第九話 初めての採取系依頼
街の門は夜8時に閉ざされる。
現在、この国は周辺のどの国とも諍いがなく、外部から悪意を持つ者が侵入する可能性は低いため、よほど不審な者以外は素通り状態だ。
まあ、見るからに盗賊っぽいのとかは、冒険者でも止められて職務質問されているが……
時刻は午後3時半、他の冒険者が来ないような遠方まで出かける余裕はない。
俺達は南の門から外に出て、城壁に沿い西へと回り込む。
街道から近いところは取り尽くされているという話だったが、もしかして『灯台元暗し』という状況で、街道から離れた城壁付近はライバルが少ないかも知れないと考えたからだ。
辺りは雑草の生い茂る平原だ。100メートルほど草をかき分けながら進むのに10分ほどかかる。
道がない上に、予想以上の凹凸もある。ひどいとぬかるんでいて足を取られる。
この環境は逆に言えば、人が入っていないので、雑草が生い茂り、道が踏み固められていないとも言えるだろう。
低木が行く手を阻んだり、小さな溝の底に水が流れていてこけそうになったりしながら、ギルドで借りた木札に描かれている植物を探す。
ちょっと行くと木の立て札が立っているところがあった。
俺達は近寄って内容を確認する。
『この先、スライム多数発生の危険あり。
初心者や小さな子供は注意』
なるほど、スライムといえども、戦う力のない人間にとっては十分脅威だ。
「コーター、どうする」
アリーが心配そうにこちらを見る。
俺もアリーも戦闘に特化したスキルは持っていないからだ。
しかし、これは逆にチャンスとも言える。
こんなに近い場所にもかかわらず、ライバルが少ないことにつながるからだ。
魔物を者ともしない冒険者は薬草など集めずに魔物を倒す。
そちらの方が効率よく稼げるからだ。
俺達のような薬草集めをする人間は、スライムといえども危ないので、立ち入る可能性が減る。
俺は決断する。
「スライムなら、飛びつきに注意していれば逃げることは出来るよ。
ここは逆にライバルが少ないかも知れない。
もうちょっと進んでみよう」
「わかったわ」
俺の提案をアリーも了承してくれる。
立て札から100メートルほど進むと、ちょっと大きめの溝の底に水が流れている場所に出る。
溝の近くでは、低木が少なくなり、緑の濃いロゼッタ状の草本類が繁茂している。
どうやら城壁の下から水が流れ出ており、街の排水も流れているようだ。
「アリー、明るい湿地を好むって書いてある傷薬になる草が木札に書いてあったよな。
俺ば持っている中にはないが、そっちにあるか?」
「ええ、その生育条件だと、主立った薬草1種類と、稀にあるかも知れない希少価値の高い薬草が1種類ね。これよ」
そう言うとアリーが持っていた木札の中から2枚を取り出し見せてくれる。
「ここでちょっと探してみないか」
「そうね、このどぶ川の周辺は、ちょうど条件に合うわね」
俺達は草を注意深くかき分けながら、薬草を探す。
ここは街道から300メートルほど城壁に沿って入り込んでおり、立て札の影響もあってか最近になって人が踏み込んだ形跡は全く無い。
探し始めて1分もしないうちに、アリーから声がかかる。
「ねえ、コーター。
これ、希少な薬草って書いてあったヤツじゃない」
俺はアリーが探していた場所へ移動し、一緒に確認する。
「どれどれ、中央の主幹が20センチくらい伸びたところで枝分かれするとき5本に分かれてるな。
葉っぱの形も鋸歯がなく楕円形に近いものだ。
小さなな葉っぱが5葉で一枚の大きな葉っぱになっている。
確かに似ているな。
取りあえず、採取しよう」
「ええっと、根元から取っちゃうとなくなるから、次も収穫するつもりなら、5つに分かれているところの上を5本のうち3本まで取るように書いてあるわね。
そうすれば、また成長して先端が5つに分かれて大きくなるって」
「なるほど、わかった。
3つまで枝を取って2つは残そう」
俺とアリーは採取の仕方を確認すると作業に入る。
この薬草は、解熱の薬理作用が強く、少量でも効果を発揮する、
ひと枝から取れる薬が10人分くらいになるそうで、500ギルで売れる。
もし本物なら、3本だから1500ギルだ。
薬草をアリーの持っていた布袋に入れ、俺達は薬草探しを再開する。
するとまたアリーが何かを見つけた。
「ねえ、コーター。
これって傷薬になるヤツじゃない」
アリーのところに行ってみると一メートル四方ほどのところに高さ30センチほどの菊の葉っぱに似た緑の濃い草が生い茂っていた。
こちらも間違いなく木札に書かれているものようだ。
「アリー、すごいな。
これも間違いなさそうだ」
「そう、よかったわ。
これは先端のやわらかいところを摘むみたいね。
しばらくすると下から枝分かれしてまた採取できるみたい」
そう言うとアリーは一心不乱に薬草の上部7センチほどを摘み始める。
この薬草は比較的よくあるので、先端部分1本で5ギルにしかならないが、これだけ生い茂っていれば100本はあるだろう。
今までのところ、俺は一本も見つけることが出来ていない。
ちょっと悔しい。
俺は一生懸命薬草を摘むアリーに背を向けて、別の薬草を探し始める。
ちょっとするとアリーがビックリしたような声を上げる。
「えっ!?
レベルアップ?」
「どうした、アリー」
俺が駆け寄るとアリーは驚いた表情をこちらに向ける。
「コーター、何故か料理スキルがレベルアップしたの……」
薬草を摘んでいて、レベルアップって確かにおかしい。
俺も不思議に思っているとアリーが続ける。
「しかも、スキルが派生したって……」
「えっ!?」
今度は俺も驚いた。
旅先からの更新です。