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第七話 効率2倍!

今回は比較的普通です。

主人公はスキルを使いません。


 アリーと役場に着くと、昨日と同じ頭の毛が寂しい男性職員が対応してくれる。

「おお、コーター君、今日も引き受けてくれるのかい」

「はい。今日は幼なじみのアリーと2人で2台の荷車を使いますから、効率も上がると思います」

「おお、それは助かるよ。

 西地区の残りが終わったら、次は南地区を頼む。

 ワシは清掃課長のゲーハという。

 報酬を用意しておくから、一回ごとにワシを呼んでくれ」


 俺達はゲーハさんから荷車を借り受けると、まずは昨日の続きの場所へと出かける。

「アリー、昨日の娼館の裏通りから始めるけど大丈夫か」

 昨日の顛末を気にしてアリーに声をかける。


「ええ、問題ないわ。

 午前中の早い時間は、あの辺りはどのお店も営業していないから大丈夫よ」

 どうやらアリーは精神的に強いようだ。

 いや、昨日の経験が彼女を強くしたのかも知れない。


 俺達は何事もなく作業を進め、3往復する頃には西地区裏通りの清掃活動は終了していた。

 荷車6杯で48000ギルだ。


 3回目の糞尿を役場の糞尿処理施設に届けるとゲーハさんが待っていた。

「おお、予想どおり速いペースだね。

 そろそろ西地区は終わったんじゃないか」

「はい。これで西は終わりです」

「それじゃあ次は南地区の公園周辺の路地を中心に頼むよ。

 こちらは馬車や牛車の通行量が西ほど多くないから、おそらく3往復くらいで終わるだろう。

 行き方はこの板に書いておいた」


 俺達はゲーハさんから南地区の地図が黒インクで書かれた地図を受け取る。

「ゲーハさん、南地区に行く前に昼飯を食べることが出来るところによりたいんですがお勧めはありますか」

 俺は午前中の三往復でちょうど昼時となっていることから、ゲーハさんに聞く。


「そうだな、荷車をもって寄れるとなると屋台なんかでテイクアウトできるものが中心だろうから、この市役所裏の中央広場辺りがお勧めかな。

 そこなら、ここに荷車を一旦返却して、食事が終わってからもう一度荷車を借りればいいからな」


「わかりました、そこにいってみます。

 ありがとうございました」

 俺達は礼を言うと、午前中の仕事料の48000ギルを握りしめて、市役所裏の中央広場へ歩を進めた。


 中央広場はテントで食材を売る人や、屋台で軽食を売る人など様々な人が商売をしている。

 俺達は、取りあえずぶらぶら歩きながら、めぼしいものを物色する。

「アリー、何か食べたいものはあるか」

「あたしは、コーターと同じものなら何でもいいよ」

「俺も、アリーと同じものなら何でもいいよ」

「フフッ、こうしてるとなんだかデートみたいね」

 2人で歩くのは昨日からずっとだが、こうして余裕を持ってのんびり歩くのは初めてかも知れない。

「そう言われるとそうだな……

 これが俺達の初デートかな」

 言ってしまってなんだか照れてしまう。なんだか顔が熱い。

 隣を見ると、アリーも顔を赤くしていた。


「初デートなら何か思い出に残る美味しいものを食べたいな」

 俺が言うと、アリーは少し立ち止まって周りを見回し考えているようだ。

「そうね。

 それなら、あそこのパンを売っている店と向こうのお総菜を売っている店で何か美味しそうなものが無いか探してみましょう」

 俺はアリーが指さした店を確認し、頷く。二軒ともさっき通ったとき、美味しそうなにおいをさせていた。

「わかった。じゃあまず近い方から行こう」

「ええ、パン屋さんからね」


 2人でパンを売っている屋台に行くと、売れ行きが好調なのか残りの商品が少なくなっていた。

 丸顔の中年女性に声をかける。

「すいません、お昼用のパンが欲しいんですが」

「あっ、いらっしゃい。

 実はもうあまり残っていなくてね。

 後、一時間くらいすれば焼き上がった新しいパンをうちの人が持ってきてくれるんだけど、今は菓子パンも総菜パンも売り切れて、ここにあるバゲットとそっちのテーブルロールだけなんだよ」

 おばちゃんの説明では、テーブルロールは小型のやわらかいパンで、バゲットは表面がちょっと硬いしっかりとした大型パンだ。

 テーブルロールはそのまま食べることもできるが、ジャムもバターもついていない。

 バゲットはスライスして何かを挟むといいらしいが、こちらも挟む食材が今は売り切れだ。


「それなら、その両方を少しずつ下さい。

 おかずは向こうの総菜屋さんで探します」

 アリーはそう言うと、テーブルロール2個と、バゲット1個を購入する。

「ハイよ。

 テーブルロールが2個で30ギル、バゲットが70ギル、あわせて100ギルだよ」

 俺達はおばちゃんに代金を払うとパンを腰につけていた布袋に入れ総菜屋へ移動する。

 この布袋は、何か小道具や買い物をしたときに使うため、いつもベルトにつけて持ち歩いている。


 総菜屋に到着するとこちらもよくはやっているのか、商品が残り少ない。

「こんにちは、パンに合いそうなおかずが欲しいんですが」

 アリーが初老の女性に声をかける。

「いらっしゃい。

 今日はよく売れちゃってね、今、追加の料理をうちの爺さんが作りにもどっているけどもう少しかかりそうだね。

 今あるのはそこの鳥肉の照り焼きと豚肉スライスのショウガ焼きくらいだよ」

 お婆さんの説明では、野菜料理が売れてしまい、肉しかないそうだ。


 アリーは少し考えると周囲をきょろきょろ見回す。

「それなら、その豚のショウガ焼き2枚と、鳥もも肉の照り焼きを1枚ください」

「アイよ。

 ショウガ焼き2枚で100ギル、鶏もも肉も100ギルであわせて200ギルだよ」


 アリーは大きなバランの葉っぱに包まれた総菜を受け取る。


「アリー、肉ばっかりになっちゃってるけどいいのか」

 バランスの悪さに俺が聞くとアリーはニコニコしながら答える。

「大丈夫よ、今こそ私のスキルが役に立つときだから。

 後一軒行くわよ」

 そう言うとアリーは後ろのテントで野菜を売っているところに行く。


「アリー、加熱できる調理器具なんてないぞ」

 俺の心配をよそに、アリーはレタスのような葉物野菜を100ギルで購入し、広場の空いているベンチへと俺をいざなう。

「大丈夫よ、まかせて」


 そう言うとアリーは懐から愛用の包丁を取り出し、袋から先ほど購入したバゲットパンを鮮やかな手つきでスライスする。

 続いてレタスのような葉物野菜を適当な大きさにちぎると、近くにあった公園の水飲み場で手早く洗う。

 続いて鶏もも肉を薄切りにし、スライスしたバゲットに野菜とともに挟む。

「はい、コーター、即席の鶏肉サンドよ。

 食べてみて」

 素晴らしい手際だ。


「アリー、こんなに包丁の使い方上手だったっけ?」と聞くと、

「あら、私のスキルを忘れたの?

 スキルをもらってから、こと調理に関することは腕が上がったと思うわ。

 この一週間、うちのご飯はお母さんより手際よくなった私が作っていたのよ」と

 成長し始めた胸を張って答えてくれた。


 鶏肉も、パンも美味しいものだったが、アリーの葉物野菜とのバランスが絶妙で、その美味しさが一層引き立つ。

 俺が食べ終わった頃には、テーブルロールに切れ目を入れて、レタスと豚のショウガ焼きを挟んだものができあがっており、こちらも美味しくいただいた。

 バゲットパンは大きかったので2人で食べても半分ほど残ってしまったが、これはまた後でいただくことにする。

 俺達は短い昼休みを切り上げ、再び荷車を引いて道路の清掃にもどるのだった。







次回「初めての採取系依頼」

お楽しみに!

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