」

「ララもやってほしいか?」


 呆れたように二人を見るララに、イールがおどけて言う。

 ララはちらりと彼女を見て小さくため息をついた。


「イールに振り回されるとすっぽ抜けてどっかに飛んでいきそう」

「失礼な奴だなぁ。いくらあたしでも流石にそんなことは多分しないぞ!」

「多分って付くから心配なのよ!」


 眉を寄せて反論するイールに、ララは唇をとがらせる。

 こちらの二人もまた、負けず劣らず仲のいい様子を存分に見せていた。


「こほん」


 そんな賑やかな空間の外側から、控えめな咳が飛び込んだ。


「ロミ! 帰ってきてたのね」


 ララが声を弾ませて言うと、ロミは長い金髪の先を指に絡ませて答えた。


「はい。ララさんたちよりも少し前に帰ってきて、部屋で荷物の整理をしてました」


 そうしていたらにわかにロビーの方が騒がしくなったので、様子を見に来たのだと彼女は言った。


「ああそうだ。酒やら肴やら、色々買ってきたぞ」


 イールがそう言って手に持った荷物を軽く持ち上げる。

 隣でララも得意げな顔で『龍殺し』の瓶を掲げる。


「わぁ、乾物ですか。いいですねぇ」


 袋の中身をのぞき込み、ロミは目を輝かせる。


「私もアルトレットの神殿の方におすすめのお酒とおつまみを教えて貰ってきましたよ」

「それは楽しみね! それにしても、神官もお酒飲んだりするのね」


 宗教といえば禁欲のイメージがあるララが首を傾げると、ロミはきょとんとした表情になる。


「キア・クルミナ教では特にお酒が制限されていたりはしませんね。むしろお酒好きな人は多いと思いますよ」

「レイラとかも飲むの?」

「レイラ様は果実酒を好んで飲まれますね。甘くてあまり強くないお酒がお好きなようです」


 流石は愛弟子らしく、師匠の趣味嗜好はおおよそ把握しているようだった。

 意外と言えば意外なレイラの好みに、ララは少し驚いた。


「辛いお酒とか強いお酒の方が好みだと思ってたわ」

「うふふ、レイラ様は全体的に子供舌ですよ。食事よりもデザートの内容の方が気になる人ですから」


 本人の預かり知らぬ所で次々と暴露していくロミに、イールは目を三角にする。

 レイラのことを知らないミルとシアは、二人揃って首を傾げていた。


「それで、神官おすすめの酒とつまみっていうのは何なんだ?」

「そうですねぇ……。それは夜のお楽しみということにしましょう」


 問いかけるイールに、ロミはいたずらっぽく口元に指を添えて言った。

 どうやら随分と自信があるようだと、イールは口角を上げる。


「それで、宴の会場はどこになるの?」


 花貝の部屋か、角貝の部屋か、はたまた別の空室か。

 結局肝心の会場が決まっていないことに気が付き、ララが言う。


「その話なんですが、少し提案がありまして……」


 宿の主であるミルはおもむろに手を挙げて身を乗り出す。


「今日は天気も良さそうなので、近くの砂浜に出てやりませんか?」


 せっかくアルトレットにまで来たのだからと、ミルは言う。

 そういえばまだアルトレットの海を間近で見たことはなかったとララは気付き、表情を明るくする。


「いいわねそれ! 外で酒宴だなんて、開放的で新鮮だわ」

「大体いつもの野営と同じ気もするが……。ま、酒が入ればまた違うか」

「でも、外で騒いで迷惑になりませんか?」


 ロミが不安げに眉を寄せると、ミルは小さな胸をぽんと叩く。


「考えている砂浜は宿のすぐ側にある私有地です。それに、周りに人家もありませんから、大丈夫です」

「良かった。それなら安心ですね」

「砂浜で食事かぁ。昔はちょこちょこやってたけど、最近はめっきりご無沙汰だったわね」


 シアはかつてのことを思いだし、懐かしそうに言う。

 それはミルも思っていたらしく、恥ずかしそうに頭を掻いていた。


「わたしも少し懐かしくなって、せっかくだからどうかなって思って」

「ええ、いいと思うわ。私も賛成」


 結果的に満場一致で会場は野外の砂浜に決定する。

 そうとなれば目下の行動は会場の設営になる。


「せっかく砂浜でやるんですから、バーベキューもしましょう。金網はありますから」


 ミルは個人的な備品として所持している網焼き用の金網を取りに、宿の後ろにある倉庫へと走る。

 そんな彼女を見送って、ララたちを砂浜まで案内するのはシアの役目だ。


「それじゃ、塩の鱗亭の個人海岸へ案内するわね」

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