抜け駆け②
テスト前の最後の授業。
俺はこの日、ある決心をして学校に来た。
それは秋月穂香に自分の気持ちを伝えること。
自分勝手なのは承知だが、伝えないでくよくよするよりも伝えて何もかもスッキリさせたかった。
夏目漱石の小説「こころ」の登場人物である「先生」のようなことはしないと決めていた心が、土壇場で揺らぐ。
朝の登校時から、そのチャンスを覗っていたが秋月穂香が一人になる機会は無いまま最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
結局俺には、この局面を変える手も打つことが出来ないと落胆して教室を出ると、秋月穂香が一人で自習室に向かうのが見えた。
最後のチャンスと思ったが、声を掛けようと一瞬躊躇っているうちに秋月穂香の歩いて行く少し先にある階段から俊介が現れ二人は三メートルほどの間隔で自習室に向かって行く。
俺はただ呆然と立ち尽くし、二人の後姿が自習室に吸い込まれて行くのを見送った。
結局何も出来ないまま、自転車置き場に向かった。
鞄を前かごに放り込みスタンドを外して漕ぎ出そうとしたとき後ろタイヤがガラガラと嫌な音を立てた。
パンクだ!泣きっ面に蜂という言葉が頭に浮かんだが何故か一つも悔しくない。
ただ虚しい思いで、ペシャンコになった後ろタイヤをしゃがんで見ていた。
暫く膝を抱えたままでいると、たまたま通りがかった同じ中学出身の福井がパンク修理キットを持っていたので貸して貰い修理に取り掛かる。
慣れていなかったので結構時間が掛かったが漸く修理が終わりトイレの水道で手を洗って帰ろうとしたところ、急に雨が降ってきた。




