軽蔑していた感情⑦
新しい学年のクラス替えで、秋月穂香と同じクラスになれたことが嬉しかった。
二年生といえば修学旅行もあり、一番活動的な時期だから今まで何も無かった事、出来なかった事だって現実になる可能性はある。
そう信じていた。
そして、今までは只の憧れだった秋月穂香との関係も、なにか特別な事が起きるのではないかと密かに期待していたのに。
それが、どうだろう。
俺は、秋月穂香とクラスメートになった事に喜んでいるだけで、未だに朝の挨拶しかできない。
それに比べて俊介は”秋月穂香からお金を借りた”。
俺には出来ない芸当を親友がいとも容易くした事に驚き、自分の行動力の無さに失望した。
”精神的に向上心の無い者は馬鹿だ!”
夏目漱石の小説「心」の一文が頭をよぎる。
小説は、美しいお嬢さんのいる下宿に住んでいた主人公のところに、親友の「K」も引っ越してきて主人公が思いを寄せるお嬢さんとも、次第に仲良くなってゆく。
ある日その友人「K」からお嬢さんへの気持ちを打ち明けられた主人公は「K」の恋愛感情を封印させるために、この言葉”精神的に向上心の無い者は馬鹿だ!”を使い、そして卑怯にも学校をずる休みして「K」のいない間に、お嬢さんへの愛を打ち明ける。
俺は頭の中でキャストを組んでいた。
☆お嬢さん:秋月穂香
★「K」 :阿久津俊介
★主人公 :俺(進藤公一)
決してハッピーエンドにならないお話。
卑しい感情に苛まれた主人公。
この小説の主人公のように、過去を振り返ったときに疚しい自分があってはならないと思った。




