あの子と文庫本③
次の日から、俺は毎朝秋月穂香のいるA組の前を通って自分の教室に向かう所謂”穂香詣で”を始めた。
わざわざ自転車置き場から、一旦反対側にあるグラウンドを回ってA組の前を通り、秋月穂香を眺めてから自分の教室に向かう。
窓が開いているときは真ん中の席にいる秋月穂香が良く見える。
しかし、閉まっているときは諦めざるおえない。
何日か、この様な事を続けているうちに他にも自分と同じ事をしている生徒が何人もいることに気がつく。
概ね俺と同じ一年生の男子が多かったが、中には噂を聞きつけた上級生も居たし、何故か女子生徒もいた。
秋月穂香の魅力には整った容姿だけでなく、他の人とはどこか違う何か秘密めいた雰囲気を感じさせる物を持っているように思える。
それを言葉でどう言い表せば良いのか難しい。
自分の胸の奥にもうひとつの青く澄み切った魂を隠し持っている様な不思議な印象を感じる。
まるでロールプレイングゲームに登場する妖精。
俺にとっての秋月穂香の存在は妖精だった。
何とかその妖精を捕まえてみたい欲求に駆らた。
登校時間を調べて何回かは学校に早く来て教室の窓から見るだけでなく廊下ですれ違うこともした。
すれ違いざまに「おはよう!」
と、ドキドキしながら声を掛けたとき向こうからも
「おはよう!」
と返されたときには天にも上るくらい嬉しかった。