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あの子と文庫本④
教室の窓から覗く秋月穂香はいつも文庫本を読んでいる。
俺はゲーム雑誌くらいしか読まないので、本来小説には興味がない。
しかしこうして毎日、文庫本を読んでいる秋月穂香の姿を見ていると、まるで教室の雑踏の中に自分専用の空間を築いているかのような気高さを感じ、最近ではその行為に憧れさえ抱くようになっていた。
”秋月穂香は、いったいどんな本を読んでいるのだろう?”
俺も同じ小説を読んでみたい。
そう考えて、窓越しから秋月穂香の読んでいる本を観察していた。
小さな本なのでタイトルまでは確認できないし、書店で買ってきたらしいものにはブックカバーが覆われていて、それが小説なのかポケット図鑑なのかさえ判別できない。
しかし何日もよく注意して見ていると、その読んでいる本の半分くらいはブックカバーで覆われていなくて背表紙の下側に特徴的な赤い印が付いてあるものがあった。
図書室の本だ。