あの子と文庫本⑬
山岡沙希と出会ってから一週間ほど過ぎた日の朝。
教室に入ると、後ろの席でライトノベルを読んでいる阿久津俊介がいた。
俊介は、俺に気付くと本から目を離したが、俺がチョッと目を伏せたのを確認すると、またその目は本に戻された。
いつもはライトノベルやゲームの話しで盛り上がる気の知れた仲だけど”秋月穂香詣で”を終えた後にはいつも何故か緊張してしまう。
しかし、俊介が秋月穂香とつきあっているとか言う事実も噂もない。
確かに俊介は背も高いし、頭も良いし、高校で部活は辞めたらしいが中学時代は剣道部の主将。
言ってみれば”秋月穂香詣で”をして熱を上げている俺よりは、彼女の彼氏としてはふさわしい。
ところが、俊介は女子には滅多に話かけはしないし、意識的に避けている。
だから安心して俺の秋月穂香話を披露できそうだけど、何故かいつも俊介の前で秋月穂香の話をしてはいけない気がする。
いや、正直言うと俊介と秋月穂香のふたりに何らかの接点を持たす事に対して恐怖すら感じているのだ。
阿久津俊介と秋月穂香。
苗字のイニシャルは共に”AとA”。
イニシャルなんて左程関係ないのは分かっているが、なにか二人には他にも共通する何かを隠し持っている気がしてならない。
そして、いつか二人はそれに気が付いてしまう。
そしてそのときまでに、秋月穂香とどんなに良好な関係を気付きていたとしても”取られてしまう”
そんな恐怖心が付き纏う。
もっとも何の根拠もなく、これは俺の”野生の感”なんだけど。




