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軽蔑していた感情⑥
秋月穂香が北門を出て駅のほうに曲がり、俺の視界から見えなくなると同時に部室に本田と三木が入ってきた。
本田は入ってくるなり窓際で休憩して居る俺を見つけると近寄ってきて、いかにも疲れたという感じで窓を背に隣に座ると誰にも聞こえないように小声で鈴木麻衣子は間違いだった事を話した。
「間違いって?俊介から聞いたんじゃなかったの?」
「いや、どうやら三木の推理違いらしい」
「推理違い!じゃあ俊介が借りた相手っていうのは実際誰?」
本田はチョッと辺りを見渡すと俺の耳元に手をかざし小声で、さも周囲の者に聞こえてはマズイという具合に言った。
「俊介が借りた相手は、穂香さん」
本田から名前を聞いたとき驚いて声にならなかった。
”秋月穂香!?”
俺が知らないところで、二人はいつの間にお金の貸し借りをするような関係になったのだろう。
その日は学校から返って塾に行き、遅い夕食を取り入浴し机に着いて勉強をしたが、そのいずれの時間も頭の中を俊介と秋月穂香のことが支配していた。
それは、俺が最も軽蔑していた感情だった。




