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第五話 空も飛べるはず!?

本話では、主人公とヒロインが未だかつてないくらいうんこまみれになります。

笑える方は笑っていただきたいのですが、苦手な方は本話該当部分を読み飛ばしてください。


 時刻は夕方6時を周り、辺りは誰刻たれどきの夕闇に包まれる中、

俺の荷車は本日5回目の糞尿満杯状態を迎えつつある。

 現在位置は西の裏通りの中ほどだ。

 この調子なら、明日の昼過ぎにはこの通りの糞尿を綺麗に始末できるだろう。


 本日最後の荷を役場に持ち込もうと荷車の方向を変えようとしたとき、すぐ隣の建物から罵声が聞こえた。

「だから、やらないって言ってるでしょ!

 あたしは料理人としてここに来たのよ」


「この声は、アリー……」

 扉の向こうから聞こえてきた声は、間違いなく昼に19時の再開を約束して一旦分かれた幼なじみのアリー・ポルトのものだった。


 俺は迷わずその木戸を開けて内部へ押し入る。

 糞尿の詰まった荷車は、そのまま入り口の外へ放置だ。


「アリー、どうした。

 大丈夫か」

 俺が入ったのは裏口だったらしく、厨房と思わしきその場に、アリーの他、見知らぬ男が数人、仁王立ちしている。


「コーター!

 聞いてよ、こいつらあたしに娼館で客を取れって言うのよ」

「なっ、何だって!?」

 俺はアリーの言葉に驚く。


「一体どういうことだ」

 俺は体格差をものともせず、代表らしき頭のてっぺんが涼しくなった脂ぎった小デブ男に聞く。


「何だ、このガキは?

 引っ込んでろ」

 男は怒鳴る。


「俺はアリーの幼なじみのコーターだ。

 アリーにひどいことしたら許さないぞ」

 俺の言葉を鼻で笑うと、脂ギッシュな男は見下した視線で説明を始める。


「俺はエーロイというこの辺りの元締めだ。

 この娼館も経営している。

 行商人のアコーギに金を渡して適当な女を集めるように言っておいたのだが、今日の昼間、この女がアコーギの紹介状をもってここへ来たって分けだ。

 ここは飯も食えるが、本業は娼館だ。

 ここで働くってことは、料理だけじゃなく娼婦としても働くということなのさ。

 わかったら帰りな」


「だから、あたしは娼婦にはならないって言っているでしょ」

 アリーが男の言葉に切れる。


「うるせえ、俺はアコーギに少なくない金額を払っているんだ。

 おとなしく今日から客をとりな」

 男の言葉にアリーは一歩も引かない。


「そんなことならここでは働かないわよ!」


「お前にはアコーギに払った分も働いてもらわなきゃならねぇんだ。

 我が儘言ってるんじゃねぇよ」


「そんなお金アコーギから取り返しなさいよ。

 あたしは知らないわよ

 行こう、コーター」


「まて、今出て行けばお前が今日働いた料理人としての給料もパーだぞ」


「娼婦をさせられるくらいならそんなものいらないわよ!」


「お前ら、今日泊まるところもないんだろ。

 そのまま道で寝たりしたら、それこそひどい奴らに襲われるぞ」


「それは俺が何とかするよ」


「ガキが、今日来たばかりで2人分の宿代を持っているって言うのか」


「ああ、今日稼いだからな。

 行くぞ、アリー」


 俺はそう言うと、アリーと手をつなぎ入ってきた裏口から娼館を後にする。


 娼館の連中はその場で追ってくるようなことはないようだ。

 俺は、少し安心する。

「アリー、大丈夫か」

「ありがとう、大丈夫よコーター

 それより、どうして都合よくここに来られたの?」

「ああ、俺の作業場所がたまたま娼館の裏通りだったんだ。

 アリーの声が聞こえたんで慌てて飛び込んだのさ」

 俺はアリーの疑問に答える。


「そう……

 すごい偶然ね。

 やっぱり私たち、何か運命でつながっているのかな」

「ああ、俺もそんな気がするよ。

 それより、集めたゴミを役場まで返す作業が残っているんだ。

 一緒に来てくれるかい」

「もちろんよ」


 俺達は2人仲良く手押し車を押しながら、役場を目指す。

 辺りはすっかり日も落ちて、夜のとばりに包まれている。


 娼館から一方通行の道を少し進み、右折して反対向きの一方通行の道へ移動しようとしたときそれは起こった。


 突然前後を複数の男達に挟まれたのだ。

 ここはスラム街も近く、治安もあまりよろしくはないが、夜とは言えそれほど遅いとは言えないこの時間帯に、そのような不埒な輩が出てくるという情報はなかったはずだが、今俺達は合計で10人ほどの薄汚い男達に囲まれている。


「おい、兄ちゃん。

 この道は有料道路だ。

 別に命までは取ろうとはいわねえ。

 来てるもん全部脱いで、女をおいていけ」


 どうやら追いはぎ強盗のようだ。

 男達は手に手にナイフや棍棒を持ち、時折アリーの方を見ながらニヤニヤしている。


 一難去ってまた一難とはこのことだ。

 狭い人通りのすかない路地で前後を完全に挟まれている。


 このまま奴らの言いなりになれば、俺は身ぐるみ剥がされ、アリーは奴らの餌食になることが確実だ。

「コーター……」

 アリーが少し震えながら俺の背中に隠れ、袖口を掴んでくる。


「げへへ、早く姐ちゃんを置いて服を置いて消えな」

 一際大きなナイフを持った男が舌なめずりをしながらジリジリと近寄ってくる。


 俺は必死に考える。

 俺だけではなく、アリーも無傷で助けなければ意味がない。

 一瞬ジャーク達をやったときのことが脳裏をかすめるが、流石にこれだけの人数だと、俺の『うんこ』スキルで奴ら全員を行動不能にすることは出来そうもない。

 冷静に判断すれば、最初の1人か2人をやったところで、俺が奴らのナイフにやられてしまうのは当然の結末だろう。


 どうする。

 俺は周囲を見る。


 俺達の手元には、荷車と、荷車いっぱいの馬糞、牛糞。

 掃除用のスコップとデッキブラシ。

 掃除用の水は俺のスキルがあればいらないだろうと言うことで、今回は荷車に積み込まず、その分たくさんの糞尿を乗せている。

 武器になりそうなのはスコップとデッキブラシだが、格闘用のスキルがない俺達では、まずごろつきどもに叶わない。


 万事休すのか……

 俺が絶望に沈みかけたとき、後ろからアリーのか細い声が聞こえる。

「コーター、あたしがおとりになるから、その隙に警備の人を呼んできて……」


 アリーが必死の覚悟で言った言葉で俺の脳みそはフル回転した。

 そして絶望の中で、更に絶望的な考えがひらめく。

 この考えは最悪だ。

 人間としての尊厳を著しく損ないかねない。

 しかし、ここでアリーを奴らの餌食にするくらいなら、アリーと一緒に地獄へ落ちる方がマシだ。

「ダメだ。そんなことしたらアリーがひどい目に会う。

 アリー、俺を信じてくれるか」

 俺は決意を込めてアリーに言う。


「ええ、もちろん信じるわ

 どうすればいいの」

「俺が合図したら素早く荷車の中に飛び乗って、膝だちになって右側は俺と肩を組み、左側は荷車の端の鉄パイプをしっかりと掴むんだ」

 アリーがその言葉を理解して、息を飲むのがわかった。

 俺の言う通りにすれば、荷車いっぱいの馬糞・牛糞の中に膝立ちで座ることになる。

 馬糞や牛糞は硬い古いものばかりではない。

 むしろ新しくてやわらかいものの方が多い。

 そんな中に座れば、足から順に糞に沈んでしまうのは自明である。

「やれるか」

「ええ、やるわ。コーターを信じる」

 アリーの言葉を聞くとすぐに、俺は合図を出す。


「3、2、1……今だ」

 俺とアリーはすぐさま馬糞・牛糞が満載された荷車の中央に飛び込み、肩を組んで膝立ちになる。


 男達はあまりにも理解不能な俺達の行動にしばし呆然と固まる。

 チャンスだ。


 俺は進化した『うんこ操作』を駆使して、荷車の中の全ての糞を上方移動させた。


 瞬間、荷車がゆっくりと浮かび上がる。

 上へ移動する糞が、俺達ごと荷車を持ち上げる。


「「「「あっ」」」」

 気がついた男達が荷車を止めようと駆け寄るが、俺は糞の一部を操作して、近くにいる奴から順に、目つぶしする。

 しかも、とびっきり新しそうなヤツでだ。


 馬糞、牛糞が目に入ったヤツは行動不能になる。

 その隙に俺達は奴らの手が届かないところまで上昇することに成功した。


「「「「降りて来やがれーーーー」」」」

 男達の絶叫が聞こえる。


 逃げ切れたかと思ったのもつかの間、俺は非常にまずい状況になっていることを自覚する。

 現在、浮力を持っているのは糞だ。

 俺達は足下の糞に押し上げられることで空中に留まっている。それは荷車も同じだ。

 今、俺達が荷車を離せば、糞だけ置いて荷車は落下することだろう。


 糞は硬いものばかりではない。

 やわらかい流動性に富んだものの方が多いのだ。

 必然、俺達を置いて、糞だけが上昇しようとする。

 俺達は既に腰まで糞に埋もれている。これは飛び始めてから今までの間に、俺達の足下にあった糞が、その流動性故、俺達を置いて上昇しようとしていることの副次効果だ。

 このままではやがて腹まで糞は到達し、胸、首、頭と来た後は、俺達を置いて上空へ移動してしまうだろう。

 そうなれば、浮力の元の糞を失った俺達は、ゲスな野郎どもが待ち構える下の路地へ、荷車もろとも落下することになる。

 もちろん、俺から2メートル以上離れた糞も、スキルによる浮力を失い、俺達を追って降り注ぐであろう。


 まずい。どうする。

 糞は既に俺とアリーの胸部にまで到達している。


 アリーの顔が、徐々にせり上がってくる糞のせいでゆがむ。臭いのだ。


 俺は焦る。

 首まではまだいい。

 しかし鼻まで到達すれば、俺もアリーもこの世で一番呼吸に使いたくないものを肺に吸い込み、むせかえってしまうだろう。

 考えろ、俺!


 この絶望的な、状況で、またまた更に絶望的なひらめきが俺の脳裏をかすめる。

 これか……

 これしかないのか……

 しかしこれはあまりにも気持ちが悪いこと、確実である。

 しかし、刻の猶予はほとんどない。


 やれ、コーター!

 やるしかないんだ。


 首まで到達した馬糞を前に、俺は覚悟を決める。

「すまん、アリー

 しばらく我慢してくれ」


 俺は発動するスキルを調整して、上昇いていた糞を循環させた。

 俺達の胸部より上に来た糞は、体から少し離したところで下方へ移動させ、再び俺達の足下へと移動させる。

 俺達の足下の糞は上昇を続けさせる。

 いわば、糞の対流をもって飛行を継続させたのだ。

 下へおろす糞より、上昇させる糞を増やすことで更に硬度を稼ぐ。


 糞に横向きのベクトルを加えることで、水平移動も可能とする。


 しかし、これには予想どおりの……

 いや、予想以上の気持ち悪い感触が付随した。


 俺達の体を、糞が撫で回す感覚……

 理解いただけるだろうか。

 糞の浮力を俺達に伝えるには、糞と俺たちの間で摩擦力が発生しなければいけないのだ。

 上昇する糞が体をこさいでいく……

 ズボンではなくスカートをはいているアリーの苦痛は俺以上だろう。すまん、アリー……


 一部の人に取ってはご褒美かも知れないが、あいにくと俺にはそのような性癖はない。

 ふと横のアリーを見ると、綺麗な瞳に涙をたたえて上目遣いでこちらを見ている。

「すまん、アリー……」

「コーター……

 あたし…………、新しい世界に目覚めちゃいそう…………」

 やばい。

 あまりの状況にアリーがいけない世界の扉を開いてしまいそうだ……

「頑張れ、アリー!

 それは進んじゃいけない世界へ続く道だ!」

「うん、コーター……

 あたし頑張る」


 弱々しげにささやくような声で話すアリーを励ましながら、俺達は首まで馬糞まみれの状態で、荷車に乗って空を飛んだ。


 かくして、俺達は窮地を脱した。

 しかし、前回以上の糞まみれに二人してなってしまったのだ。


 役場に着いた俺達は、誰にも見られないうちに俺のスキルを使って俺達に付着した糞を荷車へともどす。

 スキルによって根こそぎ糞はなくなったが、あの記憶だけは消すことが出来ない。

「アリー、すまなかった」

「ううん、いいのよコーター。

 貴方の選択しかなかったと、私にもわかるわ」

 俺とアリーは誰にも言えない2人だけの秘密を、そのトラウマとともに一生抱えることとなった。







また評価していただいた方、ブックマークしていただいた方が増えたようで恐縮です。

ありがとうございます。

明日の分までプロットを考えました。

6話は明日投稿します。

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